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六中全会、党風紀是正強化――集団指導体制撤廃の可能性は?

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
2013年に開催された中国共産党三中全会(写真:ロイター/アフロ)

24日から中国共産党六中全会が始まる。党員への監督強化と党風紀是正強化が討議される。全会は駆け引きの場ではなくハンコを捺す場だ。集団指導体制を撤廃するか否かと、獄中からの元指導層の肉声等を考察する。

◆六中全会のテーマ――腐敗による一党支配崩壊を回避するために

10月23日から27日まで開催される六中全会(第6次中国共産党中央委員会全体会議)の三大テーマは「従厳治党(厳しく党を統治する)」と「新形勢下における党内政治生活に関する若干の準則」の制定および「中国共産党党内監督条例(試行)」の修訂である。そのほか、この1年間で逮捕されたり党籍をはく奪された元党幹部たちの報告と党籍はく奪などの承認を得る。次期中共中央委員会委員の補てんなどをしなければならないからだ。

「従厳治党」に関しては、第13回党大会(1987年)、14回党大会(1992年)、15回党大会(1997年)、16回党大会(2002年)と、これまで何度も討議されてはきた。

なぜなら第11回党大会三中全会(1978年12月18日至22日)において「改革開放」を宣言して以来、社会主義市場体制の進展に伴って、党幹部の汚職が始まり、党員の堕落が一気に加速していったからだ。

1987年の第13回党大会で討議され始めたということは、1989年6月4日の天安門事件発生の芽が、この時点ですでに予感されていたことを意味する。天安門事件により江沢民政権(1989年6月に中共中央総書記、1993年に国家主席)が始まっても、トウ小平の眼があり、「従厳治党」はしばらく続いた。

しかし一方で、江沢民が「三つの代表」(2000年)を提唱して以来、金権政治全盛期となり腐敗が激しく蔓延した(その額やスケールなどに関しては、書名は良くないが拙著『中国人が選んだワースト中国人番付――やはり紅い中国は腐敗で滅びる』で詳述)。

胡錦濤政権時代は、実質上、江沢民が握っていたので、胡錦濤には何もできない。

腐敗はついに、中国共産党の一党支配体制を崩壊させる寸前まで来ていた。

だから第18回党大会で習近平政権が誕生すると、党大会初日に胡錦濤が、最終日に習近平が、それぞれ総書記として「腐敗問題を解決しなければ党が滅び、国が滅ぶ」と、声を張り上げて叫んだのだった。

習近平政権においては「このままでは一党支配体制は腐敗によって滅びる」という危機感が高まり、また実際に臨界点まで至っていた。だから王岐山を書記とした中共中央紀律検査委員会の権限を強化し、大々的な「腐敗撲滅戦略」に突き進んだのである。

日本のメディアでは、六中全会で「来年の党大会の人事の駆け引きがあるだろう」とか、「来年の党大会への権力闘争と権力集中への布石」などと六中全会を位置づけている報道が散見される。前者に関しては中央委員会全国大会は投票をして決議するだけで、いわば「ハンコを捺す」会議でしかない。駆け引きは、その前にしっかりなされている。後者に関しては、「中国を高く評価し過ぎている」と言うことができよう。

習近平政権はいま、権力闘争などをしている場合ではないのである。

一党支配体制が崩壊するか否かの瀬戸際だ。権力闘争説は、実は、中国がここまでの危機にあることを隠蔽してしまう。これはある意味、中国に利することにもなる。なぜなら、そのように海外メディアが見ている間は、中国にはまだ権力闘争をするだけのゆとりがあり、一党支配崩壊の危機が見破られないという「煙幕」の役割を果たしてくれるからだ。

六中全会で何がテーマになるかに関しては、庶民に分かりやすいようにするためにイラストで紹介した頁があるので、これをご覧いただきたい。

「新形勢下における党内政治生活に関する若干の準則」の制定に関しては本稿の最後に述べる。

「中国共産党党内監督条例(試行)」の修訂とともに、簡単に言うならば「腐敗は党員、特に党幹部の日常生活の心構えから出てくるもので、ほんのちょっとしたことから私利私欲が芽生えるものだ」ということを説いて、自他ともに監督を強化して腐敗に手をつけないように心掛けよ、ということを謳ったものである。

これらは、2014年に6回、2015年に1回、2016年に4回と、何度も討議を経て意見調整をして終わっているので、六中全会では票決して「決議されました」というハンコが捺されるだけになっている。

決して「人事に関する駆け引きをする場ではない」ことを認識していただきたい。

◆ドキュメンタリー「永遠在路上(永遠に道半ば)」――元指導者らの監獄からの肉声と顔

六中全会における「従厳治党」のテーマを人民に浸透させるために、中央紀律検査委員会宣伝部とCCTV(中央テレビ局)の合作で「永遠在路上」というドキュメンタリーが放映されている。

「日常生活において、党の風紀を軽視していたために、ふと気が付いたら逮捕されるところまで来ていた」というのがメインテーマだ。

中国では裁判中の被告の顔や姿を平気でテレビで露出するという、実に残酷なことを実行している。世間から「顔」を隠しようもなく、自業自得とはいえ、それでも残っているであろう最後の自尊心を思い切り傷つけ大衆にさらす。死刑よりも終身刑よりも残酷な「刑罰」だと思うが、民衆はその「苦しみにゆがんだ顔」を見たがり、「絞り出す肉声」を聞きたがる。

だから視聴率は実に高い。

習近平政権はそこを狙い、周永康や令計画など、元政権の中枢にいた指導層の肉声を通して、「いかに日常生活における党員としての心得に隙があったか、どういうことから腐敗に手を染めるようになったか」などを懺悔させるのである。

この画像をご覧になりたい方は比較的ブレが少ないこちらの「永遠在路上」をクリックなさると肉声を聞き、顔を見ることができる。

このことからも、腐敗問題に対する習近平政権のせっぱ詰まった窮状がうかがえるだろう。

◆集団指導体制を撤廃するのか?

「新形勢下における党内政治生活に関する若干の準則」の制定に関して注目されているのは、1980年2月に制定された「党内政治生活に関する若干の準則」の第二条に「集団指導体制を堅持し、個人崇拝に反対する」という項目があることである。

そのため、六中全会で「新形勢下における党内政治生活に関する若干の準則」の制定に関して討議するということは、集団指導体制を撤廃することを意味するのではないかという憶測が日本メディアに蔓延している。

これは、十分には中国政治の深部を理解していないことから生まれてくる誤報と言っていいだろう。

なぜなら、「集団指導体制」というのは、もう少し正式に、憲法にもある文言を使って表現すれば「民主集中制」ということになるからだ。

「民主集中制」は、非常に分かりにくい概念であり、そこには中国共産党体制の「民主という言葉に対するまやかしがある」と思っているので、筆者はこれまで「集団指導体制」という言葉を使って解説してきた。その方が日本人に分かりやすいだろうという配慮もあったからだ。

「民主集中制」を言葉通りに言うならば、「民主を基礎として、集団(集中)と集中指導下における民主との結合制度」となる。何のことか分からないので、もう少し日本人的感覚から説明するなら「少数は多数意見に従い(多数決)、党の各レベルの委員会は集団指導と役割分担が結合した制度に従う。個人崇拝を禁止し、党の委員会で討議決議する」ということになる。

これは要するに筆者がこれまで『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』などでくり返し説明してきた「集団指導体制」以外の何ものでもない。

しかし、日本の報道は、この同一性を理解していないためか、「集団指導体制を堅持し、個人崇拝に反対する」と謳った1980年制定の「党内政治生活に関する若干の準則」を「新形勢」に合わせて見直すのだから、「集団指導体制を撤廃し、個人崇拝を許す」方向に行くにちがいないと憶測している。

ところが、習近平政権が何度も会議を開き、最終的には2016年9月27日に開催した中共中央政治局会議で、10月に開催される六中全会の議題を決定し、そこで制定される「新形勢下の党内政治生活に関する若干の準則」の草稿に関して決議した。

そこには明らかに「民主集中制」という言葉が存在している。

つまり、六中全会で討議決議されることになっている「新形勢下における党内政治生活に関する若干の準則」には、「集団指導体制が盛り込まれている」ということになる。

ただ、「集団指導体制」という言葉を「民主集中制」に変えて、また1980年に制定された同準則二条にある「集団指導体制を堅持し、個人崇拝に反対する」という露骨な表現をしていないだけである。

したがって、六中全会で集団指導体制が撤廃されることはないと判断していいだろう。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『中国「反日の闇」 浮かび上がる日本の闇』、『嗤(わら)う習近平の白い牙』、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

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