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ゲーマーが亡くなった後、ダウンロードゲームは相続できない?「デジタル遺品」の法整備が急務かも

多根清史アニメライター/ゲームライター
Image:The Completionist

人は、いつかは死ぬもの。それはゲーマーも例外ではありませんが、莫大なゲームソフトの山を誰に託すのか? 物理的なROMカートリッジや光学ディスクであれば、宝石や車のように「一般動産」として相続なり遺言による贈与の対象となり得ます。

が、最近ではゲームソフト売上の大きな部分をダウンロード版が占めています。ゲームに限らず、パソコンやスマートフォン、クラウドサーバーに保存された故人のコンテンツやデータは「デジタル遺品」と呼ばれており、どう扱うかが問題となりつつあるもの。

アップルGoogleであれば「故人アカウント」として、生前の本人が譲る相手を指定、遺言を残さなくとも柔軟に対応してくれますが、他のプラットフォームがそうしてくれるとは限りません。

Steamで買ったPCゲームは遺贈が「ブロックされない」可能性

写真:つのだよしお/アフロ

この話が海外でにわかに盛り上がっているのは、ゲーム業界人が集う掲示板ResetEraのユーザーが、PCゲームプラットフォームSteamアカウントの所有権を移転できるかにつき、公式サポートの回答を引用したことがきっかけでした。

それは「Steamアカウントとゲームは譲渡できません。アカウントへのアクセスを他の人に提供したり、アカウントの内容を他のアカウント統合できません。遺言で譲渡することも不可能です」とのこと。

現実問題として、Steamのユーザー名とパスワードを書いたメモを子孫なりに渡したとしても、Steam運営側がそれを知る術はないはず。とはいえ、Steamは「法的には」認めないというわけです。

もっとも、Steam利用規約には「Valve が別途明確に認めた場合を除き、ユーザーのパスワードまたはアカウントについて、第三者へ口外したり、第三者と共有したり、第三者による使用を許可したりすることはできません」との一節もあり。つまりValveが「明確に認め」さえすれば、アカウントを譲り渡せるとも読み取れます。

実際、あるSteamフォーラム投稿者の1人は、過去にValveが何度か、遺言による「所有権の変更を妨げません」と回答したと述べています。ただし、この件につきメディアが問い合わせてもValveはノーコメントだそうです。

Wii Uや3DSが壊れたら、ダウンロードソフトも永遠に失われる?

写真:ロイター/アフロ

任天堂のWii Uやニンテンドー3DSのダウンロードゲームは、より事態が深刻です。これらは昨年3月末からニンテンドーeショップで購入できなくなりました(購入済みタイトルのダウンロードは引き続き可能)。

同社は「自分のニンテンドーアカウントを第三者に貸与・譲渡したりすることは、ニンテンドーアカウントの利用規約違反です」と明言。これはオンライン通販サイトやフリマサイトで不正入手したソフト込みのアカウント売買が横行したことに対応したものですが、一方で遺言などの例外についてはコメントしていません。

ショップの終焉にそなえ、全ゲームのコンプリートをめざすYouTuberのJirard Khalil氏は、3DSとWii Uのダウンロードソフトが永遠に失われる前に「保存」すると宣言。文字通りすべて購入し、スポンサーから集めた2万2791ドル(当時は約300万円)を注ぎ込んでいました。

Khalil氏は全てをビデオゲーム資料保存団体VGHFに寄附し「生き続けられるようにする」と述べていました。が、それを実行に移すのは難しいかもしれません。

一応、抜け道が残されている可能性はあります。たとえば学術法律誌Santa Clara High Technology Law Journalは2013年、「iPodやKindle電子書籍リーダーなどの物理的なデバイスにコンテンツの合法的なコピーがある場合、デジタルコンテンツは亡くなったユーザーの遺族に譲渡できる」という記事を掲載しています。

要は、ダウンロードゲームを保存した3DSやWii U、SDカード(Wii Uは1.2TB、3DSは267GBとのこと)譲り渡すことは、寄附や遺言でもできるというわけです。

ただし、遺言の対象となるのは「物理的なデバイス」のみ。もしも遺族なり非営利組織が別のデバイスにダウンロードしたり、SDカードが壊れたから再ダウンロードしようと思っても、法的に阻まれるかもしれません。

当時VGHFの共同ディレクターだったKelsey Lewin氏は「デジタルで生まれたビデオゲームを保存するための合理的で法的な道はない」と語っていました

「自分で手に取ることができないゲームが消えていく」のは次々と運営終了するソシャゲでは当然の風景となっていました。が、ファミコン発売から数えても40年以上が経過したいま、ユーザー本人の命も「消えていく」に含まれつつあります。デジタルゲームを子孫や後世に遺せるよう、今から法整備を急ぐことが望まれそうです。

アニメライター/ゲームライター

京都大学法学部大学院修士課程卒。著書に『宇宙政治の政治経済学』(宝島社)、『ガンダムと日本人』(文春新書)、『教養としてのゲーム史』(ちくま新書)、『PS3はなぜ失敗したのか』(晋遊舎)、共著に『超クソゲー2』『超アーケード』『超ファミコン』『PCエンジン大全』(以上、太田出版)、『ゲーム制作 現場の新戦略 企画と運営のノウハウ』(MdN)など。現在はGadget GateやGet Navi Web、TechnoEdgeで記事を執筆中。

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