Yahoo!ニュース

ハリルホジッチの限界が露呈! 日本サッカー協会は博打に近いそのやり方をどう見るか?

中山淳サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人
(写真:なかしまだいすけ/アフロ)

ハリルホジッチ監督のコメントに騙されてはいけない

 11月10日、ハリルホジッチ監督の自宅のあるフランスのリールで、日本代表はブラジル代表と親善試合を戦った。結果は1−3でブラジルの勝利。現在の日本の実力からすれば、予想していた通りの結果と内容に終わった。

 そこに一切の驚きはなかったが、指揮官の反応には驚かされた。試合後の会見で、ハリルホジッチはこのブラジル戦をこう振り返ったのだ。

「後半はかなり満足のいくものだったし、改善点もたくさん見られた。前半が残念だった。もっとできたと思う」

 そう語った時の表情を見る限り、そこに確信や自信といったものは垣間見られなかった。「後半は満足だった」と言う割には、満足そうな表情もしていない。詭弁とまでは言わないが、それがまやかしのコメントであることは明らか。強がり、言い訳にしか聞こえなかった。

 さらに会見では、外国人記者からの質問に対してこんなやりとりもあった。

「(2014年W杯で)アルジェリア代表を率いた時と同じことが、日本代表でも実現できると思いますか?」(※アルジェリアは14年W杯でグループリーグを突破し、決勝トーナメント1回戦でドイツに惜敗)

「後半の出来を過信するわけではないが、前半が0−0だったらこの試合で日本が偉業を成し遂げていたかもしれない。残念ながらそうならなかったが、後半で満足できる時間帯があった」

 こうなると、もはや空想の世界に近い。そもそも、サッカー監督は客観的に試合を振り返るべきなのに、現実に起こったことから目を背け、極めて主観的に事実を捻じ曲げた評価を下したのだ。騙されてはいけない。この試合で起こった事実はこうだったはずだ。

 ハリルホジッチが「残念だった」と振り返った前半、日本はブラジルに圧倒された。過去、日本はA代表でブラジルに勝ったことはないとはいえ、これほど両者の間にある実力差を痛感させられたのは2000年以降初めてのことではないだろうか。しかも、ブラジルは100%のエネルギーを使っていたわけでもないし、普段はベンチ要員のダニーロ、フェルナンジーニョ、ジュリアーノがスタメンでプレーしていた。

 そんな「省エネのブラジル」に対して、日本は子供のような扱いを受けてしまった。必死になってプレスをかけても、個のスキルによって軽くかわされてしまい、中盤にスペースを与える羽目になった。そこを自由に突かれ、ボールを支配された。システムを4−2−3−1に変更し、本来はボランチの井手口陽介をトップ下で起用したハリルホジッチの戦略は、脆くも失敗に終わったわけだ。まさしく戦術崩壊である。

 後半のブラジルは、3−0とリードしてワンサイドゲームとなった前半の内容を受け、明らかに手を緩めた。そして、次の親善試合のイングランド戦に向けて途中からは主力をベンチに下げ、W杯メンバー当落線上の選手をテスト。ハーフタイムでGKを交代させたことがその予兆となっていた。そんな状況で少しばかりチャンスを作れたからと言って、一体何が「満足だった」と言えるのだろうか。

 もちろん過去の日本代表でもブラジルには完敗しているので、今回だけが例外だったわけではない。問題は、近年のブラジル戦と比べて明らかに日本が退化していることが露呈したことである。もちろん選手のクオリティは大いに改善の余地はあるが、それを必要以上にクローズアップさせる戦いをさせてしまった指揮官の責任は、もっと問われるべきではないだろうか。

 そもそもハリルホジッチのやり方は、本当に現在の日本に適しているかどうかの問題が改めて浮上する。

 そのやり方とは、試合ごとに対戦相手に合わせて立てた戦略の下、現有戦力の中からベストだと思われる選手をチョイス。システムも4−3−3と4−2−3−1を使い分け、試合前数日間で戦術を植えつけて臨むという、ほとんどぶっつけ本番の戦い方だ。選手には、試合で起こったことに対する柔軟な対応、いわば「アドリブ」が高いレベルで求められる。

 試合後の会見で話題になった14年W杯ブラジル大会のアルジェリアがそうだった。それがハリルホジッチの監督としての評価を上げた大会となったわけだが、アジア最終予選のサウジアラビア戦(2016年11月15日)あたりから、明らかにそのやり方がアルジェリア代表監督時代のスタイルに方針転換している。いや、百歩譲ってそれが日本に合っているとしても、少なくとも途中でやり方が変わったところに、もっと疑いの目を向けるべきだろう。ブレたかブレていないかでいえば、明らかにハリルホジッチはブレてしまったわけだ。

 もし就任当初からブラジル戦と同じスタイルを貫いていれば、経験の少ない選手や若手にもっとチャンスはあっただろうし、その中で個人としてもチームとしてもそれなりの成長が見られたはず。しかし、カンボジア、アフガニスタン、シンガポールといった弱小国との試合においても、ハリルホジッチは頑なにベテランを起用し続けた。にもかかわらず、最終予選終盤になってからそれまで積み上げたものを捨て、一か八かの“博打”に近い戦法に切り替えた。

 14年W杯のアルジェリア代表の選手と比べると、現在の日本の選手のタレント性は劣ってしまう。忠実に監督の指示に従うという部分では上回っているかもしれないが、自己判断力やフィジカルといった個人能力の部分では、明らかに当時のアルジェリアに軍配が上がる。今回のブラジル戦のように、トップ下に入った井手口が機能しなかった時、試合の中で選手たちが修正する力は、残念ながら持ち合わせていない。それを含めたタレント性を現在の選手たちに求めることもできない。

 個の能力をカバーするためにチーム戦術があるとすれば、少なくともベースとなる守備戦術と攻撃の形は準備しておくべきだろう。少なくとも、それがないまま偶然の勝利を手に入れたところで、ロシアW杯後には再び日本サッカーの時計の針は巻き戻されてしまう。

 日本サッカー協会は、この問題をもう一度見つめ直す必要がある。残された時間は少ないが、11月14日のベルギー戦を受けてからでも決して遅くはないはずだ。

(集英社 週プレNEWS 11月12日掲載)

サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人

1970年生まれ、山梨県甲府市出身。明治学院大学国際学部卒業後、「ワールドサッカーグラフィック」誌編集部に入り、編集長を経て2005年に独立。紙・WEB媒体に寄稿する他、CS放送のサッカー番組に出演する。雑誌、書籍、WEBなどを制作する有限会社アルマンド代表。同社が発行する「フットボールライフ・ゼロ」の編集発行人でもある。

中山淳の最近の記事