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「燃料がなきゃ意味ないだろ!?」金正恩の"トラクター愛"にシラケ顔の北朝鮮国民

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏(朝鮮中央通信)

北朝鮮の金正恩総書記は、北部の両江道(リャンガンド)の各市、郡にトラクターを送り、恵山(ヘサン)市の芸術劇場前では4日にトラクター伝達集会が行われたと、国営の朝鮮中央通信が6日、報じた。

夏は清涼、冬は極寒で、2000メートル級の山に囲まれ平地の少ない両江道では、稲作がほとんど行われていない。その代わりに盛んに栽培されているのがジャガイモだ。

勝手に牛を食べ…

金正日氏は、大飢饉「苦難の行軍」の真っ只中にあった1998年、「ジャガイモ革命」なるものをぶちあげた。これは、北部山間地帯を開墾して大規模ジャガイモ農場を建設して食糧難の解決を図ろうとしたものだ。結果は大成功。ジャガイモは両江道を代表する農産品となっている。

さて、今回のトラクター導入だが、冷めたリアクションを示す農民が多いという。現地のデイリーNK内部情報筋が、現地の世論を伝えた。

「トラクターの稼働に必要な燃油が供給されなければ、実質的には大した助けにならない」(情報筋)

現地の農場ではトラクターがあっても燃料や部品の不足により活用できないことが多かった。結局、農耕用の牛を使ったり、人の手で直接やったりすることになり、無用の長物と化している事例も少なくないという。なお、北朝鮮で牛は、国家財産の生産手段として扱われ、勝手に食べて処刑された人々もいる。

(参考記事:北朝鮮の15歳少女「見せしめ強制体験」の生々しい場面

ジャガイモ革命の発祥の地、大紅湍(テホンダン)郡の農民はこう述べている。

「大紅湍郡は両江道でジャガイモ栽培面積が最も多いのに燃油があまり供給されず、農作業のほとんどを人力で行ってきた。燃料が供給されなければトラクターがあっても助けにならないじゃないか」

甲山(カプサン)郡の農民もこのように述べた。

「機械があっても燃料がなければ(トラクターは)無用の長物なのだが、燃料が供給されるという話がない。それでまず頭に思い浮かんだのは『トラクターのせいで人がさらにこき使われる』ということだ。元帥様(金正恩氏)の愛に報いなければならないと、人を牛のようにこき使おうとするためゾッとする」

トラクターを受け取ったことで、それに見合った成果が求められる。だが、燃料もなければ、肥料などすべてのものが不足した状態で結果を出すことが求められる。それができなければ、責任を追求されたり、処罰を受けたりする。

情報筋は、ガソリンの供給について特段の指示が下されておらず、トラクターが役に立つのかどうかはもう少し様子を見なければわからないと述べた。だが、農民の望む「満額回答」は期待薄だろう。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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