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「胸すっきりの焦土化」と「空中待ち伏せ戦闘」に満足する金正恩氏は戦闘機マニア?

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
空軍視察で戦闘機のコクピットに乗り込む金正恩氏

北朝鮮の金正恩第一書記は、どうやら戦闘機が好きなようだ。

正恩氏は、今年に入って軍部隊を3回現地指導しているが、そのうちの2回は空軍だった。昨年12月から計算すると軍部隊を9回視察しているが、そのうちの5回は空軍部隊だ。この数字からも同氏が空軍を重視しているのは明らかだ。

韓国国防部が25日に発表した「北朝鮮と周辺国の軍事力現況」でも北朝鮮が空軍兵力を拡大する一方、陸軍は縮小したとの分析を示している。

タイトル画像でもわかるように昨年10月の視察ではわざわざ戦闘機のコクピットに乗り込むなど戦闘機好きの片鱗を見せている。

空中待ち伏せ戦闘訓練とは?

さらに昨年12月8日に空軍を視察した正恩氏は、「空中待ち伏せ戦闘訓練」とやらに大満足して空軍の労を労った。

「冷たい風が吹く指揮所の露台に立って祖国の空をかきわけながら果敢に機動する赤いタカの姿を明るい微笑の中で眺めながら、いつ見てもわが飛行士たちの飛行術が本当に高い、訓練をよくするとたたえた」(2014年12月8日付朝鮮中央通信より)

ちなみに「空中待ち伏せ戦闘訓練」に関する説明はなかった。

胸スッキリな焦土化作戦

正恩氏は、1月24日にまたもや空軍部隊を訪れる。タバコを手にして飛行機訓練を視察した正恩氏が大満足だったことは労働新聞の写真からもうかがえる。

画像

また正恩氏の「戦闘機好き」に答えるかのように将兵たちからは以下のような声があがったという。

「年頭からわれわれを刺激する汚らわしくて鼻持ちならない行為を庇護、助長、黙認する敵を最後のせん滅的打撃で胸がすっきりするように焦土化してしまうという烈火のような決意を固めた」(原文ママ2015年1月24日付労働新聞より)

「すっきりするように焦土化」というのが何をすっきりするのか不明だが、とにかく金正恩氏が「戦闘機」が好きでたまらないことは、写真からも伝わってきた。

「関連記事」北朝鮮空軍が「胸スッキリな焦土化作戦」を正恩氏に誓う(空中戦写真も)

正恩氏が空軍を重視するようになったきっかけは、元空軍司令官の李炳哲(リ・ビョンチョル)氏が、メカ好きの金正恩にぴたりと寄り添い、戦闘機の魅力、空軍の必要性を吹き込んだことだったという。

しかし、正恩氏の空軍重視は朝鮮人民軍「崩壊の序曲」につながりかねないと指摘もある。海空軍の近代化が進めば陸軍は予算圧迫、規模縮小の憂き目に遭い、政治力も弱まってしまうからだ。

正恩氏が「空中待ち伏せ訓練」と「胸すっきりの焦土化」に満足している隙に、軍部内の「飼い犬」に手を噛まれないようせいぜい注意すべきだろう。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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