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台湾問題、平和統一でなく「武力統一」を早める――中国政府系メディア

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
台湾の海軍基地を視察する蔡英文総統(写真:ロイター/アフロ)

中国の外交部報道官は23日、台湾問題に関して「一つの中国」原則を強調し、トランプ氏を牽制した。中国の環球網は台米の出方によっては平和統一ではなく「武力統一」の時期を早めると警告。一方、台米の動きは?

◆中国外交部報道官の発言

1月23日、中国外交部の華春瑩報道官は、「トランプ政権の台湾問題に関して中国はどう考えているか」という旨の記者の質問に、以下のように答えた。

――台湾問題に関しては、「一つの中国」原則は中米関係発展の政治的基礎だということを強調したいと思います。アメリカのいかなる政権であろうとも、これまで両党(共和党と民主党)政府が明らかに承諾してきた義務を守らなければなりません。すなわち、「一つの中国」政策を実施し続け、「中米間3つのコミュニケ」原則を守り、米台関係に関しては厳格に「非政府間の範囲内」に制限するということです。

このコラムのシリーズでは何度も紹介したので、既読の方には重複して申し訳ないが、初めての方もおられると思うので、華春瑩報道官が言ったキーワードに関して、簡単に説明しておこう。

●一つの中国:中国を代表する合法的政府は中華人民共和国のみで、台湾は中国の領土の一部である。

●中米間の3つのコミュニケ:1972年2月の「米中共同コミュニケ」(上海コミュニケ)と1978年12月(発表は1979年1月1日)の「中華人民共和国とアメリカ合衆国の外交関係樹立に関する共同コミュニケ」および1982年8月17日の「中米共同コミュニケ」(八・一七コミュニケ)のこと。

●非政府間の範囲内:これら3つのコミュニケには、「アメリカ人民は、文化、商務などの非政府間の関係に関しては、台湾人民との関係を保ってもいい」とあることを指す。

◆台湾の「武力統一」の時期を早めた――米台の挑戦

中国共産党機関紙「人民日報」の姉妹版「環球時報」の電子版「環球網」は、1月23日、台湾メディアの名を借りて、「トランプ・蔡英文の一つの中国政策に対する挑戦は(中台)武力統一の時期を早めるか」と報道した(リンク先はそれを転載した中華網)。

それによれば、1月20日にトランプ大統領が就任演説をすると、台湾の蔡英文総統はツイッターでトランプ大統領に英語で祝意を述べ、「民主が、やがて台湾とアメリカを結びつけるだろう」と「民主」を米台の共通点として強調したという。また蔡英文総統はその20分後に新聞で声明を発表し「アメリカこそは国際社会における台湾の最も重要な盟友国だ」と述べたとのこと。さらに同声明文で「対米関係が、すでにある良好な基礎の上に、さらなる発展と協力を推し進めることは、台米双方および国際社会にさらなる利益をもたらすことに貢献するだろう」と述べたと、1月22日のシンガポールの『聯合早報』が伝えたとのこと。

しかし、それに対して台湾大学の張麟征名誉教授は「もし蔡英文がどうしても“一つの中国”原則を受け入れないとすれば、そしてもしトランプがどうしても“一つの中国”カードを掲げるつもりなら、(中国)大陸が“非平和的手段”によって台湾を統一する方法は、早まるだろう」と述べた。

こういった報道の方法は中国政府がよくやるやり方で、大陸(北京政府)の立場に立って発言する学者を予め用意しておいて、その学者の発言として中国政府の立場を発信していくやり方だ。日本にも、そのために用意されている研究者がいて、「日本人さえ、こう言っている」という形で、あたかも「国際世論」として世界に発信していくのである。

しかし、要するにそれは「中国政府の言いたい主張」であることには変わりないので、分析対象としては注目に値する。

◆台湾に米軍を駐留させる――ボルトン発言

というのも、実は1月17日付のウォールストリート・ジャーナルにジョン・ボルトン元米国連大使が寄稿し「米軍の台湾駐留によって東アジアの軍事力を強化できる」と述べ、「在沖縄米軍の台湾への一部移転」を提案したからだ。

ボルトン氏は「台湾は地政学的に東アジアの国に近く、沖縄やグアムよりも南シナ海に近い」とした上で、「沖縄米軍の一部を台湾に移せば、日米摩擦を起こしている基地問題を巡る緊張を和らげる可能性もあり一石二鳥ならぬ一石三鳥」と考えていると、中国の報道は徹底批判に出ている。

たとえば「観察者網」は「トランプ高級顧問:アメリカは再び台湾に米軍を駐留させるべき 上海コミュニケは時効」というタイトルでボルトン氏の発言を詳細に載せ(その英文の原文も載せて)、激しく批判している。

このページの「参与評論」(ネットユーザーコメント)には5185人のコメントがあるが(最初は「0人」と表示されるが、しばらく待っていると「5185人」が浮き出てくる)、そこには好戦的なコメントが数多く見られる。

基本的に「けっこうじゃないか。やるならやってみろ。いよいよ中国が武力で台湾を統一するときが来た。アメリカが台湾に米軍を駐留させるなら、それこそ中国が台湾を武力統一する時期を早めてくれたようなものだ」とするコメントが多い。

興味深いのは、それにまぎれて、「なぜマルクス経済学は貧乏人に低生活レベルの補助を与え、西側の経済学は貧乏人に高レベルの補助を与えることができるのだろう?」(chunxianzhang0000 福建省福州市01-20 03:06)といった非民主的国家である中国政府への不満を書き込んでいるのもあることだ。

先般、NHKラジオ第一で参加した池上彰氏との座談会においても、ボルトン発言に関する話題が出た。

そこでも話したように、ここまでの極端な事態は実現しないとしても、アメリカには「一つの中国」原則を認めたニクソン政権とキッシンジャー元国務長官の政策への激しい批判が土壌としてある。それがトランプ発言につながっているのであって、決して「口から出まかせ」をトランプ大統領が言っているのではないことは分かっておきたい。これに関しては、また別途機会を改めて分析したい。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『中国「反日の闇」 浮かび上がる日本の闇』(11月1日出版、ビジネス社)、『嗤(わら)う習近平の白い牙』、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

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