「社長、安~い」でおなじみの製品が北朝鮮で脚光を浴びる理由
少し言葉に訛りのある社長と女性歌手のやり取りが大人気の通販CM。そこでポータブル多機能プレーヤーとして取り上げられている商品がある。テレビを見られるうえに「シーデー」や「デーブイデー」の再生、録音、録画ができるすぐれものだ。
これと非常に似通ったデバイスがかつて北朝鮮でも人気だった。「ノートテル」という名前で呼ばれ、ご禁制の韓国ドラマ、映画を見るにはこそっと見るにはちょうどよかったためだ。しかし、メディアが次第にVCDやDVDやらUSBメモリーに変わり、取り締まりの際に隠しきれずに摘発されてしまう例も相次ぎ、徐々に姿を消していった。
(参考記事:北朝鮮の女子高生が「骨と皮だけ」にされた禁断の行為)
これが、最近になって再び日の目を浴びつつある。咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。
道内最大都市の清津(チョンジン)では最近、電力事情があまりよろしくない。電気が全く来ない日が少なくない状況だが、これに伴い少ない電力でも使えるノートテルの人気が鰻登りだ。
買い求めようとする人が多く市場を訪れているものの、品物が入荷せず、入手が困難な状況だ。
最近の韓流の取り締まりと言えば、街頭でスマートフォンの検査を行って、韓流ドラマ、映画、K-POPのPVのファイルが保存されていないかの調べるが、以前のように家宅捜索を行うことは少なくなっているようだ。そこで、ノートテルで自宅で視聴すればよりバレにくくなっている。
「自動車のバッテリーやソーラーパネルでは照明器具が使えるほどの電力しか作れず、テレビを見るのは難しいが、そこで電力消耗量の少ないノートテルが人気だ」(情報筋)
コロナ禍以降、個人の密輸が困難となり、ノートテルの入荷量が非常に少なくなっている。一方、生活苦で以前使っていたノートテルを売りに出す人が増え、最近の取り引きはほとんどが中古品だ。しばらくは買い手がつかずに売れなかったのだが、最近再び売れるようになったのだ。
5年から10年ほどのものなら1台300元(約6060円)で、コロナ前に流通していた新品と比べて5割から3倍以上安くなっている。
300元もあれば、コメ100キロ以上の価格に相当し、日々の糧にも事欠く人々には高嶺の花だが、多くの人が苦しい生活を送る中でも、娯楽にカネを使える層が存在する。また、市民の間ではこんな言葉も交わされている。
(参考記事:「見てはいけない」ボロボロにされた女子大生に北朝鮮国民も衝撃)
「食べるものはくれなくても、電気と水だけはまともに供給してくれればどれだけ良いか」
もちろん食べ物は大切だが、人はそれだけで生きるものではない。楽しみがなければ生きていけないが、北朝鮮政府がその役割を果たすのは難しい。
久々の大ヒットを記録した国産映画「72時間」ですら、政治的理由で上映が禁止され、人々は自宅で密かに見るしかないのだ。