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ドラマ評論家・成馬零一のドラマ短評『テッパチ!』第一話、自衛隊を舞台にした若者の青春ドラマ。

成馬零一ライター、ドラマ評論家
テレビとリモコン(提供:イメージマート)

 フジテレビ系で水曜夜10時から放送されている『テッパチ!』は自衛隊を舞台にした青春ドラマだ。

 主人公は町田啓太が演じる28歳の青年・国生宙(こくしょうひろし)。

 高校ではラグビー部だった国生は、期待の選手として全国大会を目指していたが、怪我をして引退。その後、再婚する母を気遣い一人暮らしをするようになり、工事現場で働いていたが、周囲に馴染めずにいた。

 そしてある日、喧嘩沙汰を起こした国生は職場をクビになり、住んでいたアパートも家賃滞納で退去させられてしまう。

 行き場所を失い、さまよっていた国生は、陸上自衛隊で教育中隊長をしている八女純一(北村一輝)と出会い、自衛隊に入らないかとスカウトされる。

 物語は陸上自衛隊の候補生となった国生が、仲間たちと自衛官を目指してがんばる姿を描く青春ドラマだが、まず印象に残ったのが国生の疎外感。

 自分勝手ですぐに喧嘩をする国生は、どこにも馴染めず孤立している。彼の振る舞いの多くは擁護できるものではないが、学歴もなく家族も頼れず、友人関係にも恵まれていない国生が転落していく様子をみていると、自業自得と切り捨てるのは、かわいそうになってくる。

 入隊した後も国生の困難は続く。候補生の荒井竜次(佐藤寛太)と喧嘩したことを指導教官の桜間冬美(白石麻衣)から責められたことで寮での生活が嫌になり、国生は自衛隊から逃げ出そうとする。

 しかし上官の八女に引き止められ「ここは俺やお前みたいな奴でも見限ったりしない」「誰もお前を見放さないってことだ」「逃げ出さなければな」と言われる。

 国生が返事をしないまま、第一話は終わるのだが「誰もお前を見放さない」という八女の言葉が心に響いた。

 自衛隊を舞台にした男の子の成長物語となるのか?

 『テッパチ!』は、自衛隊を学校に見立てた大人の学園ドラマといった印象で、町田啓太たち若手俳優のシャワーシーンをみせるイケメンドラマ的な見どころもある。

 また、防衛省が全面協力しているため、銃や迷彩柄の制服はもちろんのこと、ヘリや戦車も出し惜しみせずに登場するので、ミリタリー好きにとってはたまらない映像となっている。

 その意味で映像作品として他のテレビドラマにはないセールスポイントが盛りだくさんなのだが、何より一番の見どころは、社会に居場所のない若者が自衛隊に入ることで人として成長していく姿を描こうとする姿勢にあるのではないかと思う。

 第一話終了後、本作を「貧困の若者を自衛隊に徴収するための経済的徴兵制ではないか?」と批判する意見をSNSでいくつか見かけたが、印象として真逆で、無縁社会となっている日本で孤立している若者の最後のセーフティーネットとして、自衛隊が描かれているように感じた。

 これは同じ現象の盾の両面であり、最終的な評価は今後の展開を観て判断したいのだが、まず何より、テレビドラマでは近年見過ごされがちな若い男性視聴者に向けた物語を紡ごうとする本作の姿勢に好感を持った。

 もちろん『HiGH&LOW』シリーズのように、女性視聴者に向けたイケメンドラマとしての側面も大きいのだが、現代を舞台に、エリートではない高卒の青年の成長物語を描こうとしていることは確かだろう。

 前クールのヤンキードラマ『ナンバMG5』もそうだったが、フジテレビの水曜夜10時枠が男性主人公のドラマに活路を見出したことを、筆者は肯定的に受け止めている。今後も見守っていきたいと思う。

ライター、ドラマ評論家

1976年生まれ、ライター、ドラマ評論家。テレビドラマ評論を中心に、漫画、アニメ、映画、アイドルなどについて幅広く執筆。単著に「TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!」(宝島社新書)、「キャラクタードラマの誕生 テレビドラマを更新する6人の脚本家」(河出書房新社)がある。サイゾーウーマン、リアルサウンド、LoGIRLなどのWEBサイトでドラマ評を連載中。

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