[訃報]ジャズの“異国性”を追求し続けたユセフ・ラティーフさん逝去
マルチ・リード奏者にしてエキゾチックな世界観をジャズにもたらした第一人者ユセフ・ラティーフさんが亡くなられました。
1920年に米テネシー州チャタヌーガで生まれたウィリアム・エマニュエル・ハドルストンが、イスラム教に改宗して名前をユセフ・ラティーフと改めたのは1950年。
5歳のときに引っ越したデトロイトでタップリとジャズの洗礼を受けて育った彼は、すでに1940年代にはいっぱしのプロのテナー吹きとしてツアーに出て稼いでいました。まだまだ各地ではスウィングが流行していたので仕事には困らなかったのでしょう。ところが、1950年にデトロイトに戻り改宗してからは、大学で作曲を学んだり、フルートを練習し始めたりと、それまでとはまったく異なる音楽への興味を示し始めます。
1950年代中ごろからは自己のバンドを率いて活動を始め、60年代に入るとニューヨークのシーンで注目されるようになり、マンハッタン音楽院に通って習得したフルートを携え人気バンドに参加しての活動が続きました。1980年以降は指導者としての活動にも力を入れていました。
フルートにせよオーボエにせよ、彼はオーケストラのマエストロの門を叩いてアカデミックな音楽教育のなかで演奏技術を習得しています。これは我流が一般的だった20世紀前半までのジャズ・シーンにおいてはきわめて珍しいことで、それゆえに彼がジャズに求めていたのは既成のフォーマットに則って演奏することではなかったと想像されるのです。
♪Cannonball Adderley Sextet- Bossa Nova Nemo
1962年のTVショーの映像です。飛ぶ鳥落とす人気を誇ったキャノンボール・アダレイ・セクステットに参加しているユセフ・ラティーフの演奏を見ていただきましょう。タイトルの“nemo”は、冒頭でインタビューに答えたキャノンボール・アダレイが言及しているように、「まだ名前がないんだよ」ということでのネーミング。”誰でもない(nobody)”を意味するラテン語“nemo”を仮につけておいた――ということなのでしょう。翌年には「ジャイヴ・サンバ」という名前がついて、来日公演でも演奏されました。
♪Yusef Lateef- Love Theme From Spartacus
ユセフ・ラティーフの代表的演奏のひとつ、「スパルタカス 愛のテーマ」。この曲は1960年に公開された映画「スパルタカス」(監督:スタンリー・キューブリック、主演・製作総指揮:カーク・ダグラス)の挿入曲をカヴァーしたものです。
ご冥福をお祈りします。