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なぜ宗教法人は非課税?~本来はどの位、本部の土地建物に税がかかるか現地で不動産鑑定士・税理士が考えた

冨田建不動産鑑定士・公認会計士・税理士
旧統一教会の本拠とされる建物(右側の白い建物)を道路から望む

10月13日、NHK政治マガジンや、BBC等の報道で「旧統一教会の解散命令請求」を文部科学省が東京地方裁判所に行ったと報道されました。

また、これを受けて読売新聞が宗教法人にアンケートをしたことが記事にもなりました。

筆者は別に信者でもなく、全く利害関係はありませんが、税理士としては宗教法人が宗教法人でなくなった場合、税制上の優遇制度がなくなるので、専門的見地からはその結果がどうなるかは気になる面はありました。

ですので、ここではあくまでも中立的な専門家の立場から、一つのモデルケースとして「仮に宗教法人が宗教法人でなくなったら税負担がどうなるのか」を考えてみたいと思います。

旧統一教会の本拠とされる建物(左側の建物)を道路から望む
旧統一教会の本拠とされる建物(左側の建物)を道路から望む

■所有する宗教の用に供されている不動産の税負担が生じる

現状では宗教法人の土地・建物の固定資産税都市計画税は、宗教法人本来の目的に供されていれば免税されます。

概算ですが、よく写真に現れる旧統一教会の渋谷の土地・建物について仮に検討すると、令和5年を前提とすれば、非課税がなければ土地・建物の固定資産税都市計画税は1,440万円強程度と思われます。概算の根拠は、長くなりますので末尾に掲載します。

ただし、実際に解散命令が発せられるかは不明であり、しかも建物の経年が進行する他、令和6年に固定資産税路線価の評価替えがあり、公示地の動向等を勘案すると上昇が予想されるため、来年以降に実際に課税された場合は実際の税額は異なる場合が考えられる点はご留意いただければと思います。

この他、一度限りの負担ですが、所有者が宗教法人の場合、解散によって所有者を誰かに移動する必要が生じますから、その誰かが不動産取得税と登記の際の登録免許税を支出する必要が生じると思われます。

そして、渋谷以外にも多摩市等に不動産を所有しているそうですが、他にも不動産があれば同様の課税関係が生じる余地があると思われます。

税額の多寡は感覚によりますので一概には言いにくい面もありますが、ずいぶんと宗教法人非課税のメリットを受けているなぁ…と感じられる方もいらっしゃるのではないかと思います。

A画地(右)とB画地(左)を道路から望む。なお、この記事の写真は全て令和5年10月23日筆者撮影。
A画地(右)とB画地(左)を道路から望む。なお、この記事の写真は全て令和5年10月23日筆者撮影。

■宗教法人の本来的な宗教関連の部分が非課税の理由がわからない

上記の例はあくまでも一例ですが、概算で宗教法人の非課税で恩恵の程度を肌感覚で感じられた方も多いと思います。

そして、大勢の方がご指摘されている通り、何故、世の中の多くの宗教法人(の、本来的な宗教に供される部分)が非課税なのは、筆者もわかりません。

一部には、

①政教分離なのに、税だけ課すと政治に口出しできるようになる

②公益法人同様に、利益獲得を目的としていないため、これに課税するのは不合理

との意見もあります。

また、

③新興宗教については、一定のメリットを付して行政官庁が管轄しないと、不適切な行動により走りやすくなる

④宗教法人の宗教施設に固定資産税都市計画税を課すと、例えば京都や奈良、鎌倉の神社仏閣等も課税となり大変なことになる

という声もあり、わからなくもありません。

ただ、あくまでも個人的な意見としてですが、以下とも思う面はなくはありません。

上記①については、宗教法人といえども、社会のインフラがあってこそ存立し得るので、社会によって恩恵を受けている以上、社会を支える意味で税を払ってもおかしくはないのではないかと。

むしろ、政教分離は大前提とした上で、政治には口出しできないことを徹底すればよいとも感じる面はありますし、現実問題としては宗教法人は税負担がなくとも色々な手で政治に繋がりを作る場合もなくもないのかなとも思います。

上記②については、社会的に意義があるが採算がとれない事業につき、その意義を遂行のために税制の面から配慮する意味で非課税するのであって、一定以上の利益が出ている場合に限り、その意義が薄れる面もなくはないのかなぁ…と。

むしろ、一定以上の利益が出ている場合、法人税申告書の作成を義務づけることで、会計や資金の流れの明瞭化を促し、外部への不適切な資金流出を牽制する効用もあるのではないか…と、税理士としては思う面もあります。

上記④については、例えば京都や奈良、鎌倉等の神社仏閣等は、その建物や付随する庭等が「歴史的価値があるから」とも感じる面があります。

むしろ、宗教法人の非課税は、

(ア)例えば戦前から国内に存在する宗教法人である等の過年度の国内での宗教活動の実績や、

(イ)固定資産税都市計画税等の不動産の税については土地建物それ自体等の歴史的価値の有無

も加味して判断すべき面もなくはないのかと考えます

そして、最初から非課税にするのではなく、国内での実績が一定程度累積したら非課税とすることで、当初は税負担の免除がなくとも宗教法人への登録を促し、③の達成にも繋がるかと思います。

もちろん上記①~④については、一介の不動産鑑定士・税理士の「疑問」であり「ふと思ったこと」に過ぎません。ですので、「冨田さん、いや、それは違うよ」という声も当然あるかと思います。

大切なことは、こういったことを契機に、真面目で本当に人々の救いになっている宗教法人には円滑な活動を促す一方で、真の意味で公平な課税を達成しつつ、健全な運営を促すといった、あるべき姿を議論を尽くして検討していくことではないでしょうか。

概算の根拠

※土地

道路を挟んでA画地(登記上は480平米強)・B画地(登記上は340平米強)の2つに分かれている。

令和3年固定資産税路線価(正面の路線価はA画地は1,220千円/平米で一定の補正をして約1,250千円/平米、B画地は1,110千円/平米で一定の補正をして1,140千円/平米弱)に基づき、A画地は480平米強×約1,250千円/平米→約603百万円、B画地は340平米強×約1,140千円/平米弱→387百万円を固定資産税評価額と概算できる。

固定資産税課税標準額を相場に基づき固定資産税評価額の2/3程度とすると、税率は固定資産税都市計画税合計で1.7%のため、

A画地…603百万円×2/3×1.7%→約684万円…①

B画地…387百万円×2/3×1.7%→約438万円…②

※建物

A画地上に登記上で鉄筋コンクリート等の延べ面積約1,800平米の昭和57年築の建物があり、B画地上に登記上で鉄骨造の延べ面積約670平米の平成7年築の建物がある。

建物の詳細は不明のため、仮に東京法務局管内新築建物課税標準価格認定基準表(令和3年)の、教会・宗教施設のカテゴリーがないので便宜的に事務所の単価(鉄筋コンクリート造で152,000円/平米、鉄骨造で135,000円/平米)を採用とし、総務省の固定資産評価基準に基づく経年減点補正率(令和3年時点でA画地の建物は0.5200、B画地は0.5378と判断)を採用の上で、建物の固定資産税・都市計画税を「延べ面積×単価×経年限定補正率×税率1.7%」計算すると、以下となる。

A画地→約242万円…③

B画地→約83万円…④

よって、A画地、B画地の土地建物の固定資産税都市計画税の税額合計は①~④の合計で1,440万円強

なお、例えば画地上の建物の一部を会社に賃貸して事業を営んでいるような場合は、一定の固定資産税都市計画税が課されている余地もなくはありません。ただ、外部の筆者にはその点は把握できない点も申し添えたいと思います。

不動産鑑定士・公認会計士・税理士

慶應義塾中等部・高校・大学卒業。大学在学中に当時の不動産鑑定士2次試験合格、卒業後に当時の公認会計士2次試験合格。大手監査法人・ 不動産鑑定業者を経て、独立。全国43都道府県で不動産鑑定業務を経験する傍ら、相続税関連や固定資産税還付請求等の不動産関連の税務業務、ネット記事等の寄稿や講演等を行う。特技は12 年学んだエレクトーンで、平成29年の公認会計士東京会音楽祭では優勝を収めた。 令和3年8月には自身二冊目の著書「不動産評価のしくみがわかる本」(同文舘出版)を上梓。 令和5年春、不動産の売却や相続等の税金について解説した「図解でわかる 土地・建物の税金と評価」(日本実業出版社)を上梓。

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