アメブロ、ピクシブ、楽天ブログ...「ハワイの山火事は気象兵器」中国発の陰謀論、日本も標的
アメブロ、楽天ブログ、ピクシブ...「ハワイの山火事は気象兵器」中国発の陰謀論、日本も標的になっていた――。
米サイト評価サービス「ニュースガード」は9月11日、ハワイ・オアフ島で8月に発生した大規模な山火事をめぐる、中国発と見られるフェイクニュースの拡散ネットワークの存在を明らかにした。
調査ではフェイスブックやX(旧ツイッター)など14のプラットフォームの85のアカウントを特定。中国語や英語など16言語で、同じ陰謀論を発信していたという。
メタの調査によれば、これらは同社が8月末に7,700にのぼるアカウント削除を発表した中国の大規模影響工作ネットワーク「スパモフラージュ」の一部であるという。
ハワイの山火事の陰謀論は、日本も標的になっていた。
アメーバブログ、ピクシブ、楽天ブログなどを舞台に、新たに開設したアカウントで、同じ陰謀論を発信していた。その中には、あわせて福島第一原発の処理水海洋放出を批判する投稿もあった。
●14プラットフォーム、85アカウント
ニュースガードは9月11日、そんな調査結果を明らかにした。
プラットフォームは、フェイスブック、ユーチューブ、X、ミディアムのほか、ソーシャルニュースサイト「レディット」、Q&Aサイト「クオーラ」、動画共有サイト「ビメオ」、ブログサイト「タンブラー」、画像共有サイト「ピンタレスト」、旅行サイト「トリップアドバイザー」、グーグル傘下のブログサイト「ブロガー」、動画共有サイト「ランブル」、ストーリー共有サイト「ワットパッド」、ミーム(面白画像)共有サイト「9ギャグ」の計14件。
また、使われていた言語は16。中国語のほかに、英語、韓国語、ロシア語、フランス語、イタリア語、ドイツ語、日本語、インドネシア語、オランダ語、アイスランド語、フィリピン語、マルタ語、ベラルーシ語、マダガスカル語、インドの公用語の1つマラーティー語だ。
ニュースガードによると、そんな文面が大規模火災と見られる画像とともに、発信されていたという。
当初の発信源とみられる投稿は、中国のポータルサイト「163.com」のブログで8月14日、中国甘粛省のユーザーだというアカウントが発信。
その2日後から、各国語で一斉に同様の投稿が展開されたという。
これらのアカウントのその他の投稿には、中国の反体制派への批判のほか、福島第一原発の処理水の海洋放出への批判など、中国政府の方向性に沿った内容が見られたという。
韓国語のXへの投稿では、「いいね」は0件だったが、すべてアラビア語のアカウントから、341件のリポストと90件以上のリプライがあった。ボットによる発信が疑われるという。
ハワイの山火事の出火原因は正式に特定されてはいないが、地元のマウイ郡は電力会社を提訴。強風で送電線が倒れ、火災の危険があったのに送電を停止しなかった、と主張している。
●「スパモフラージュ」の一部
ニュースガードがメタに照会したところ、このうちフェイスブックのアカウントは、親中国のプロパガンダをマルチプラットフォームで展開する世界最大の影響工作ネットワーク「スパモフラージュ」の一部である、との回答があったという。
「スパモフラージュ」は50以上のプラットフォームで展開されるという親中国の影響工作ネットワークだ。フェイスブックや米ネット調査会社「グラフィカ」が2019年から継続的に監視を続けている、
メタは2023年8月29日に、フェイスブック上の「スパモフラージュ」に関連するアカウント7,704件、フェイスブックページ954件、フェイスブックグループ15件とインスタグラムのアカウント15を削除した、と発表している。
※参照:サブスク型「ディープフェイクス」の世論工作が月額4,000円、親中国ネットワークの狙いとは?(02/08/2023 新聞紙学的)
※参照:「SNS情報工作のサブスク」125万円、中国警察の入札が示す相場と業務(12/27/2021 新聞紙学的)
ハワイの火災に関するフェイク情報の発信については、米サイバーセキュリティ会社「レコーデッド・フューチャー」も8月30日に調査結果を公表している。
同社はその中で、やはり「気象兵器」の陰謀論が親中国ネットワークで投稿されていることを指摘。
また、米国内の過激派グループが発信源となって、「火災は米国の指向性エネルギー兵器によるもの」などの陰謀論を投稿している、などとした。
●日本語、英語、そしてラテン語やバスク語も
ニューヨーク・タイムズは9月11日の記事の中で、「気象兵器」陰謀論の投稿先の1つとして、日本のイラスト共有サイト「ピクシブ」を挙げている。
筆者が確認したところ、8月23日付でこの陰謀論を主張する日本語の投稿が確認できた。発信アカウントによる投稿は、その1件のみだった。
さらに、同じ文面、同じ画像を使った他のプラットフォームでも確認できた。
件数が多く、目についたのはアメーバブログだ。
「163.com」の投稿から3日後の8月17日の投稿を皮切りに、8月29日まで計9本の投稿が見つかった。
このうち日本語の投稿は6本。
そのほかに、8月17日にラテン語による投稿、8月22日には2つのアカウントそれぞれが日本語とイタリア語の2カ国語で同じ文面を投稿。8月28日には英語の投稿もあった。
さらに、英語の投稿をしたアカウントは、7月31日付で「武漢地震監視センターにサイバー攻撃」という投稿を、インドの公用語の1つであるオリヤー語、エチオピアやケニアで使われるオロモ語、バスク語の3言語で投稿。さらに9月4日と6日には、福島第一原発の処理水放出を批判する計4本の英語による投稿をしていた。
楽天ブログでも8月17日付でアメーバブログと同じ文面、画像の日本語による投稿があった。
これらの投稿では、複数の大規模火災とみられる画像が掲載されている。
そのうち、投稿の冒頭に掲載されている大規模火災の画像は、ハワイの火災ではなく、2022年8月に中国・重慶で発生した山火事とされてきたものだ。
●AIの使い方
アメーバブログの投稿は、大半は今回の陰謀論キャンペーンのために開設されたもののように見える。しかも、執筆時点で、いずれもアカウント閉鎖などの措置は取られていなかった。
また、ラテン語からイタリア語、オリヤー語、オロモ語、バスク語、英語、と日本のプラットフォームを舞台に、多言語発信のテストをしているような様子もうかがえる。
おそらくはAIによる自動翻訳システムを利用しているのだろう。
マイクロソフトは9月7日、画像生成AIを使って米国の有権者を標的とした、中国の影響工作ネットワークを明らかにしている。
ニューヨーク・タイムズは上述の記事の中で、マイクロソフトの調査を引き、ハワイの火災の陰謀論の中でもAI生成の画像が使われていた、との見方を紹介している。
●だが閲覧は限定的
多言語、マルチプラットフォーム、迅速な展開、AIの使用。
ハワイの火災をめぐる陰謀論からは、そんな特徴が見えてくる。ただ、このキャンペーンは、発信者が思うようには広がらなかったようだ。
ニュースガードが調査した限りでは、あまりネットの注目を集めてはいない。
ただ、いつまでも「空振り」が続くとは限らない。
(※2023年9月15日付「新聞紙学的」より加筆・修正のうえ転載)