Yahoo!ニュース

快進撃を続ける“打”のナショナルズが抱える不安要素

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
現在三冠王ペースで打ちまくっているライアン・ジマーマン選手(写真:USA TODAY Sports/アフロ)

今シーズンのナショナルズの打線は、ここまで間違いなくメジャー随一を誇っているだろう。

5月10日現在で、チーム打撃成績は両リーグを通じて、打率、打点、得点、長打率、安打数、二塁打数の各部門で1位に輝く他、本塁打数でも同2位と、圧倒的な成績を残している。

その中心にいるのがライアン・ジマーマン選手で、ここまで本塁打数こそ1位タイに並んでいるが、打率、打点では両リーグ単独1位で三冠王ペースで打ちまくっている。またジマーマン選手の陰に隠れがちだが、ブライス・ハーパー選手も開幕から好調を維持しており、まさに大砲2本柱で打線を牽引している状態だ。

その一方で、投手陣は決して盤石とは言い難い。ここまでのチーム防御率は4・22と両リーグ17位に留まっているのだ。これはMLB平均すら下回っている状態だ。

その理由は明白だ。マックス・シャーザー投手、ステフェン・ストラスバーグ投手、ジノ・ゴンザレス投手の先発3本柱が防御率2点台を維持している先発陣の防御率は同6位の3・62とまずまずの成績を残している一方で、開幕からクローザーを固定できず不安定な状態が続いている中継ぎ陣は防御率5・47で同28位と低迷しているのだ。

ここで面白いデータを紹介したい。過去10年間ワールドシリーズを制覇したチームのシーズン中のチーム打率とチーム防御率を調べてみると、チーム打率でMLB平均以下ながらワールドシリーズを制覇したチームは2010年のジャイアンツ、2008年のフィリーズの2チーム存在しているのだが、チーム防御率に関しては10チームすべてがMLB平均を上回っているのだ。

あくまで投打の一部門だけの比較だけなのですべてを解析することはできないとは思うが、だがシーズンを戦い終え、さらにポストシーズンを勝ち抜いていく上で、打撃力よりも安定した投手力が重要になってくる傾向だけは理解してもらえるだろう。

日本でも“打撃は水物”という表現が使われるように、対戦する投手の出来次第で成績は自ずと変わってしまうものだ。ましてやポストシーズンまで勝ち上がってきたチームともなれば、記述のデータ通り平均以上の投手力を揃えているのだから、シーズン中の打撃力を期待できるか不透明なのは一目瞭然だろう。

現在のナショナルズは、投手陣の低迷を打撃陣が完全にカバーできているる状況だといえる。しかし今後シーズンを戦い続け、さらにポストシーズンを迎えることを考えると、現在の中継ぎ陣ではあまりにリスクが大きすぎる。

ナショナルズが現在の成績を続ける限り、今年のトレード市場はかなり積極的に動いていくことになりそうだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

菊地慶剛のスポーツメディア・リテラシー

税込550円/月初月無料投稿頻度:月3、4回程度(不定期)

22年間のMLB取材に携わってきたスポーツライターが、今年から本格的に取材開始した日本プロ野球の実情をMLBと比較検討しながらレポートします。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

菊地慶剛の最近の記事