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国債のロールオーバーはどこまで可能か

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

2015年3月末現在の日本国債の残高は約1000兆円存在する。国債残高の数字のとらえ方はいろいろあるが、3月末の国債及び借入金並びに政府保証債務現在高で、内国債と政府短期証券を合わせた金額が約1000兆円となる。このうち償還が主として税財源により賄われる債務は普通国債と呼ばれる部分で、この金額は約774兆円となる。

普通国債のほとんどを占める建設国債と赤字国債には、60年償還ルールが存在している。これはたとえばその年度の建設国債を補う分として、たとえば10年国債を発行したとする。それは10年後には六分の一だけ償還され、残りの六分の五は借換債が発行される。最終的にはすべての建設国債と赤字国債は60年かけて償還される仕組みとなっている。2015年度の国債発行額の約170兆円のうち約116兆円は借換債である。

この60年償還ルールで国債が発行されたのは1968年5月からであり、それからまだ60年が経過しておらず、このとき発行された国債もいまだにすべて償還されているわけではない。

このように日本では60年償還ルールがあるため、巨額の国債がそのルールの下でロールオーバーされる仕組みとなっている。

しかし、投資家にすれば60年償還ルールとかは関係ない。保有している国債は2年債ならば2年後に償還される。そのときに再び償還金額に見合う国債を購入すれば、国債の残高は維持される。1000兆円という国債が積み上がっていても、それだけの国債を保有できる投資家が存在していれば、国債残高は維持される。ただし、新規で発行される国債についてはあらたな買い手を探す必要がある。これについては日銀の異次元緩和以前でも、それを手当できる投資家が確かに存在していた。

ところが、日銀の異次元緩和による大量の国債買入により、すでに国債の残高全体の四分の一もの国債を日銀単体が保有する事態となり、国債を保有する民間投資家の分が減少してしまっている。国債の保有額を落とした投資家としてメガバンクがある。日銀の国債買入に対応したといった見方もあるかもしれないが、日銀の超過準備に0.1%の付利もついており、リスクフリーで0.1%でも利子があれば、こちらに置いておくという選択もありうる。また、今後のBIS規制を睨んだ動きともいえるかもしれない。BIS規制を意識するとなれば、メガバンク以外の金融機関もいずれ国債が保しづらくなる懸念もある。

これまで大口の国債保有者であった投資家に異変も起きている。公的年金は運用そのものが見直され、GPIFの運用は国債運用主体から株式などの運用にシフトしている。この流れは、ゆうちょ銀行などにも及ぶことが予想される。ゆうちょ銀行については貯金の残存額の減少もあって、すでに国債の残高は年々減少している。

生保や損保についても、国債の残高を大きく増やせるような状況ではなくなっている。つまりは国内の投資家に関しては、国債保有額のキャパシティが停滞もしくは減少している。そのなかにあって、それを日銀が異次元緩和という名目でカバーしているのが現状である。世界的なリスクが立て続けに起きたことで、海外投資家が日本国債の保有額を短期債主体に大きく増加させてきた。しかし、ギリシャ問題も後退しつつあり、FRBやイングランド銀行は正常化に向けて動きつつある。海外投資家もここからさらに日本国債を買い増す必要性はなくなってくるのではなかろうか。

今後どれだけ日本国債を投資家に保有してもらえるのか、具体的な数字は海外投資家も加えると不確定で具体的な数字は出せないが、仮に日銀が大量の国債買入を減額するようなことになると、その分をどの投資家がカバーできるのかは、日銀の異次元緩和以前よりは、かなり不透明になっている。投資家の日本国債の保有余力はかなり減少していると予想される。これはつまり、日銀の出口政策をさらに難しくさせる要因ともなりうるのではなかろうか。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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