【泉佐野市】まさか泉州にあったなんて。元高級洋菓子店のパティシエが復活させた『想い出のスワンシュー』
「泉州に『スワンシュー』があったよ!」
そんな友人のひとことが、取材するきっかけとなりました。
『スワンシュー』とは、白鳥のカタチを模したシュークリームのことで、惜しまれつつ休業(老朽化対応のため)となった「山の上ホテル」のプリンアラモードに添えられていたことでも名高く、都心のおしゃれな喫茶店や洋菓子店ですら販売するお店も少ないというのに、まさか泉州にあったなんて!
屋根にケーキがドン。ユニークな洋菓子店
この光景をみなさんも一度は目にしたことがあるのではないでしょうか?
屋根に大きなケーキがドンっと乗っかっていて、通りかかるたびに思わず二度見しちゃうユニークなお店。
ここはケーキ屋さん? いやいや、実はこのお店は凄い「洋菓子店」だったのです。
ちなみに「ケーキ屋さん」と「洋菓子店」の違いは、「ケーキ屋」とは洋菓子の中でも特にケーキに分類されている菓子を製造・販売しているお店のことを意味し、「洋菓子店」とは原則として機械の大量生産ではない“ハンドメイド”で「ケーキ・クッキー・プディング・シュークリーム」などの洋菓子を製造・販売するお店のことを意味するそうです。
もちろん、このお店はケーキも販売していますのでアイキャッチャーとして素晴らしいアイデアだと思います。
「ケーキ工房 ツリーハウス」
今回ご紹介するお店は、上瓦屋にある「ケーキ工房 ツリーハウス」(Googleマップ参照)。ご夫婦で営む 創業14年の街の小さな洋菓子店です。
「いらっしゃい~」と笑顔で迎えてくれたのは「ケーキ工房 ツリーハウス」代表でパティシエのご主人 山岡 勉(やまおか つとむ)さんと、底抜けに明るい奥様の圭子(けいこ)さん。「もう、喧嘩ばかりよ~!」と微笑む圭子さん。
そんな挨拶代わりの言葉は、決まって仲良しの証。
木のぬくもりを感じる温かなログハウスの店内には、圭子さんが大好きだというカントリー雑貨やケーキ、焼き菓子などがズラリと並んでいます。
ケーキは特別なものじゃなく 身近なもの
「ケーキ工房 ツリーハウス」で販売するケーキは、すべて奥様の圭子さんが考案したもの。「ケーキは特別なものじゃなく、身近なものだと感じてもらいたい」と話します。
圭子さんがアイデアを出し、パティシエの勉さんがそれをカタチにしていく。
夫婦共同作業で、見た目にも楽しい独創的なケーキを生み出しています。
見て楽しい 食べて美味しいケーキ
「まず、目で見て楽しんでほしい。そして、食べて美味しい!って喜んでほしい」
そんな想いが込められたケーキは、とにかくデザインが素敵!
ショーケースに並んでいるケーキを見て、その可愛らしさやユニークさに顔がほころびます。
たとえば、こちらの「マロン」。なんて愛らしいんでしょう!
一般的なモンブランは茶系でまとめられていて渋い色合いのイメージですが、愛らしいピンクのお花がちょこんと乗っていますよ。
「マロン」じゃなくて、これは「ロマン」だ。
こちらは、一般的に「エンゼルケーキ」と呼ばれる商品。
「エンゼルケーキ」はその名の通り円形となっているものがほとんど(高さはいろいろ)ですが、このフリフリとした愛らしい“乙女仕様”にやられてしまいました。
“常温で5日” 日持ちするというこのケーキは、たまご 1:さとう 1:バター 1:小麦粉 1 のソフトな生地をホワイトチョコでコーティングしたバターケーキ。
こんな可愛い「山」があったら登ってみたい。
誰がこれを見て、“抹茶&あずき”のケーキだと思うのでしょうか。
あずき入りの抹茶ムースを、薄く焼いたスポンジで包んだ「ひらめき商品」。
本来であれば地味な組み合わせの素材も、こんなに可愛くなっちゃってます。
この商品名、本当に「バナナ」でいいんですか?
思わず、そう尋ねてしまった「バナナ」?
白いスポンジ生地の中に、生クリームとバナナがゴロリ。
そんな「不思議ケーキ」もなんだか楽しい。
天使の羽のようなチョコは、勉さんがひとつ一つ手作業で仕上げているというからお見事。
竹からかぐや姫がでてきた⁈ そんなことを連想させる「シャルロット」。
本来は「円筒形」のところを斜めにバッサリいっちゃってます。
いちご生地の中に「いちごクリーム」と「いちご」をインした これまた乙女すぎるケーキ。
他にもショーケースには、定番の「チョコレート」や「いちごショート」「チーズ」、5月限定の「かぶと」など、見た目にも可愛らしいケーキがたくさん並んでいます。
アイデアは突然ひらめく
アイデアは、テレビを観ている時や買いもの中に突然ひらめく、と話す圭子さん。急いでメモを取り、勉さんに思いの丈をぶつけます。それは、勉さんが運転中にも突然やってくるのだとか。路肩に車をとめてケーキの打ち合わせをすることもあるというから、その熱意はかなりのもの。
時には、そのアイデアがボツになることも。普通の流れでいくとパティシエの勉さんが、圭子さんのアイデアに対して「技術的に無理」とNOを突き付けるのかと思ったら、圭子さんのイメージ通りに仕上げたとしても、味や見た目に納得できないと圭子さんは容赦なくそれをボツにするといいます。
実は、勉さんは凄い人
そんな圭子さんに押され気味の勉さんですが、実は凄い人でした。
かの有名な 帝塚山マダムご用達 老舗高級洋菓子店「ポアール本店帝塚山」ご出身のパティシエさんだったのです。
聞かれたら答えるけど特に公にはしていないとのこと。
でも、せっかく取材で聞き出せたのですから、ご夫婦の了承のもと ここで公表しちゃいます!
『想い出のスワンシュー』
わたしのお目当ての『スワンシュー』は、ショーケースの下の方で凛とした姿で佇んでいました。
まさか泉州で出逢えるとは思ってもいませんでした。
そして、この『スワンシュー』に素敵な秘話があったことも知ることができたのです。
ふたりの出逢いは、「ポアール本店帝塚山」のパティシエと販売員時代の頃。
1970年から80年代にかけて当時喫茶店で人気だった『スワンシュー』は、製作に通常品の2倍 時間がかかることもあり、時代の流れと共に徐々に街から姿を消していきます。
当時、ふたりが働いていたお店でも販売していましたが、辞める頃にはもうなくなっていたんだとか。
「『ケーキ工房 ツリーハウス』をはじめた頃、まず 定番商品となる『シュークリーム』の形状について考えました。当時、出逢っていた『スワンシュー』の形の可愛さが強く印象に残っていたので、これでいこう! と決めたんです」と勉さん。
『スワンシュー』は、通常のシュー生地と違って、低温で固めに焼き上げ、4分割にした生地で白鳥の形を作っていくなど、とても手間のかかる洋菓子。
それでも見た目の可愛さは特別感もあり、付加価値が高い、と勉さんは話します。
わたしが求めていた『スワンシュー』は、ふたりの『想い出のスワンシュー』だったのです。
ちなみに「ポアール本店帝塚山」に問い合わせてみたところ、今も『スワンシュー』の取り扱いはないとのこと。「昔はあったみたいです…」と言う若い女性の声に、何とも言えない気持ちになり、胸が熱くなりました。
心揺さぶられる味と見た目
そんな ふたりから生まれる洋菓子は、懐かしさと新しさが混在していて、心が揺さぶられるものばかり。
「マロン」
一般的な「モンブラン」にありがちな “お蕎麦のようなクリーム” は、見た目が地味…。そんな圭子さんのモヤモヤを、勉さんは “ドレスのスカート” のようなクリームで表現し、解消しました。愛らしいピンクのお花もつけて。
一口食べると、そのクリームの滑らかさに驚きます。わたしは「モンブラン」の、あのザラザラとしたクリームが苦手でした。だけど「マロン」は違う。
ほんわりとしたやわらかい栗のクリームが斬新で、口の中でフッと消えてなくなるほど軽やか。
スポンジもふわふわで重たくない。そんな生地やクリームの中から出てくる栗は、ゴロンと大きめ。
可愛らしいケーキの中から出てきたとは思えないほどの、“ごつめの栗” に吹き出してしまいました 笑。そういう意外性もいいなぁ。栗もホクホク~。
「プリン」
圭子さんが、高校生の頃に食べた「喫茶店のプリン」があまりにも美味しかったので、勉さんにリクエストして作ってもらったというひと品。
とても滑らかなのにしっかり固め。“とろとろプリン”が流行る中、やっぱり「王道」はこっちだなぁと感じさせてくれます。たまごやバニラの味がしっかりしていて、すごく美味しい。特にわたしが感動したのはカラメル。
サラサラなのにビターキャンディーのように濃厚なんです。
「本当は、プッチンプリンのように逆さまにしてお皿に出せるようにしたかったけど、カラメルが全部下に流れちゃうから…」と、そういえば圭子さんが言っていました。もちろん、それも楽しいけれど、食べ進めていくうちに見えてくる “お楽しみ” があってもいいし、子どもだったらグルグルかき混ぜて食べても楽しい。
最高に美味しいけど、圭子さんはまだ納得していない、といいます。
「高校生の頃に食べたあのプリンとはちょっと違う…」
厳しい~。
『スワンシュー』
ため息が出るほど美しい『スワンシュー』。
『スワンシュー』を見て「懐かしい!」と言ってくださるお客さんがいるというのもわかります。
『想い出のスワンシュー』は、甘いカスタード、甘くない生クリーム、ちょこんと乗っかったいちごとの競演が素晴らしく愛おしい逸品。
平時は、1日10個だけしか作らないという『スワンシュー』ですが、電話で予約をすると作っていただけるとのこと(*)。
お土産やプレゼントにも喜ばれそうですね。
*毎日炊く手作りのカスタードクリームがなくなったら終了。お一人で作っているため、数に限りがあることをご理解下さい。
『スワンシュー』を崩した姿をお見せしたくないので、あとはコッソリおうちで楽しんでくださいね。
洋菓子は奥様へのラブレター
圭子さんのアイデアは “抽象的” 過ぎて分かりづらいのが悩み、と勉さんは話します。
たとえば「マロン」の時は、「お蕎麦のようなクリームが嫌だから、もっと “びらんびらん” にして~」。
クグロフ型を使ったという珍しい仕様の「エンゼル」は、「『ホワイトチョコ』だけでは寂しいから、ピンクのチョコをこうしたらええんちゃう~(びにょ~んとジェスチャー)」ってな具合。
試作し過ぎても「材料費が高い」と怒られるので、3回ほどで完成させるといいますが、それでも突き返されることもあると言うのですから、“圭子さんの壁” は相当高そうです。
「流行りとか、そんなんどうでもええねん私。携帯もガラケーやし。見て楽しんで、食べて美味しいケーキがええやん? 屋根にケーキを乗っけたのは、この辺は車の通りも多いし、普通の看板じゃ目立てへんやん? 子どもが見ても何屋さんかわかるように『屋根にケーキを乗っけたらどう?』と主人に提案したんよ」
店名ばかり気にしていたという勉さんをおさえて ここでも圭子さんが優勢。
そんな圭子さんが、最後に語った言葉がとても印象的でした。
「認めているから、出来る人と知っているから頼むねん。お客さんが喜んでくれた“その声” こそが、この人への最高のプレゼントやん?」
唐突に浮かぶアイデアで納得のいく味を実現させる。そんな夫婦で作り出す洋菓子が店頭に並んでいます。
ショーケースに並ぶ洋菓子は勉さんからのラブレター。
アイデアは圭子さんからのプレゼント。
屋根に大きなケーキがドンっと乗っかっている 街の小さな洋菓子店には、いろんなドラマがありました。
完
〈おまけ情報 〉 製作現場の撮影は一切NGとのことでした。取材中、終始穏やかだった勉さんでしたが、その時ばかりは一流のパティシエらしいキリリとした表情をお見せになられました。渋い…
【基本情報】
店名:「ケーキ工房 ツリーハウス」
公式インスタグラム(外部リンク)
住所:泉佐野市上瓦屋335-16
Tel:072-496-8206
営業時間:10:00~20:00
定休日:火曜
駐車場:あり(店前2台)
取材協力 「ケーキ工房 ツリーハウス」店主 山岡 勉 様、圭子 様
*記事内容は取材当時のものです。