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中国は北への石油を止められるか?――習近平トランプ電話会談

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
霧に包まれる中朝友誼橋 中朝国境(写真:ロイター/アフロ)

 9月6日、トランプが習近平と電話会談をした。会談では北朝鮮に対する圧力強化に関して鮮明な違いが浮かんだ。米中は北の非核化に協力はするが、中国が北への石油を全面的に止める可能性は低い。その理由を分析する。

◆習近平トランプ電話会談

 中国の中央テレビ局CCTVは9月6日23:14に速報で、習近平国家主席(以下、習近平)がトランプ大統領(以下、トランプ)の要請を受けて、電話会談に応じたと伝えた。それによれば、トランプの今年中の訪中以外に、朝鮮半島問題が主たる話題だったという。

 習近平が

 「中国は朝鮮半島の非核化を実現し、国際的な核不拡散システムを維持していくという方針は変わらない。同時に我々は朝鮮半島の平和安定を堅持し、対話によって問題の解決を図る道を堅持する」

と言ったのに対し、トランプは

 「アメリカは朝鮮半島の現状に強い懸念を抱いている。中国が北朝鮮の核問題を解決する上で、大きな役割を果たすことを重視している。米中の意思疎通を強化し、一刻も早く朝鮮半島の核問題を解決する方法を見い出したい」

と述べたとのこと。

 実際には「国連安保理における北朝鮮に対する石油輸出を全面禁止する制裁に賛同してほしい」ということを言うためにトランプは習近平に電話したものと思うが、CCTVが報道しないのか、あるいはトランプがストレートなことは口にしなかったのか、今のところその報道はない。

 いずれにしても9月11日の安保理における追加制裁に賛成票を投じてほしいというのが、トランプの切なる要望だろう。トランプはアメリカのメディアに対して「良い会談ができた。習近平は協力するだろう」という趣旨の感想を述べているようだが、どうだろうか?

◆中朝をつなぐパイプラインはパラフィンが多い大慶の原油

 中国が北朝鮮への石油パイプライン建設を完成させたのは1975年12月。長さ30.3km、パイプの直径377mm、パイプの厚さ7mmというものだった。原理的には毎年300万トンの石油を送ることができる。

 ただし重要なのは、中国がパイプラインを通して北朝鮮に送っているのは「原油」で、しかも「大慶油田」の原油だということである。

 1959年9月26日、大慶油田が発見された。毛沢東は国を挙げて、この大発見を祝賀させた。ちょうど中国建国10周年記念日に近かったので、10月1日の国慶節にちなんで「大慶」と名付けたほど、大きな出来事だった。

 大慶油田はまた、拙著『中国人が選んだワースト中国人番付――やはり赤い中国は腐敗で滅ぶ』のp.34~p.39に詳述した通り、あの石油王、周永康(現在、牢獄)の出世のスタート地点であった。

 問題は、この大慶油田の原油はパラフィンを大量に含むことである。

 パラフィンというのは炭化水素化合物の一種で、和名では石蝋(せきろう)と呼ばれるように、蝋燭(ろうそく)やクレヨンの材料として使われている。蝋燭もクレヨンも滑らかではあるが、液体ではなく固体だ。アモルファス(非晶質)な液体ではなく有機物質だ。

 原油の中に含まれているときには「粘性(viscosity)」が非常に高いのである。

 となると、パイプラインを止めてしまうと、原油の中に含まれているパラフィンが固化してパイプが詰まってしまう。それを修復させるのは困難を極め、パイプラインの原油を止める期間が長ければ長いほど修復はほとんど不可能となる。

 もし金正恩政権が崩壊するなどして何らかの他の政権が誕生した場合でも、このパイプラインを通した中朝交流はできなくなるだろう。

 中国がパイプラインを遮断しない理由の一つはここにある。

◆航空燃料輸出は2016年から禁止

 しかし、パイプラインを通した輸出ではない(原油ではない)航空燃料に関しては、中国は2016年4月5日から北朝鮮への輸出を禁止している。

 中華人民共和国商務部は2016年4月5日に【2016年第11号】 を発布した。その中の石油に関してのみご紹介すれば、以下のような文言がある。概略を書く。

 ――国連安保理決議と中華人民共和国対外貿易法に基づき、中国は北朝鮮に対する「航空ガソリン、ナフサ系航空燃料(…中略)などを含む航空燃料」の輸出を禁止する。しかし安保理は基本的人道主義に基づく民間用航空燃料の輸出に関しては除外することを認めた(引用ここまで)。

 民間用の飛行なのか軍用の飛行なのかに関して、どのように区別するのかは定かではないが、一応航空燃料は禁輸になっていることは頭に入れておこう。

◆今回の石油禁輸制裁に中国は賛同するのか

 問題は9月11日に決議される北朝鮮への全ての石油禁輸制裁案に対して、中国やロシアが賛成票を投じるのか否かである。

 少なくともロシアのプーチン大統領(以下、プーチン)は「制裁や圧力によって北朝鮮の核ミサイル開発を止めることは出来ない」「北朝鮮は、自国が攻撃されず安全だと思うまでは、核・ミサイル開発をやめないだろう」という主旨のことを何度も言っている。それはあたかも、アメリカのロシア包囲網を暗示しているように筆者には映る。

 9月3日から4日にかけて中国の福建省アモイで開催されたBRICS(新興五ヵ国)ビジネスフォーラムの閉幕式のスピーチで、習近平は一言も北朝鮮に関して触れなかったのに対し、プーチンが上述のようなスピーチをしたのは示唆的である。

 中国は北朝鮮問題に関してロシアと完全に一致して「双暫定」(そうざんてい)(北朝鮮もアメリカも、双方ともに暫時、軍事行動を停止し対話の席に着け)という意思で一致している。今年7月4日の中露共同宣言で宣言した。

 したがって、習近平は議長国として北朝鮮問題に触れたくなかったが、ロシアのプーチンに頼んで、習近平の代わりに北朝鮮制裁に関して発言してもらったものと考えることができる。

 実は今年4月13日、中国外交部のスポークスマン陸氏は、恒例の記者会見で記者からの「北朝鮮への石油を禁輸するか否か」という質問を受けて、おおむね以下のように答えている。

 ――これまでの朝鮮半島非核化の歴史を見れば分かるように、制裁に頼っていたのでは、いかなる効果も生み出せず、逆効果であることは歴然としている。北朝鮮がいくらかでも抑制したのは六者会談の時であり、核・ミサイル開発に猛進したのは対話が途絶えて圧力を強化した時だということは、皆さんもご存じのはずだ(引用ここまで)。

 回答になっていないのだが、プーチンの発言と同じだということに注目しなければならない。習近平はトランプに直接は言わないが(米中の緊密さを表面上保つが)、どうせアメリカから敵対視されているロシアのプーチンなら、堂々と言ってくれるだろう。そう思っているであろう習近平の計算が目に浮かぶようだ。

 中国は外交部のこの回答を言い続けるだろう。

 それは北朝鮮が、崩壊が現実味を帯びたと感じたときに、必ず無差別にミサイルを発射しまくり、当然北京にも照準を当て、中国の一党支配体制が終焉を迎える危険性を回避したいからだと思う。また軍事的大国に成長しない北朝鮮という隣国が緩衝地帯でいてくれることも望んでいる。

 中国は必ず最後は「人道的」という言葉を使って、全面的な「断油」(石油禁輸)を回避しようとする。だから、9月11日の安保理決議に関しては、少なくとも拒否権を持つロシアが反対票を投じ、中国は「それに倣(なら)う」という形を取るのではないかと考えられる。

◆狙われるのは日本――なぜ日本がそのツケを

 たしかに北朝鮮がさらに暴走し、在日米軍基地を第一に狙うであろうことは想像に難くない。もともと日本が参戦していなかった朝鮮戦争のツケを、こうして日本国民が命を危険にさらされるという形で払わされるのは、とんでもないことだ。

 日本が巻き込まれるのは日米安保があるからであり、アメリカに物言えない日本があるからだろう。

 もちろん日米安保条約によって日本がアメリカに守られているのは十分に承知している。それは重要なことだ。

 しかし、何度も書いて申し訳ないが、北朝鮮問題はアメリカが朝鮮戦争の休戦協定に違反したことから始まっていることを忘れないようにしてほしい。

 北朝鮮が朝鮮戦争を始めたのだから、元をただせば北朝鮮が悪いというのは間違いない。北朝鮮が38度線を越えようとしたのは、そこに38度線が引かれたからだ。

 引いたのは誰か。

 アメリカである。

 第二次世界大戦の終戦直前、旧ソ連が朝鮮半島全てを占領しようとしたので、慌てて当時のトルーマン大統領が待ったをかけた。その瞬間、ソ連軍は38度線近くまで進軍してきていたので、トルーマンは二日間で決断し、38度の場所に南北分岐線を引いた。

 ソ連に何としても対日戦争に参加して、日本軍を敗退に追いやって欲しいと懇願したのは当時のアメリカのルーズベルト大統領だ。

 ルーズベルトは親共で、トルーマンは反共。

 ソ連を対日戦争に引きずり込んでおきながら、ルーズベルトはほどなく他界した(これらの詳細は拙著『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』の第3章「北朝鮮問題と中朝関係の真相」で明らかにした)。

 もし日本が絡んでいるとすれば、この38度線構築の前段階にあると言えなくはない。しかし、国際社会はそんなに歴史をさかのぼって審判を下すのではなく、最後の国家間協定で論じるのが原則だろう。その意味では休戦協定に違反しているのはアメリカであることを、トランプは認識すべきだ。日本は、その事実を直視することに関して、アメリカを説得する役割を担うべきではないのだろうか。

 

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『中国「反日の闇」 浮かび上がる日本の闇』(11月1日出版、ビジネス社)、『嗤(わら)う習近平の白い牙』、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

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