アイドルのセカンドキャリアに「勇退・チーム」という新概念を持ち込む神宿インタビュー
アイドル戦国時代と呼ばれた時代がありました。なぜ過去形で語っているのかというと、2018年はアイドルの世界ではその時代の終わりを告げる激動の1年であったからです。そして、その余波はまだ続いています。
人気絶頂である乃木坂46からも初期センターであり中心メンバーであった生駒里奈の卒業に端を発した卒業ラッシュ。他にも、メンバーの卒業は先日デビューライブを行った日向坂46というか、その前身となるひらがなけやき坂46の元メンバーであり、欅坂46の人気メンバーでもあった長濱ねるの卒業。そして、さらに決定的な空気の違いを告げるのが、毎年恒例となっていたAKB選抜総選挙の開催中止です。そういえば、乃木坂の卒業ラッシュも終わる気配がありません。
それぞれのケースだけで、十分にひと晩話すだけのネタを持っている内容ですが、ここではその話ではなく、そういった流れの中で、ここ最近日増しに語られるようになってきているのが、アイドルのセカンドキャリア問題です。そして、外野としてはあれやこれや言えるのですが、今回ライブアイドルグループとしては、独自の活動を続ける「神宿」のメンバーならびに運営側にお話を聞く機会を得ることができました。
そもそも、なぜ今回「神宿」にインタビューしてみようと思ったのか?と経緯にも軽く触れておきましょう。アイドルグループには、たしかに卒業・解散といったニュースはつきものです。ひいきのアイドルグループのブログが更新されて、そのタイトルに「大事なお知らせがあります」という文字列があったときにぞわっとする感情を味わったファンの数も少なくないはずです。
まず、起きたことから先に言うと、デビュー以来5人のメンバーでやってきた神宿のメンバーの1人(緑担当・関口なほ)がメンバーから外れるというニュースが流れました。しかし、そこには耳慣れない「勇退」という二文字が書かれていたのです。
「勇退」とは?
まずは各メンバーに勇退の話が出た日のことについて、聞きました。
神宿のピンク担当・小山ひな
「はじめて話を聞かされた日は、一生忘れられない日になりました。そこから、どうしたいか時間をもらえたので考えることができました。5人だからというのでなんとなくやっていた自分に気づいて、そこからさらにアイドルを続けたいと自分で決めました。私は、アイドルでありたいと再認識できました」
神宿の赤担当・一ノ瀬みか
「話を聞いてびっくりしたし、5人でのライブを重ねてきていて、その時間が最高だったし、自分たちに自信もあった。神宿やってるのが正しいのかどうかを改めて考えたんです。自分のことも考えて、みんなの前で表現すること、表現するにあたってアイドルのいいところや表現活動としてアイドルにはとがった部分があるから、そこは自分に合ってるなあと思いました。そして(勇退する)なほの今まで積み上げてきたもの、それも大事なんじゃないかなと」
神宿の青担当・羽島めい
「当日は言われると予測してなくて、突然言われると思ってなかったんです。本人には率直にやめたくない、続けたい、5人で1人抜けたら解散したくないって言いました。それでも、本人が考え抜いた上で話していることがわかったので、これは乗り越えないといけないなと。(勇退する)本人の気持ちを大事にしてあげたいし、神宿でよかったと思ってもらえるように大事にしたい」
神宿の黄担当・羽島みき
「私はアイドル活動しながら専門学校に通っていたので、本人が大変なのはわかってました。それでも、まだ20歳だよーこれからじゃんー、ってショックだった。私も両立がんばってと言われていましたし、でも本人はもう限界だと。5人で神宿と言ってきたので、決める前にもう少し聞いてあげられたらよかったとは思いました。でも最後のライブになった1月13日当日まで実感がなかった(笑)」
そもそも神宿は今年で5周年になるのですが、最初にスカウトされた5人のうち、誰か1人やめたら解散するということでやってきていたのです。運営側としても、解散して全部やめるか、それを逆手に取ってメンバー追加をするのかは、ホントに悩んだところだったそうです。ただ、いろいろと話をしていくうちに解散かメンバー追加だけが選択肢になっているのはおかしいというところに着地していったのです。
そもそも表舞台に立たなくなるということだけが境界線になって、即グループにいない人になるのもおかしいわけです。世の中的にも、いわゆる会社勤め以外にいろいろな働き方が出てきてもいます。アイドルだって、もっと選択肢があっていいはず。つまり、もっと他にも手があるはずだと考え抜いた結果、出てきた言葉がメンバーではなくなるが、運営側には残るという「勇退」だったのです。
「チーム神宿」になっていくという決断
ただ、勇退とは言っても、そこに元メンバーとしてやるべきことがないのであれば、チームの一員として、残る大きな理由になれません。また、新メンバーを追加してグループは継続していくことを決めた以上、当然新メンバーを選ばなくてはいけません。そして、その状況になってみると、然るべき人が然るべきところになぜかいるというのは、うまくいくチームで得てして起こることです。
勇退した元緑担当・関口なほさんは、アイドルでありながら、実はアイドルオタでもあったメンバーです(そういうアイドルちゃん増えましたよね)。つまり、ステージに立つだけではなく、ステージを見る人の気持ちもよくわかっている人です。そういったマインドを持っている本人が、自分の後継者になるあたらしい緑担当を選ぶオーディションに参加するという、なんて好都合な展開(笑)。このパターンはちょっと見たことがありません。実際、なほさん本人も、自分が審査に参加することが決まった際に「アイドル性のある子を選ぶのには自信がある!」と言い放ったそうです(笑)。
メンバーも運営側も想像していなかった展開。チームとしてやることを決めた段階で、せっかくなら、この新メンバー追加という出来事そのものを公開オーディションという形で、ファンと共有してしまおうとなるのは、当然の流れと言えるでしょう。いきなり結果だけ、見せられても、これまでのファンからすれば不透明ですし、オーディションに参加してくれた人からしても不透明。そして、なによりもみんなで盛り上がった方が、こんなもの面白いに決まってます。
▼神宿公式による新メンバー公開オーディションまでの経緯を共有する動画
状況を楽しむチーム力
ほぼ冒頭ぐらいのところで、神宿を紹介するにあたって「独自の活動」という言葉を使いました。それを確認する意味でも、少しその活動の様子をひと整理しておきましょう。
- 「神宿」公式サイト(https://kmyd.targma.jp/)
公式サイト、物販やファンクラブ会員サイトにもなっている
- ツイッター・公式と各メンバーアカウント
赤担当・一ノ瀬みか(@MIKA_KMYD)
青担当・羽島めい(@MEI_KMYD)
黄担当・羽島みき(@MikiKMYD)
ピンク担当・小山ひな(@Hina__KMYD)
充実した公式サイトと万単位のフォロワーを抱えているのは、今どきのアイドルグループでは、もはや必須の内容です。
ただ、神宿が少し変わっているのが、YouTubeの使い方です。一般的にアイドルグループのYouTubeチャンネルはMVを流す公式チャンネルとして機能していることが多いです。ところが、神宿のYouTubeチャンネルはYouTuberとしてのチャンネルになっており、しかもあのHIKAKINを擁するUUUM所属のアイドルYouTuberなのです。ただ、アイドルのYouTubeらしく、動画の再生回数では、MVが圧倒的に再生されているのも、通常のYouTuberとはまったく違うところです。
- YouTube:神宿
また、神宿のライブやイベントなどは企業の協賛によるものも増えており、他のアイドルグループがやらないことをやってきたのが「神宿」というアイドルグループです。そんなグループが、結成時からいっしょにやってきたメンバーの勇退という状況をチャンスに変えないわけがありません。これが新メンバーの加入というイベントを公開オーディションにして、その過程もファンと楽しもうというチームなのです。
神宿の緑担当新メンバーオーディションスケジュール
- 1月13日、オーディション内容公開(その後、書類受付・1次審査・2次審査)
- 3月24日、最終候補7人発表
- 4月29日、豊洲PITのライブで新メンバー生発表
このオーディションには、1500人以上の応募があったそうです。審査にはメンバーも勇退したメンバーもチームとして立ち会いました。そして、最終候補7人もすでに発表されています。
さらに、最終決定の新メンバーだけではなく、最終候補7人が全員4月29日のステージにも立ちます。つまり、新メンバー決定というストーリーをファンは全部見ることができるようになっているのです。しかも、このライブは神宿にとっては平成最後のライブになるはずです。
ええ、そうなんです。過程を全部見せてしまうというところだけ決めてしまえば、これまでのファンもいちばん納得でき、新メンバーもファンに祝福されるための方法は、すごくシンプルだったというわけです。
状況を楽しむチーム力
ひとくちにアイドルといっても、アイドルにはいろいろなタイプがいます。
・自分が歌って踊るのが好き
・歌って踊っている自分が好き
・いっしょに歌って踊るメンバーたちが好き
・いっしょに盛り上がってくれるファンが好き
もちろん、実際にはこんなにきれいに分かれるわけではなく、入り混じったものになるわけですが、チーム神宿のインタビューを終わって受けた印象を言葉にすると、さらにもう1つ別のものを追加しないとどうにも腑に落ちません。たぶん、それは「アイドルそのものを楽しむ」というもの。結局、そこがブレないから、このチームはブレなく活動を続けられるのでしょう。
神宿は、いや今となってはチーム神宿は、自分たちが置かれた状況を最大限に楽しんでいるように見えます。でも、アイドルを取り巻いているものって、そういうものなんです。
まずはメンバーたちがアイドルであることが楽しいからグループが存在する、それを見ているファンも楽しいからグループがキャリアを重ねられる。だから、セカンドキャリアになったからといっても、いきなり真面目か!ってなっても、本人もファンも状況は打破できないわけです。つまり、まじめにやっててもセカンドキャリア見えないっしょ、それも含めてみんなで楽しもうよというのが、このインタビューの結論になるのです。
最後に、状況を楽しむという点で、私がホントにびっくりしたのは、全員緑ライブ・レンタル緑ライブという企画です。そうか、その手があったか!という新手です。
もう、おわかりですよね。緑担当の新メンバーが決まるまで、緑を徹底的に楽しむ。そして、その行動が、多少状況が悪くなろうが、くさらずに成長していくというアイドルの姿になっていくのです。
※写真はすべて著者本人によるものです