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韓国映画「実尾島事件」は再現されるか 「金正恩暗殺部隊」派遣の可能性

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
朴槿恵大統領

朴槿恵大統領の「金正恩憎し」が絶頂に達している。

朴大統領は昨年までは北朝鮮に対話を呼び掛けていたが、1月6日の核実験に堪忍袋の緒が切れたのか、金正日総書記の生誕日にあたる2月16日、「もう既存の方式と善意で北朝鮮の核開発意志を折ることはできない。核開発では生き残れず、むしろ体制崩壊を促すだけだということを金正恩政権に思い知らせる」と考えを改めなければ、経済的に外交的に軍事的に圧力をかけ窒息させると息巻いてみせた。

金正恩政権を「極限の恐怖政治で政権を維持している」「ブレーキをかけず暴走している」と批判する朴大統領は歴代政権下でタブー視されていた北朝鮮の「体制崩壊」を初めて口にした。続いて22日に青瓦台で開かれた首席秘書官会議ではこれまた初めて「金正恩」と呼び捨てにした。

そして今回、北朝鮮が5度目の核実験を強行したことに怒り心頭し「金正恩の精神状態は制御不能」であるとついに狂人扱いにしてしまった。朴大統領が金委員長個人の性格について直接触れて、批判したのは初めてのことだ。

この発言は、中部前線の前方軍団を訪問した際に飛び出たが、朴大統領は「(金正恩体制は)一人独裁政権の下で、非常識的な意思決定を行う体制だということと、金正恩の性格が予測しがたいことを考慮すると、北朝鮮の核やミサイルの脅威が現実化する危険性はとても高い」と述べていたことからどうやら「金正恩除去作戦」が韓国政府内で始動したようでもある。

今春の米韓合同軍事演習は韓国の特殊部隊とともに米国からも米陸軍1特殊戦団、米陸軍第75レンジャー連隊、米空軍第720特殊戦術連隊、米海軍特殊戦団など特殊作戦を遂行する部隊が参加して行われた。イスラマバード郊外のアボタバードにある邸宅でビン・ラーディンを殺害したNavySEALsの部隊も送り込まれた。特殊部隊を極秘潜入させる米空軍のMC-130J支援機が投入され、空挺部隊をパラシュートで降下させ敵地に深く侵入させる訓練も行われた。米韓の特殊部隊がこの種の訓練を合同で行うのは米韓合同軍事演習史上初めてであった。

今年の合同軍事演習は北朝鮮を先制攻撃し、平壌を制圧する「5015作戦」に基づいて実施されたが、この作戦の核心が「斬首作戦」である。「斬首」とは北朝鮮に奇襲攻撃をかけ、命令権を持つ金正恩第一書記ら最高指導部を暗殺、駆除することである。

この「斬首作戦」は今や秘密でもなんでもない。米軍特殊部隊と共にこの作戦を遂行する韓国陸軍特殊戦司令部(特戦司)は「敵(北朝鮮)の戦略的核心標的を打撃するための特殊部隊の編成を推進している」ことを認めている。

韓国はかつて北朝鮮特殊部隊によって大統領府(青瓦台)が狙われた時、報復として空軍管理下にあった軍特殊犯23人を北朝鮮に送り込むため孤島の実尾島(シルミド)に集め、訓練させたことがある。狙いは、金日成首相(当時)の官邸を襲撃し、暗殺することにあった。彼らは、北朝鮮で逮捕された場合に備え、住民記録は抹消された。住民登録を照会しても、わからないように処理された。

金大中政権の2000年、日本人拉致実行犯の辛光洙(シン・グァンス)ら北朝鮮工作員らの送還が引き金となり、韓国の北派工作員の問題が国会で取り上げられたことがあった。驚いたことに、休戦協定の1953年から南北対話が始まった1972年までの間に北朝鮮に送り込まれた工作員のうち逮捕あるいは失踪した工作員が7,726人いることがわかった。

当時、志願して北派工作員になった軍人は「北朝鮮に行って来れば、除隊させ、就職を斡旋する。成功次第では報奨金も出す。報奨金は個人タクシー一台分だ。年金も出るし、家族への毎月の生活費も約束された」と述べていたが、訓練の内容について以下のように証言していた。

「一般部隊での訓練のほかに射撃や手榴弾の投下訓練を受けた。そこで訓練を受けた後に固城郡の某地域に移動した。そこは、陸軍防諜工作組の訓練所だった。一つの部隊に100人はいた。我々の部隊はコウモリ部隊で、テント生活をしながらあらゆる訓練を受けた。背中に30キログラムの重さの砂袋を背負い、両足にそれぞれ1.5キログラムの砂袋を下げて生活した。山岳訓練、AK訓練、テコンドー、通信、その他心理作戦などの訓練を受けた。もちろん爆破訓練も受けた」

「私の任務は拉致だった。5人1組で、組長と組長ガード、それに爆破設置者と二人の拉致組で編成されており、組長が電話機を押せば、爆破することになっていた。9月9日の(北朝鮮の)建国記念日に入って、翌日出て来た。教官からは『生け捕りにされても、自首しても殺されるので自爆せよ』と教えられていた。映画のように劇薬を飲むのではなく、手榴弾で自爆することになっていた」

別の北派工作員も当時、以下のように証言していた。

「北朝鮮に侵入したのは1964年2月23日。我々の部隊には窃盗犯、拉致犯、写真班の三つの班があった。拉致犯は3人が一組になって拉致してくる。私は窃盗犯に属していた。私の任務は××市内の人民軍迫撃砲部隊から資料を盗むことだ。短期浸透で一週間分の食糧を持って侵入する。もちろん、人民軍下士官の階級が付いた人民軍服を着て浸透する。戻る途中に中央分界線の地雷を踏んでしまったが、必死に戻った。この年の8月に足を洗ったが、仲間に挨拶しても避けられていた。北に入った人間が生きて帰ってきたことから怪しまれ、警戒されてしまったのだろう」

今から45年前の「実尾島事件」は集められた「特攻隊員」は囚人らだが、今では軍人や工作員出身の脱北者もいる。

来年12月の大統領選挙で実質任期が終わる朴大統領にとっては時間がない。それまでの間に、金正恩政権が窒息しなければ、自滅しなければ、金委員長との「存亡をかけた戦い」は朴大統領の負けとなるので、勝つためには手段を選ばない可能性も考えられる。

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ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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