高齢者の「買い物弱者」問題をさぐる
・「買い物弱者」は日常品の買い物が困難な状況に置かれている人を指し、経済産業省では約700万人、農林水産省では824万6000人と推定。
・高齢者が日常生活を営む上で必要と考えている施設は日用品などを販売するスーパー、病院、金融機関が上位。
・高齢者が外出時に難儀する点として上位に挙げられているのは道路の段差や歩道の狭さ、中休みできる場所が少ない、公共交通機関が利用しにくいなど。
地域の過疎化や高齢化により関心を集めるようになった買い物弱者問題。その実情を内閣府が2018年6月に発表した「高齢社会白書」などをベースに、高齢者にスポットライトを当てて確認していく。
「買い物弱者」「買い物難民」とは一般的には(経済産業省によれば)次のように定義されている。
流通機能や交通網の弱体化とともに、食料品等の日常の買い物が困難な状況に置かれている人々のこと。徐々にその増加の兆候は高齢者が多く暮らす過疎地や高度成長期に建てられた大規模団地などで見られ始める。経済産業省では、その数を700万人程度と推計。
また農林水産省では「買い物弱者」と同義の「食料品アクセス困難人口」について次のように定義しており、経済産業省の推計より厳しい値を計上している。
直線距離で500m以上、かつ、65歳以上で自動車を利用できない人。店舗は生鮮食料品小売業、百貨店、総合スーパー、食料品スーパーおよびコンビニエンスストア。2015年時点の推計対象数は824万6000人。65歳以上全体の24.6%。
「流通機能や交通網の弱体化」とは、少子高齢化や過疎化など、社会環境情勢の変化に伴うもの。高齢者世帯(一人暮らし含む)には居住地の周囲1キロ以内に生活インフラが存在することが求められているものの、その環境の整備は(コストなどの関係で)なかなか難しい。移動巡回タイプのインフラを提供する方法もあるが、自治体だけでは手に負えない状態にあるのが現状。
特に2011年3月の東日本大地震・震災をきっかけに顕著化したこの問題に対し、流通各社では大手コンビニによる移動販売や、既存の流通システムに相乗りする形でのサービス提供をはじめ、様々な試行を手掛け、本格的な地域サービスの一形態とすべく模索を続けている。一部のスーパーやコンビニでは、買い物客に対し無料で、あるいは登録会員に対する特典として、一定量以上の購入商品の自宅への配送サービスを提供する動きが活性化している。リピーターの確保の観点もあり、導入事例が増えている。
白書では2015年発表分において今件問題に関連する事項として、60歳以上の人を対象にした「居住地域での不便さ・気になる点」を聞いた結果を挙げている。その一次データとなる「高齢者の住宅と生活環境に関する意識調査」と同様の調査内容である内閣府の「高齢者の生活と意識 第8回国際比較調査」から、日本における60歳以上の人に「居住地域での不便さ・気になる点」を聞いた結果を経年変化で確認したのが次のグラフ。それによると「特に無い」以外では「日常の買い物に不便」とする項目への賛同意見がもっとも多く、今世紀に入ってからは増加する傾向を示しているのが分かる。「特に無い」の回答率が漸増しているのは幸いだが。
「医療機関との行き来の不便さ」も上位にあるが、それにも増して「日常生活での買い物への不便さ」を覚える人が多い。
同じような環境(例えば居住地域周辺に店舗が無い場合)においては、当然高齢者以外にも買い物への不便さを感じる人はいるが、遠距離への移動が困難な場合が多い高齢者にとって、難儀さは若年層と比べてはるかに大きなものとなる。また高齢層では食事の準備も面倒さを覚えることも多くなる。当然、食品系の買い物の頻度は上がり、近場である必要性はさらに高くなる。若者には「1キロ先? 自転車で行けばいいのでは」だが、自転車に乗ることも困難な高齢者には、1キロ先の店舗ははるか先の場所となる。
実際、歳を重ねると日常生活を営む上で必要な施設に対し、徒歩や自転車などで到達可能な領域内に存在することを望む割合は高くなる。スーパーなどの小売店、郵便局・銀行などの金融機関、そして病院への需要はひときわ高い。
また、移動そのものが若年層と比べて難儀するため、移動ルートにはさまざまな配慮が求められるが、整備が不十分であったり施設そのものが無いなどの問題も多い。外出する際の障害として高齢者が認識している問題には、道路の階段や傾斜、歩道の狭さを筆頭に、中休みできる場所が少ない、自転車やバイク、自動車を使えないために用いることになる公共交通機関が少ないなど、多様なものが挙げられている(今件は2017年版の高齢社会白書からの抜粋となる)。
多くはインフラの整備や公的機関が対応する内容。これらの需要に対応するためには、一層の公共リソースが必要となる。無論、高齢者だけで無く若年層や中年層など他の年齢階層の人にも有益な対応には違いないが、高齢者にとっては優先順位は極めて高い。
高齢者の「買い物弱者」の実情は多様であり、コストや実用性、さらには収益性まで含めて試行錯誤が必要になる(例えばインターネット通販で代替させるには、インフラ整備、利用側の技術向上、身体的な観点での対応が可能か否かなどの問題が発生する)。そして一律に同じシステムを当てはめるのでは無く、個々の環境に照らし合わせ、臨機応変に適応していくことが肝要では無いだろうか。
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