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女子バレー世界選手権開幕。誰が出る? 「わからない」から「面白い」

田中夕子スポーツライター、フリーライター
25日に初戦を迎える女子バレー日本代表(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

「誰がいるの?」

 女子バレー世界選手権が始まる。

 1次リーグの日本戦を生中継するTBSでは連日、ニュース番組のスポーツコーナーなどで女子バレー日本代表を紹介する映像が流れる。来る大会へ向けた告知は、他競技の国際大会と比べても圧倒的に恵まれている。

 だが、それでも言われる。

「今の女子バレーって、誰がいるの?」

 2012年のロンドン五輪で銅メダルを獲得した際の主将で、北京、ロンドン、リオデジャネイロ、4大会目となる東京五輪を終えた後に荒木絵里香が引退して以後は、バレーボールによほど詳しい人でなければ、多くの人が「今の代表選手はわからない」と口を揃える。

 確かに、多くの競技が金メダルを含むメダル獲得ラッシュに沸いた昨夏の東京五輪で、女子バレー日本代表は1次リーグ敗退に終わった。それだけでなく、以前は当たり前のように日本で国際大会が開催され、しかもそれがゴールデンタイムで生中継されてきたのに対し、今季日本で開催された女子バレー日本代表の試合は紅白戦のみ。

 12年のロンドン五輪でのメダル、その当時の中心メンバーであった荒木や木村沙織、竹下佳江といった面々が女子バレー日本代表として強い印象を残してきたが、今は日本で行われる国際大会も減り、国際大会での成績が伴わなければ露出は減るばかり。残念ながら国内のⅤリーグへ目を向けても、男子の試合と比べて女子の試合は観客数も目に見えて少ないのが現実だ。

進化する世界が認める古賀紗理那のバックアタック

 世界に目を向ければ選手の大型化は進み、高さとうまさ、経験も備えた選手が多くいる。しかも個人技に頼るばかりでなく、サーブから主導権を握りブロック&レシーブのトータルディフェンスを構築して、多少トスが乱れてもハイセットを打ち切れるエースと呼ばれる選手が最後はドカンと決める。大型選手は技術が伴わないなどとっくの昔に終わった話で、世界でメダルを狙う強豪国となれば、どのポジションでも、190cmを超えるような大型選手であっても、データに基づくポジショニングで難なくレシーブを上げてみせる。

 確かに、世界は強い。幾重にもそびえ立つ「壁」は分厚い。

 だが、侮るなかれ。日本代表には、日本代表の戦い方と強さがある。

 今年6月から7月にかけて開催されたネーションズリーグでは、開幕から8連勝。合宿がスタートした当初から重要なポイントと掲げてきたサーブで劣勢からも試合をひっくり返す。多少サーブレシーブが乱れてもエースの古賀、さらにその対角に入る井上愛里沙などハイセットを打ち切れる選手が決めるべきところで決める。加えて、大きな武器となったのが後衛中央からのバックアタックだ。

 特にⅤリーグも含めたこの数年、レシーブから素早く助走、攻撃に入り速いトスが上がってきてもブレずにボールをとらえる体幹を鍛えるトレーニングから見直してきた古賀のバックアタックは世界も脱帽するほどの速さ。もともと研究熱心な選手で、自身が理想とするイメージに近い選手の映像を繰り返し見て、自身の動きを近づけるべくコンビ練習を重ねる。8連勝から5連敗を喫し、ネーションズリーグの最終成績は7位で終わったが、うまくいかない時もその理由が何か。古賀の中では明確に、課題を分析できていた。

 ネーションズリーグを終えてからの合宿や欧州遠征でも課題克服に取り組んだ成果は、おそらく今夜(日本時間21時)から始まる世界選手権でも存分に発揮されるはずだ。

エースとして攻撃の柱、チームとして精神的支柱でもある古賀紗理那
エースとして攻撃の柱、チームとして精神的支柱でもある古賀紗理那写真:YUTAKA/アフロスポーツ

14名はどんな選手?

 と書けば、なるほど、古賀が中心のチームなのね。そう思われるだろう。

 確かにチームの中心は古賀だ。ただ、誤解してほしくないのは古賀だけのチームではないということ。

 23日に発表された出場選手14名の顔ぶれを見れば、まだ大半の人が「わからない」と口を揃えるかもしれない。だが、それこそが面白い。

 ネーションズリーグでも古賀と共に両エースとして活躍した井上、リリーフサーバーとして出場する際もスピードサーブで高い効果率を残した石川、攻守両面で抜群のバランスと安定感を誇る林琴奈といったアウトサイドヒッター陣。加えて、ブロック力に長け、ライトへ走りこむ移動攻撃だけでなく、セッターに近い位置からのA、Bクイックも武器とする横田真未、機動力を活かした攻撃を武器にリオデジャネイロ、東京と二度五輪出場を果たした島村春世、高さとポテンシャルを備えた山田二千華といったミドルブロッカー。ディグ力とボールコントロールに長けたリベロの福留慧美、セッターは共に抜群のパス力を備え、ラリー中もミドルを積極的に使う関菜々巳、中央からのバックアタックだけでなくライト側の攻撃も活かせる籾井あき。現役大学生でレフト、ライト、どちらのポジションにも対応でき、サーブでも高い効果を発する佐藤淑乃、宮部愛芽世が初の世界選手権で飛躍のきっかけをつかんだらどれほど成長を遂げるのかも楽しみでしかない。

 そして何よりのサプライズは、アウトサイドヒッター、ミドルブロッカーの両ポジションで登録された宮部藍梨と、本来はアウトサイドヒッターながらリベロ登録の内瀬戸真実だ。宮部は高さとアメリカで「意識が変わった」というブロック力を評価され、内瀬戸は安定した守備力、特にサーブレシーブの返球率の高さを買われ、紅白戦や欧州遠征でも実戦経験を重ねてきた。

 奇策とも思われるチャレンジではあるが、パリ五輪まで2年という少ない時間の中、何が正解となるかはやってみなければわからない。その背景にある抜擢の理由、ポジションチェンジの理由が世界選手権で試合を重ねる中、どんな形で見えてくるのか。そもそも誰がどのポジションでどんな形で出場するのか。始まるまで「わからない」からこそ面白い。

 開幕の時は間もなく。どんなバレーが見られるのか。どんな選手がいて、それぞれの武器は何か。そして世界の女子バレーがどれほど進化と変化を遂げているのか。

 わからない、けれど、面白い。

 それこそがまさに、スポーツの醍醐味。「わからなかったけれど、バレーってやっぱり面白いよね」と言わせるような試合、戦いぶりを見せてほしい。

新戦力、新たなポジション。女子バレー日本代表がどんな戦いを見せるかに注目だ
新戦力、新たなポジション。女子バレー日本代表がどんな戦いを見せるかに注目だ写真:YUTAKA/アフロスポーツ

スポーツライター、フリーライター

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、月刊トレーニングジャーナル編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に「高校バレーは頭脳が9割」(日本文化出版)。共著に「海と、がれきと、ボールと、絆」(講談社)、「青春サプリ」(ポプラ社)。「SAORI」(日本文化出版)、「夢を泳ぐ」(徳間書店)、「絆があれば何度でもやり直せる」(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した「当たり前の積み重ねが本物になる」(カンゼン)などで構成を担当。

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