JTによる減税分の社員還元の意味
復興特別法人税は2013年度末に廃止されたが、予定よりも1年早く廃止されたことで、日本たばこ産業(JT)は、減税分の約20億円を社員に還元すると発表した。減税分を社員に還元するということは、あまり聞いたことがない。
JTでは約9000人の社員を対象に、1人20万円(新入社員は4万円)を5月中旬に渡すそうである。JTは「社員の士気向上とともに、社員の支出増につなげ、消費財メーカーとしてデフレ脱却の一助になれば」と説明している(読売新聞)。
社員の士気向上はさておき、JTの動きは政府の意向が強く反映されていると思われる。復興特別法人税は前倒しで廃止されたが、復興特別所得税の廃止は、復興事業の実施を困難にするとの理由で継続されている。
復興特別法人税の前倒しの廃止理由として、政府のとりまとめ案では、「企業がデフレマインドを脱却し、継続的な賃金引き上げに向けて第一歩を踏み出すためには、そのきっかけが重要であることにかんがみ、検討することとした」と明記されている(ロイター)。今回のJTの動きは、賃上げそのものではないものの、減税分を株主等ではなく一時金として社員に渡す。
これが悪いというわけではないが、政府の付焼刃的な政策に、政府に関わりのある企業が付焼刃的な手段で答えたようにしか見えなくもない。社員に支給される20万円がどのように使われるかは、受け取った社員の意向次第ではあるが、これでどれだけデフレ脱却に効果的なのかはっきりしない。そのまま将来のリスクに備えて預金に回す人も多いであろう。
政府は企業の賃上げなどについても口を挟んできているが、企業側からすれば余計なお世話ということではなかろうか。日本の潜在成長率が上がり、将来に向けてのビジョンが開けるのであれば、企業は物だけでなく人にも投資する。政府は裏方としてその環境作りをしなければならないはずが、通貨や国債の信用を脅かしかねないリフレ政策により、円安株高を演出したものの、結局、ほとんどそれだけであった。この裏返しとして日本国債に対する潜在的なリスクを上昇させた。
欧州の信用リスクの後退が円安株高の背景にあり、欧米の景気も回復しつつあるが、このような好環境下にあっても日本はそこに完全には乗り切れていない。貿易収支の赤字拡大がそれを物語っている。円安要因を除いて、どれだけ環境が好転したといえるのであろうか。
現在のデフレ脱却とのイメージは官により半ば強引にもたらされたものであり、民によるものとは言えない。今回のJTの社員にむけた20万円の支給もまさにそれを示しているのではなかろうか。