ヒジで切る ヒザで断つ――キックルールの痛みと醍醐味
〈国内スター選手が大田区体育館に集結〉
「骨の軋(きし)む音がする。
魂と魂がぶつかり合う音がする――」
特別リングリングアナウンサーを務めた福澤朗アナは大会前、こんなメッセージでファンの期待感を煽った。
その大会とは3月12日、東京・大田区体育館で開催されたキックボクシング・イベント『NO KICK,NOLIFE(ノー・キック,ノー・ライフ)2016』。「日本ムエタイ界の至宝」と言われる梅野源治(27)、デビュー以来11戦全勝9KOの快進撃を続ける“神童”那須川天心(17)など、国内のさまざまなイベントを代表するチャンピオン、チャンピオンクラスが集結し、“純キックボクシング・ルール”でその実力を競う、年に一度のビッグマッチだ。
〈国内の立ち技イベントは30以上〉
ここで、改めてパンチと蹴りを主体とする立ち技格闘技のルールについて、おさらいしておきたい。
現在、このジャンルは群雄割拠の様相を呈しており、設立30年を超える老舗団体から地方発の小規模イベントまで、実に30以上の格闘技大会が全国各地で開催されている。統括組織がないため、それぞれが試合の面白さや安全性を追求した独自のルールを設けているのが、このジャンルの大きな特色といえる。
ざっくりと大別すれば、ルールの大きな違いは2つ。試合時間が3分3ラウンドか、3分5ラウンドか。そしてパンチと蹴りに加え、ヒジによる攻撃と首相撲からのヒジ、ヒザ攻撃などを認めるか否か。K-1ルールなら3分3ラウンドでヒジなし・首相撲からの攻撃なし。今大会の場合は5ラウンドでヒジも首相撲もありの、いわゆるキックボクシング・ルール。タイの国技・ムエタイに最も近いルールとなる。
3ラウンド制ではスピーディーな攻防が楽しめる。また1回でもダウンすると、ポイントで挽回するのが難しくなるため、「倒し返す」べく攻撃も一層激しくなる。
〈4ラウンドからは未知の領域に〉
それでは、キックボクシング・ルールの醍醐味とは? 今大会に出場した森井洋介(元WBCムエタイ日本フェザー級王者/27)は「我慢比べと選手の個性」だと語る。
「3ラウンドまではローキック(おもに自分のスネで相手の脚を蹴り、ダメージを蓄積させる)も我慢できるけど、4ラウンドあたりからジワジワ効いてくる。そこからは究極の我慢比べになるんです。痛みに耐えることもスタミナも、勢いで乗り切れる領域を超えていく。
それに、キックルールは使える技の制約が少ない“全部あり”のルールなので、ヒジが得意な選手もいれば、自分みたいにパンチとローでガツガツ攻めるタイプもいる。それぞれの個性を発揮できるルールだと思います」
実際、今大会で難敵・町田光(WPMF世界スーパーフェザー級王者/28)と対戦した森井は、序盤の劣勢を徐々に盛り返し、「自分のスネで相手のスネを切る」という形で4ラウンドTKO勝ちを収めた。
〈ヒジの攻撃は“真剣”の切りあい〉
かつて日本フェザー級王者として活躍し、今大会のプロモーターを務めた小野寺力氏(キックボクシングジムRIKIX代表/41)は、「どのルールにも面白さや醍醐味がある」とした上で、少年時代から打ち込んできたキックボクシング・ルールに今後もこだわっていきたいと語る。
「たとえば、パンチが打てないような近い距離で打つヒジや、組み合った状態でのヒジやヒザの攻防など、いい選手同士が闘えば常に展開があり、見ている人も飽きない試合になると思う。だから(キックルールに)こだわりたいですし、ヒジの攻撃は真剣の切りあいのようなイメージで、一発逆転が可能なところも面白いと思います」
今大会でも冒頭の福澤アナの言葉「骨の軋む音がする」を体現するかのようなヒジ・ヒザの攻防が随所に見られ、そのたびに満員の会場は大きなどよめきに包まれた。
シンプルにどちらが強いかを競う格闘技は、ルールを知らなくても楽しめる。だが、ルールを知れば選手や主催者のこだわりが透けて見え、より深く味わうことができる。もし、一度キックを見てみたいという人がいたら、「誰が出ているか」と共に「どんなルールか」にも着目してイベントを探してみてほしい。
今大会の放送予定
◆TOKYO MX
放送予定:3月31日(木) 24時~24時30分
4月7日(木) 24時~24時30分
放送予定 : 3月24日(木)22:00~24:00