日本・欧州初、水星探査機「ベピコロンボ」20日午前打ち上げへ。旅立ちを中継で見守ろう。
2018年10月20日午前10時45分28秒(日本時間)、日本と欧州が共同で開発した水星探査機、国際水星探査計画「BepiColombo(ベピコロンボ)」が打ち上げられる。JAXA 宇宙科学研究所が開発した水星磁気圏探査機「みお(MMO:Mercury Magnetospheric Orbiter)とESA 欧州宇宙機関が開発した水星表面探査機「MPO:Mercury Planetary Orbiter」を組み合わせ、全行程90億キロメートルの旅に出発する。
ESAによる「ベピコロンボ」ミッション紹介動画は日本語で視聴可能。
水星は、太陽系のもっとも内側を周回する惑星。惑星の中では最小サイズだが、火星や金星といった他の惑星よりも密度が高く、内部には70パーセント程度を占める鉄を主成分とする巨大なコアがあると考えられている。岩石や鉄からできた地球型惑星の中で、磁気圏を持つのは地球と水星のみで、火星や金星には磁気圏がない。地球の磁気圏のデータを水星と比べることで、地球をよりよく知る手がかりとなることが期待されている。
地球はもちろん、火星や金星にもある大気が水星にはほとんどなく、表面には他の天体が衝突したクレーターが数多くある。ほかのどの惑星とも違っているのに、ある意味で地球に近いという不思議な惑星だが、非常に行きにくいためこれまで2度しか探査機が赴いていない。巨大な太陽の重力で探査機がどんどん加速してしまうため、減速のためのエネルギーが大量に必要になるからだ。また、表面温度は400度を超え、探査機が熱で損傷しないための設計も必要になる。
史上初の水星探査は、1973年に打ち上げられたアメリカ・NASA ジェット推進研究所の探査機「マリナー10号」が行った。このとき、金星の重力を利用して探査機の速度を変えるスイングバイ(または重力アシストとも)を史上初めて実施し、後に太陽系脱出を果たしたボイジャー探査機からはやぶさ2まで、多くの宇宙探査機が利用するスイングバイの技術を実証した。当時、水星の公転周期と自転周期が3:2の共鳴関係にあることを解明し、金星スイングバイによってマリナー10号が水星に接近する方法を提案したのがイタリアの数学者にしてエンジニア、ジュゼッペ(ベピ)・コロンボだ。言うまでもなく、ベピコロンボ探査機の名前の由来となった人物である。
マリナー10号は史上初の画期的な探査を成し遂げたが、それでもフライバイ(水星近傍の通過)探査で得られるデータは限られている。マリナー10号からおよそ30年後の2004年、アメリカは2番目の水星探査機「メッセンジャー」を打ち上げた。2011年にメッセンジャーは水星を周回する軌道に乗ることに成功し、水星表面の90パーセント以上を撮影した。
メッセンジャーの探査により、水星の磁気圏が太陽の活動によって大きく変化していること、水星には過去に火山活動があったこと、表面の「ホロー」と呼ばれる窪地の地形、内部の中心核が冷えたときに半径7キロメートル以上小さくなっていること、など多数の発見があった。ベピコロンボは、磁気圏やナトリウムを成分とする希薄な大気の観測を目的としたJAXA担当の「みお」と、表面の地形や物質の組成を観測するESAの「MPO」(愛称は“ベピ”であるようだ)との2機に分かれて別々の軌道を周り、分担してさらなる詳細な観測を行う。
ベピコロンボの旅は長く、最初の金星スイングバイが2年後の2020年10月、最初の水星スイングバイが3年後の2021年10月、水星到着は実に7年後の2025年12月だ。明日午前の打ち上げに備え、ベピコロンボはロケット打ち上げの地、フランス領ギアナのギアナ宇宙センターで欧州のアリアン5ロケットに搭載され、地球での最後の時間を過ごしている。打ち上げの模様は、JAXAおよびNVS(ネコビデオ ビジュアル ソリューションズ)により中継の予定だ。