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【将棋】炎の十番勝負は豊島名人が一歩リード

遠山雄亮将棋プロ棋士 六段
筆者撮影

 この夏は豊島将之名人(29)と木村一基九段(46)が2つの棋戦で番勝負を争っている。

 第60期王位戦七番勝負と第32期竜王戦挑戦者決定三番勝負だ。2つを合わせると十番勝負となる。

 昨日は広瀬章人竜王への挑戦権を懸けた竜王戦挑戦者決定三番勝負の第1局が行われ、豊島名人が快勝して挑戦まであと1勝とした。

 王位戦七番勝負は現在豊島王位の2勝1敗、竜王戦挑戦者決定三番勝負と合わせての十番勝負は豊島名人が3勝1敗と一歩リードしている。

昨日の対局

 昨日の対局を振り返ってみよう。

 先手番の木村九段は、王位戦第2局に続いて相掛かりを採用した。序盤から豊島名人が踏み込み、午前中から飛車角が交換される激しい展開となった。

 木村九段は金損したが、豊島名人の陣形を大きく乱しているのが主張だった。

 持ち時間の使い方からみても豊島名人の研究範囲での展開で、形勢にもある程度自信を持っていたように見受けられた。

 局面が落ち着いたところで角を転換したのが豊島名人が研究段階から狙っていた構想だったのだろう。そこでペースを握り、リードを奪ってからは木村九段に粘りを許さなかった。

十番勝負のこれまでと今後の予定

 王位戦では第1局で豊島王位が完勝し、第2局は木村九段が優勢の将棋を落とした。

 豊島王位の2連勝でシリーズの流れが決まったかにみえたが、第3局で木村九段が持ち味である受けの強さを発揮して後手番で星をひとつ返した。

 木村九段としては昨日も勝って十番勝負の流れをグッと引き寄せたかっただけに、痛い敗戦だった。

 ここから立て続けに十番勝負が行われる。

  • 王位戦第3局▲木村九段―△豊島王位:8月20・21日
  • 竜王戦挑決第2局▲豊島名人―△木村九段:8月23日
  • 王位戦第5局▲豊島王位―△木村九段:8月27・28日

 炎の十番勝負は一気に佳境を迎える。豊島名人が3連勝すればどちらの番勝負も終了だ。

十番勝負、ここからの展望

 現状、勝ち星でリードしている豊島名人の有利は揺るがないと筆者はみている。

 一つは、豊島名人が得意戦法の先手番角換わり戦法を温存しているからだ。

 王位戦第3局では先手番で矢倉戦法を採用したのだが、これは番勝負後半の勝負所に角換わり戦法を残しておいたのだろう。

 木村九段が後手番で角換わりを避けて横歩取り戦法を採用するにしても、王位戦第1局で完敗しただけに再びの採用に踏み切れるかどうか。

 竜王戦挑決第2局、王位戦第5局と立て続けに豊島名人が先手番で迎える。ここでエースを投入して一気に決着を目指すだろう。頼れる武器が残っているのは心強い。

 もう一つ、これだけの過密日程ともなれば、人間同士の戦いである以上、体力勝負になってくる。

 昨日の対局の感想戦をAbemaTV将棋チャンネルで観ていたが、敗戦の直後ということもあるとは思うが、木村九段に疲れが濃いように筆者は感じた。

 年齢的にも、ここ数年の過密日程の経験値の面でも、体力勝負となれば豊島名人に分がありそうだ。

木村九段の巻き返しも

 星の上でもリードされている木村九段だが、逆境に強いこと、そして何度となく立ち上がってきたその姿をファンは知っている。

 年齢のことを書いたが、この年齢で上昇気流に乗っていることがそもそも過去のプロ将棋の歴史を紐解いても珍しい。

 体力作りに余念のない木村九段にとって、年齢という常識は当てはまらないだろう。むしろ体力勝負は望むところかもしれない。

 将棋の内容も、王位戦第2局では途中までは会心の指し回しだったし、王位戦第3局では受けの技術で豊島王位を圧倒した。内容面では決して負けていない。

 先手番で迎える王位戦第4局を勝って、そこから続く過密日程にはずみをつけたい。

 炎の十番勝負は佳境を迎えている。

 今後もご注目いただきたい。

将棋プロ棋士 六段

1979年東京都生まれ。将棋のプロ棋士。棋士会副会長。2005年、四段(プロ入り)。2018年、六段。2021年竜王戦で2組に昇級するなど、現役のプロ棋士として活躍。普及にも熱心で、ABEMAでのわかりやすい解説も好評だ。2022年9月に初段を目指す級位者向けの上達書「イチから学ぶ将棋のロジック」を上梓。他にも「ゼロからはじめる 大人のための将棋入門」「将棋・ひと目の歩の手筋」「将棋・ひと目の詰み」など著書多数。文春オンラインでも「将棋棋士・遠山雄亮の眼」連載中。2019年3月まで『モバイル編集長』として、将棋連盟のアプリ・AI・Web・ITの運営にも携わっていた。

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