『M-1 2023』トップバッター優勝・令和ロマンに付けた審査員・松本人志の「90点」の重さ
漫才のナンバーワンを決める『M-1グランプリ2023』が12月24日に開催され、ファーストラウンドでトップバッターをつとめた結成5年目の令和ロマンが19代王者に輝いた。
『M-1』のファーストラウンドでは、「トップバッターが不利」とされている。実際、1番手が最終決戦へ進んだのは2005年の笑い飯(決勝2位)以来。優勝となると2001年の初代王者・中川家だけということもあり、『M-1』史上に残る快挙となった。
ほかの過去大会の1番手の成績を振り返ってみると、2002年のハリガネロックが5位、2003年・2004年の千鳥が9位、2006年のPOISON GIRL BANDが9位、2007年の笑い飯が5位、2008年のダイアンが6位、2009年のナイツが4位、2010年のカナリアが9位、2015年のメイプル超合金が7位、2016年のアキナが5位、2017年のゆにばーすが8位、2018年の見取り図が9位、2019年のニューヨークが10位、2020年のインディアンスが7位、2021年のモグライダーが8位、2022年のカベポスターが8位となっている。
ファイナリストが9組でおこなわれていた2001年から2010年まで、1番手の決勝最下位が4度もあったことから「『M-1』トップバッター不利説」が定着していった。
審査評とは裏腹に低く思えた松本人志の「90点」
ただ令和ロマンは、今大会のキャッチコピーを借りるならトップバッターから「爆笑が、爆発した」という感じだった。
実際、令和ロマンに対する審査員の点数は、礼二(中川家)が94点、海原ともこ(海原やすよともこ)が94点、塙宣之(ナイツ)が93点、富澤たけし(サンドウィッチマン)が94点、博多大吉(博多華丸・大吉)が91点、山田邦子が92点と全体的に高めに採点された。
一方で意外だったのが、審査員の松本人志(ダウンタウン)が「90点」を付けたことである。これはさすがに、ウケ方に対してあまりに「低い」と思えた。ただ、松本人志は「これは審査員泣かせですね。一発目でこんなにウケられると」と苦心し、その後の点数の振り分けも考えて「90点」を付けたと語った。
ちなみに松本人志は2020年の1番手のインディアンスに90点、2021年のモグライダーに89点、2022年のカベポスターに90点を付けている。近年特に「トップバッターは90点付近」という自分なりの基準を確固たるものにしている。令和ロマンに対してもその姿勢は変えずに「90点」を付けたのだ。
1番手・令和ロマンの出来の良さが、後続の点数の伸びを許さなかった?
ただ結果的に、松本人志が令和ロマンに対して付けた「90点」は例年になく重い意味を持つ数字となった。
今大会全体を通して松本人志が付けた最高得点は、ヤーレンズへの「93点」だった。点数の付け方がしっかり定まっていなかった2001年大会、2002年大会を除くと、松本人志にとってもっとも低い最高得点になる。そのため決して高得点とは言えない「90点」でも、それほど点数に開きがでなかった。
これはつまり、令和ロマンがトップバッターとして出来が良すぎたことをあらわしているのではないか。松本人志はこの日も間違いなく、トップバッターの令和ロマンを「基準」に審査していた。その証拠となったのが、さや香への「89点」だ。松本人志はここで「令和ロマン(の点数)は超えていない」と採点について説明していた。
松本人志の頭のなかにはずっと令和ロマンの「90点」があった。そして本来であれば、中盤以降の出番のコンビは“松本人志点”をもっと伸ばせていたはずが、この日の令和ロマンの存在が後続の点数の伸びを許さなかったと分析できる(それは松本人志に限らず審査員全員がそうだったかもしれない)。
この「90点」という数字がある意味、点数幅に制限を持たせたように映った。
令和ロマンの点数に対して松本人志「80点台はあり得ないと思いました」
松本人志は令和ロマンの点数に関して「あまり高いのを付けちゃうと上がなくなっちゃうんで」とあくまで全体的なバランスを考慮したとも話していた。続けて「ただ80点台はあり得ないと思いましたね」とコメント。松本人志は、自分の中で80点台と90点台には評価の線引きとして明確な違いがあることを示唆した。
松本人志は例年通り、トップバッターへの点数として自身の“ルール”に則って「90点」を付けた。単純に点数として見れば飛び抜けて高いものではない。そしてしっかり令和ロマンを基準として判断していった。ただ、そのあとの最高得点が「93点」であること、そして「80点台と90点台には線引きがあること」などから推察するに、令和ロマンへの「90点」は様子見の域を超えていて、以降のコンビへの採点にも大きな影響を及ぼすなど“額面上”の数字以上に重い意味を持ったように思えた。
なにより松本人志は『M-1』において「90点」という数字を非常に重要視していることが、今回の採点で改めて分かった。