人々が好況を感じにくい理由=戦後最長?の景気も大多数には無縁
エコノミストの間で、景気の拡大が戦後最長を更新するかどうかが注目されている。ただ、多くの読者はそもそも論として「好況そのものをまったく実感できない」との感想を持つだろう。実際、関連記事へのコメントを眺めても“実感なき拡大”を指摘する方々が多い。そこで、景気が良いのに好況感が広がりにくいことを、いくつかの視点や統計を踏まえて解説してみたい。
拡大のペースは、日本経済の成熟化に伴って緩やかに
まず最初に押さえるべきは「拡大」の意味だ。景気は上下の波を描きながら動く。「景気循環」と言われるものだ。そして、波の「谷」から「山」へ向かう動きが「拡大」に該当する。現在の「拡大」は2012年12月から始まり、「山」がまだ先なら拡大期間は戦後最長を更新するわけだ。
ただし、拡大のペースは、日本経済の成熟化に伴って緩やかになっており、特に1980年代後半のバブルが崩壊してからは、不良債権問題が重しとなり、拡大ペースはさらに緩やかになった。バブル崩壊後に現在も含めて拡大が長期化する局面はあったが、「途中でミニ調整も発生し、辛うじて拡大する程度」(外資系証券エコノミスト)という。
人口減少・高齢化、労働市場の変化も好況の恩恵を乏しいものに
さらに、人口減少・高齢化の進展で「潜在的な成長力が低下した」(銀行系証券エコノミスト)ことも拡大の勢いを弱めている。つまり、「拡大」したとは言っても、そのペースが弱いと、国民への恩恵も薄まる。拡大=成長のパイが小さいため、一人一人に分配したらほとんど何も残らない、といった状況だ。
加えて労働市場の変化も拡大の恩恵を乏しくした。労働者の享受する好況の果実は賃金だ。拡大が緩やかでも応じて賃金も増加すれば好況は実感される。だが、バブル崩壊後は労働コストは抑制され、非正規雇用が増大。労働者の待遇は厳しくなった。景気が拡大しても「労働者に恩恵が及びにくくなった」(同)と受け止められる。
大半の労働者が非製造業・中小企業に属することも一因に
最後に労働者の構成要因も挙げたい。日本の労働者は「大半が非製造業の中小・零細企業に属する」(先の外資系証券エコノミスト)。景気は外需主導で拡大し、まずは「大企業・製造業が恩恵を受ける」(同)。問題は、多くの労働者が属する非製造業・中小零細企業への波及が弱いことだ。これは企業規模の景況格差にもうかがえる。
日銀が四半期ごとに発表する「企業短期経済観測調査(短観)」で景況格差を見てみよう(下のグラフ参照)。「非製造業」を規模別にみると、細い実線が示す「中小企業」の業況感はバブル崩壊以降は水面下で推移し、この数年間でやっとプラス圏に浮上した。経営側がその程度の景況感なので、従業員の景況感はまだマイナス圏である可能性もあるだろう。
では、どうなれば全員が好況を実感できるのか
経済のグローバル化に対応した大企業・製造業は、世界経済が好転するとその恩恵を受ける。一方、非製造業は基本的には経済圏が国内に限定され、世界経済の好影響は受けにくい。この数年は外国人旅行者の増大が内需に寄与するが、恩恵は都市部や観光地に限定され、非製造業全体には及びにくい。
以上をまとめると、景気拡大が実感されにくいのは、1)経済の成熟化・バブル崩壊・人口減少や高齢化で拡大の勢いが弱まった 2)拡大の起点は外需となるが、その恩恵はグローバル化した大企業・製造業に限定されやすい 3)大半の労働者は非製造業・中小零細企業に属し、恩恵が届きにくい-ということになる。
では、どうなればほぼ全員が好況を実感できるのか。日銀短観のグラフを改めてご覧いただきたい。1980年代後半は企業規模に関係なく景況感は爆発的に改善した。そう、全国地価が高騰するバブルになればいいのだ。ただし、「そうしたことは二度と起きそうにない」(先の銀行系証券エコノミスト)ため、大半の国民は今後も好況とは無縁である可能性が高い。