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景気・改革・シンクタンク

加藤秀樹構想日本 代表

安倍政権発足と「黒田効果」で景気の先行きが一気に明るくなった。金融の大幅緩和とインフレターゲットには賛否いろいろあるが、経済に明るさが出てきたのは何よりだと思う。高価なブランド品の売上げが上向いてきたと言われるが、株価上昇とはあまり縁のない庶民レベルでも、スーパーや居酒屋を見ると何となく以前よりにぎわっているように見えてくる。

財布のヒモが緩んでくると、世の中の空気も緩んでくる。真っ先にマスメディアが、原発事故などに関して問題が起こっても、政治や行政の責任に言及しなくなった。TPPや規制改革についても、反対の声が小さくなったように見える。

これはチャンスだ!!今からしばらく、こうして世の中がおおらかになっている間が、様々な改革を進める絶好の機会なのだ。農業、医療、年金、地方分権、財政などどの分野も改革はほとんど進んでいない。前政権も初めは威勢が良かったが、途中からすっかり腰くだけになってしまった。マスメディアも過去5年以上、政治や行政の揚げ足取りに終始して、政治が腰を据えて改革に取り組む環境づくりにはほとんど貢献しなかったと思う。今の寛容な空気がどれくらい続くのか分からないが、この雰囲気がしぼむと、また、世の中すべてが縮み指向になり、本格的な改革どころでなくなるだろう。

ここでは改革の中身については触れないが、「改革の進め方」と一般人とりわけネットユーザーの役割についてこの記事の読者に期待とお願いを込めて呼び掛けたいと思う。それはネット上でこうやって社会のことを読んだり、書いたり、議論したりしている我々が、ネットを中心に大いに動き、政治家を動かそうではないかということだ。私がこんな呼びかけをする理由は、まず、ネット上でニュースを見たりソーシャルメディアで情報交換をしているのは相対的に若い世代が多く、今、日本の改革を進めなければ、ツケはその世代に大きくのしかかっていくからだ。自己防衛、自分の利益のためにも、まずはネット上で動こうということだ。次に、ネット選挙の解禁やフェイスブック上での安倍総理のやりとりに見られるように、政治がネット上での世論の動きに敏感になってきたことだ。

政治家、官僚、経済団体、労働組合、学者、その他の民間団体など政策や政治の主要プレイヤーの関係性や役割はここ20年ほどの間に大きく変わった。今や高度経済成長時代の経営者か労働者かといった大括りの利害を代表する団体が政治を動かす時代ではない。経済団体や労組など既存の団体の多くは経済や社会の変化に十分対応できず、存在感が小さくなっている。他方で福祉、教育、インフラなど多様になった国民のニーズに応えるべく、ここ10年余りの間に様々なNPOの活動が盛んになっている。そして、小規模のニーズを現場近くで支援する数多くのNPOがネット上でも活発に発信している。彼らの活動や発信内容は、身近で具体的なだけに一般の人の共感を得やすく、無視しえない「社会の声」になりつつある。主要先進国と呼ばれてきた欧米諸国において、失業や格差拡大に対して現在の政治のしくみがうまく対応できず、大規模な暴動や長期にわたる座りこみなどが起こっている。さらに、ソーシャルメディアなどを使った、ネット上での情報交換、意見のぶつけあいは「アラブの春」の例を引くまでもなく、社会や政府に大きい影響力を持つに到り、政治の側もそれを利用するようになった。この傾向は今後さらに強まるだろう。このような世界的傾向を見ても、NPOや一般の人たちとネットの組み合わせは、世論形成において益々大きい影響力を持ってくるだろう。

最後に、このような時代における「日本型」シンクタンクのあり方、構想日本の活動について少し述べてみたい。

従来、シンクタンクというとアメリカ型がお手本だった。政策の理論や制度研究を行い、それを政治の世界や社会に対して発信していくというものだ。この機能が不要だというわけではない。しかし、今や、従来の「福祉国家」そのもののあり方や国と国との関係など、大きい枠組みそのものが問われている。そして、その変化の兆しは現場で多く顕れている。

だとすれば、生活の現場に近いところで日々起こっている問題、そこから発信される情報、意見を注視することはとても大事なことだ。既存の理論から政策を考えたり、制度の手直しをしたりするだけでなく、この現場のリアリティをどう政策に作り上げていくか、構想日本はこれまでもそのことに力を注いできたが、今後はさらにこの点に集中していきたいと考えている。また、「日本型」シンクタンクと呼べるものを考えるとすれば、この現場の個々の問題を拾い、それを政策に紡ぎ、同時にそれを現場にフィードバックしながら世論形成を図り、政治を動かす、という活動が中心になっていいのではないか。

東浩紀氏や津田大介氏は政治や政策以前の国民の気持ち、ニーズをすくいとるツールとしてネットは大変有効だと述べている。そして東氏は国民、大衆の声である「一般意志」と国民に選ばれた専門家である(はずの)政治家による熟議の二本立てでこれからの民主主義を考えていくべきだと述べている。私も彼らの意見に賛同する。そして構想日本は一般意志と政治家による熟議の間に立って、それらが相互に上手く噛み合いながら高品質の政策が作られ政治が良くなっていくための機能を一生懸命果たしていきたいと考えている。

なお、4月25日18:30からのJIフォーラムでは、このようなシンクタンクの役割、これからの構想日本の活動について大いに議論したいと考えている。

構想日本 代表

大蔵省で、証券局、主税局、国際金融局、財政金融研究所などに勤務した後、1997年4月、日本に真に必要な政策を「民」の立場から立案・提言、そして実現するため、非営利独立のシンクタンク構想日本を設立。事業仕分けによる行革、政党ガバナンスの確立、教育行政や、医療制度改革などを提言。その実現に向けて各分野の変革者やNPOと連携し、縦横無尽の射程から日本の変革をめざす。

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