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迫害された人を強制送還し、DV被害女性を収容して死なせる。入管法改正をめぐる動きは人道に反している

伊藤和子弁護士、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ副理事長
ミャンマー・ロヒンギャ難民 日本にもいることをご存知ですか?(写真:ロイター/アフロ)

 今国会で、入管法改正が審議され、その過程で、日本の難民・収容政策の問題が改めて浮き彫りになっています。

 ところが、審議も十分でないまま、連休明け、早ければ明日にも採決をするという情報があり、仰天しています。

 このような法律を通すなど、人道的にあってよいことではないと考えます。

入管法の何が問題か?

 日本では在留資格のない外国人の方は、退去強制処分を受けると送還されるまで入管施設に無期限に収容され、帰国を拒んだ外国人の方が非人道的な環境で長期間収容されています。

 その結果ハンガーストライキによる抗議が広がり、餓死された方もいました。

 難民申請をしているなど、事情あって帰国ができない人がほとんどであるのにいつまでも拘束され、施設内での虐待、暴力も深刻化しています。

 在留資格を失っただけの外国人を虐待、暴力、死に至るような無期限拘束で苦しめる、日本の現状は、恣意的拘禁を禁止する人権条約に違反するとして国連からも強く改善を求められています。

 日本の入管収容の問題点多々ありますが、最も問題な点として、以下の点があります。

● オーバーステイというだけで、原則全員を収容施設に収容すること

● 収容するのは行政の判断であり、裁判所の判断で収容するか否かが決まるものでないこと。

● 帰国したくない人は無期限に収容されうること

 これは非常に怖いことです。

 行政の判断で無期限にに収容される、そんなことがあったら、どうしますか?

 罪を犯したとして逮捕されたとしても、裁判所で裁判を受け、有罪になったとしても刑期が決まっています。それとは違い、裁判もない、いつ自由になるかもわからないのです。

 「帰国すればいいんだよ」という方もいるでしょうが、帰国したら殺されてしまうのではないか、拷問を受けるのではないか、と恐れている場合、留まるも地獄、行くも地獄という状況に置かれ、心身ともに追い詰められてしまうのは想像に難くありません。

 収容者の餓死批判を受けて、政府でも長期収容を解消するための法改正を議論し法改正が提案されました。

  法改正をするなら、こうした人権無視の横行を徹底して検証し、再発防止策を法制度化すべきです。収容の機関を決め、収容するかどうかは裁判所が決めることとすべきです。

 ところが、今回の法改正では、収容にあたっての裁判所の判断は導入されず、収容の期限を決めることもしませんでした。

 収容に代わる「監理措置」というのを新しく導入するとのことですが、100万単位の保証金が払えるような人しか対象とならず、困窮した外国人には到底望めない選択肢です。

 全件収容への批判をかわす「アリバイ作り」でしかないのではないでしょうか?

入管法改正の何が問題か?

 一方、今回の法改正の主眼は、収容されている人、故国に帰りたくないと言っている人を強制的に送還しやすくすることです。

以下は、政府(出入国在留管理庁)のウェブサイトから問題な箇所をそのまま引用します。

● 難民認定手続中の送還停止効に例外を設けます。 

・ 難民認定申請の回数や理由を問わず,また,重大犯罪を犯した者やテロリスト等であっても,一律に送還が停止される現在の入管法の規定を改め,一定の要件に当てはまる外国人については,難民認定手続中であっても日本から退去させることを可能にします。

● 退去を拒む外国人に退去等の行為を命令する制度を設けます。

・ 退去を拒む外国人のうち,送還が困難な一定の要件に当てはまる者に限って,定めた期限までに日本から退去することや,旅券の発給の申請等送還のために必要な行為をすることを命令し,その命令に違反した場合には処罰されることにします。

 これまで、日本は「迫害の危険のある人を故国に送還しない」という国際ルール(ノンルフールマン原則)があるため、難民申請をしている人を強制送還しませんでした。

 そのため、難民申請を何度も重ね、ようやく認められるという人もいますし、難民申請が認められなくても日本にとどまる人がいます。

 日本の難民認定率は1%、99%が難民認定されないところにまず大きな問題がありますが、シリア、イラン、アフガニスタン、ミャンマー、香港、新疆ウイグル自治区など、迫害されたり、帰国すれば命の危険が待っていることが想像に難くない国はたくさんあります。ところが、そうした国から救いを求めて日本に来る人もほとんどが難民として認定されません。

 改正案では、これまで、難民でなくても申請を繰り返すことで何とか日本にいられた人たちまで、強制的に送り返すことになります。

拷問や虐殺の危機のある人を迫害する故国に送り返す、これは人道上、重大な問題であり、国際ルールに明らかに反します。

 例えば在日ミャンマー人の方々。クーデターに反対して活動している人たちのうち、難民認定されないまま、申請を繰り返されている人たちを強制的に帰国させたら、いったいどうなるでしょう?

 殺されたり拷問されるリスクは極めて高いのに、なぜ強制的に送還するというのでしょうか?

 ミャンマーや中国の人権問題に懸念を表しているのは単なるポーズにすぎないのではないでしょうか?

 また、帰国しない人を罪に問うというのも、事情があって帰国できない人をさらに追い詰め、処罰する実に無慈悲な対応です。

 このような法案を起草し、通そうとする政府関係者は良心が痛まないのでしょうか?

 今、世界を見ても、ミャンマーや香港、ウイグル自治区など、深刻な人権侵害が起きており、日本にできる一番地に足の着いた貢献は、救いを求める人を難民として受け入れ、人道的に取り扱い、助けることです。99%が認定されない難民制度こそ真剣に変えるべきです。

 弱い立場に追い詰められた外国人の方々への人権侵害に目をつぶり、「追い返す」ありきの政策は本当に恥ずかしいです。

DV被害から救いを求め、収容されたスリランカ女性の死

 今年3月、33歳のウィシュマさんというスリランカ女性が名古屋の収容施設で死亡しました。

 彼女は2017年に留学生として来日、学費を払えなくなり、日本語学校を除籍になって在留資格を失います。

 交際していた男性からDVにあい、救いを求めて警察に相談した結果、保護されることもなく、収容されてしまったのです。

 その男性から「帰国すれば殺す」と脅す手紙が届き、恐怖で帰国できなくなり、長期収容で日に日に衰弱。それでも施設で点滴すら受けられず、適切な医療もなく、仮放免で外に出る機会も与えられずに亡くなったといいます。

 緊急搬送された病院の血液検査で血糖値、腎機能、肝機能などが異常に高い数値を示していたことが明らかになり、死体検案医を務めた別の男性医師は「驚くような異常値がずらりと並んでおり全身状態が悪い。意識障害を起こす重症の糖尿病で、脱水とあわせ腎不全や高カリウム血症を起こし貧血も高度。致死的不整脈を誘発するレベル。専門的な医療機関に即入院して治療すべきだった」と指摘したというのです(東京新聞)。見殺しではないでしょうか?

 学費が払えず日本での夢を絶たれ、DVの被害を受けて救いを求める、そんな女性の命を国の収容政策が奪ったのです。

 日本政府はDV被害を深刻な女性に対する暴力と位置づけ、DV防止法により被害者を保護すべき責務があります。

内閣府のHPには以下のように書かれています。

被害者が外国人であっても、配偶者暴力防止法の対象となります。

また、離婚後も日本に滞在する場合は在留資格についての手続が必要です。

職務関係者は、その職務を行うに当たり、被害者の国籍、障害の有無等に関わらず人権を尊重すべきこととされています(内閣府)

 しかし、被害者がオーバーステイの場合、保護するのでなく、入管当局に出頭させるというのが国の政策です。

不法滞在の状態にある被害者が日本において正規に在留できる状態を回復するためには、入管当局に出頭の上、退去強制手続の中で、法務大臣の在留特別許可を得るしかないことから、支援センターにおいては、その旨を説明した上で、入管当局への出頭を進めることが望ましい(内閣府).

 しかし、入管当局に出頭したら殺されるかもしれない、それが今の日本の現状だとしたら?だれも、怖くて助けを求められないでしょう。

 外国籍の人は、DV被害にあうと、配偶者からビザ更新の協力を得られなくなったり、心身共に追い詰められて手続どころではなくなり、オーバーステイになりやすいのが現状です。

資格を失うところまで追いつめられる、それは被害の一部である場合が多いのに、その状況に対する特別な配慮もなく収容され、まともな医療も受けず、命を落としても仕方ない、ということでいいのでしょうか?

 女性の権利を守るという政府の責任に明らかに反する、重大な問題だと思います。

 夢を抱いて日本に来た彼女に対して、DVからの救いを国に求めた彼女に対して、なぜこのような残酷な仕打ちをして命を奪ったのか?

日本人としてとても申し訳なく、悲しく思いました。

 このように人間を虐待し、虫けら同然に命を奪う、致死性をはらむ収容所がこれからも何の反省もなく運用されていくことが許されてはなりません。

 入管法を改正するというなら、まずは人の命を奪い、人を虐待する収容の実態を調査し、徹底的な検証をして、再発防止策を国会で議論し、抜本的な改善策を法律に反映すべきです。

遺族に会わないまま、採決を強行するのか?

 ウィシュマさんの遺族は5月1日に来日、上川法務大臣への面談を希望していますが、上川大臣は面談をしない方針であり、一方、入管庁は遺族を14日間、ホテルに待機させる方針だと報じられています(東京新聞)

上川陽子法相は30日午前の閣議後記者会見で、遺族が法相との面談を希望していることに「遺族の皆さまにも心痛を感じる事案が発生し心を痛めているが、中間報告の現状でお会いするのは必ずしも適切でないと考えている」と現時点での面談は行わない方針を示した。

 名古屋入管の見学を遺族が希望した場合の対応には「遺族の要望には入管庁としてしっかり対応、支援していきたい」と答えた。

 遺族はできるだけ早い段階での遺体との対面を希望しているが、入管庁は原則通り入国時にホテルなどに14日間、待機することを求める方針。

 あまりにひどい仕打ちではないでしょうか?

 コロナのために待機せざるを得ないとしても、家族の命を奪った国の政府として、遺族に説明も謝罪もないまま、ただ隔離、待機させるなど、大切な家族を亡くした人に対する誠意ある態度とは到底言えません。

 対等な人間として扱っているとは到底思えない振る舞いです。

 そして、遺族を隔離している間に、検証も反省もなく、入管の権限を強化し、収容された人を益々追い詰めるような入管法の採決を強行してしまうとしたら、それはなんと卑怯な国でしょうか?

これは私たちの問題

 いつから日本は外国の人に対して、かくも公然とひどい取り扱いをする国になったのでしょう。明らかな差別意識があるとしか思えません。

 これでオリンピックを開催しようという資格があるのでしょうか?

 一部の入管職員に問題があるということで済まされるでしょうか?

 私たちの目に見えない薄暗いところで起きている人権侵害は私たちには関係ないでしょうか?

入管で収容された人の死はずっと繰り返されてきた構造的な問題です。

そして、この入管施設は紛れもなく日本にあり、私たちが支払う税金で運営され、職員の給与も税金でまかなわれています。

 私たちが沈黙することは、外国人を差別し、虐待し、その命を粗末にして恥じない、非人道的な政策を容認していることになります。

 それでいいのでしょうか?

 世界中の人たちと仲良く暮らしたいという希望を抱いている若者たちや将来世代に、どうやって私たちの国はこんな差別的な国だけれど仕方ないんだと説明ができるでしょうか?

このような改正に賛成することは国として本当に恥ずかしい、非人道的なことである、という自覚を全ての国会議員には持っていただいたいと思います。

そして、そのようなことをさせないように、是非多くの人に声を上げていただきたいと思います。(了)

参考 国連特別報告者らによる、入管法改正案に関する懸念表明と対話を求める共同声明和訳

弁護士、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ副理事長

1994年に弁護士登録。女性、子どもの権利、えん罪事件など、人権問題に関わって活動。米国留学後の2006年、国境を越えて世界の人権問題に取り組む日本発の国際人権NGO・ヒューマンライツ・ナウを立ち上げ、事務局長として国内外で現在進行形の人権侵害の解決を求めて活動中。同時に、弁護士として、女性をはじめ、権利の実現を求める市民の法的問題の解決のために日々活動している。ミモザの森法律事務所(東京)代表。

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