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[訃報]ジャズの“異国性”を追求し続けたユセフ・ラティーフさん逝去

富澤えいち音楽ライター/ジャズ評論家

マルチ・リード奏者にしてエキゾチックな世界観をジャズにもたらした第一人者ユセフ・ラティーフさんが亡くなられました。

Yusef Abdul Lateef, a Grammy Award-winning composer and musician, died Monday at his home in Shutesbury at the age of 93.Dr. Yusef Abdul Lateef, 93, of Shutesbury, passed away Monday, Dec. 23, 2013, in the late morning. He passed peacefully at home with loved ones.

出典:  Yusef Lateef, Grammy-winning musician, composer, dies at 93|GAZETTENET.COM

ユセフ・ラティーフ『アザー・サウンズ』
ユセフ・ラティーフ『アザー・サウンズ』

1920年に米テネシー州チャタヌーガで生まれたウィリアム・エマニュエル・ハドルストンが、イスラム教に改宗して名前をユセフ・ラティーフと改めたのは1950年。

5歳のときに引っ越したデトロイトでタップリとジャズの洗礼を受けて育った彼は、すでに1940年代にはいっぱしのプロのテナー吹きとしてツアーに出て稼いでいました。まだまだ各地ではスウィングが流行していたので仕事には困らなかったのでしょう。ところが、1950年にデトロイトに戻り改宗してからは、大学で作曲を学んだり、フルートを練習し始めたりと、それまでとはまったく異なる音楽への興味を示し始めます。

1950年代中ごろからは自己のバンドを率いて活動を始め、60年代に入るとニューヨークのシーンで注目されるようになり、マンハッタン音楽院に通って習得したフルートを携え人気バンドに参加しての活動が続きました。1980年以降は指導者としての活動にも力を入れていました。

フルートにせよオーボエにせよ、彼はオーケストラのマエストロの門を叩いてアカデミックな音楽教育のなかで演奏技術を習得しています。これは我流が一般的だった20世紀前半までのジャズ・シーンにおいてはきわめて珍しいことで、それゆえに彼がジャズに求めていたのは既成のフォーマットに則って演奏することではなかったと想像されるのです。

♪Cannonball Adderley Sextet- Bossa Nova Nemo

1962年のTVショーの映像です。飛ぶ鳥落とす人気を誇ったキャノンボール・アダレイ・セクステットに参加しているユセフ・ラティーフの演奏を見ていただきましょう。タイトルの“nemo”は、冒頭でインタビューに答えたキャノンボール・アダレイが言及しているように、「まだ名前がないんだよ」ということでのネーミング。”誰でもない(nobody)”を意味するラテン語“nemo”を仮につけておいた――ということなのでしょう。翌年には「ジャイヴ・サンバ」という名前がついて、来日公演でも演奏されました。

♪Yusef Lateef- Love Theme From Spartacus

ユセフ・ラティーフの代表的演奏のひとつ、「スパルタカス 愛のテーマ」。この曲は1960年に公開された映画「スパルタカス」(監督:スタンリー・キューブリック、主演・製作総指揮:カーク・ダグラス)の挿入曲をカヴァーしたものです。

ご冥福をお祈りします。

音楽ライター/ジャズ評論家

東京生まれ。学生時代に専門誌「ジャズライフ」などでライター活動を開始、ミュージシャンのインタビューやライヴ取材に明け暮れる。専門誌以外にもファッション誌や一般情報誌のジャズ企画で構成や執筆を担当するなど、トレンドとしてのジャズの紹介や分析にも数多く関わる。2004年『ジャズを読む事典』(NHK出版生活人新書)、2012年『頑張らないジャズの聴き方』(ヤマハミュージックメディア)、を上梓。2012年からYahoo!ニュース個人のオーサーとして記事を提供中。2022年文庫版『ジャズの聴き方を見つける本』(ヤマハミュージックHD)。

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