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米大統領選、ブルーウェーブで大麻解禁へ 日本、水際対策が急務

猪瀬聖ジャーナリスト/翻訳家
遊説するハリス副大統領候補(写真:ロイター/アフロ)

米大統領選挙で、民主党のバイデン候補が勝利し、かつ同時に行われる議会選挙で上下両院とも民主党が多数派となる「ブルーウェーブ」が起きた場合、米国で大麻が解禁される可能性が高まっている。民主党はかねて大麻解禁に熱心で、バイデン氏や副大統領候補のハリス上院議員も解禁を後押しているためだ。日本は、密輸の増加に備えた水際対策の強化が急務となる。

動き出す大麻法案

上院民主党トップのシューマー上院院内総務は先日、米メディアのインタビューに答え、11月3日の選挙で民主党が上院の多数派となった場合、大麻法案の成立に向け、行動を起こすと語った。米議会の多数派は現在、下院が民主党、上院が共和党と分かれているが、最新の世論調査によると、トランプ大統領の不人気の影響を受け、上下両院とも民主党が多数派になる可能性が高い。

大麻関連の法案は、すでに議会に何本か提出されているが、可決が最も有力視されているのは、通称「MORE Act」(モア・アクト)と呼ばれている法案。昨年7月に下院に提出され、11月20日の司法委員会を、共和党議員の支持も得て賛成24反対10の圧倒的多数で通過したが、そこで止まったままだ。

いったんは、今年9月に下院本会議で投票に掛けられる見通しとなったが、新型コロナウイルス関連の法案を優先するなどの理由から、直前に延期になった。

モア・アクトは、ほぼ同じ内容の法案が上院にも提出されている。上院バージョンは、ハリス氏が提出者だ。ただ、上院共和党トップのマコネル上院院内総務が大麻解禁に否定的なため、審議が進んでいない。

アルコール飲料と同じ扱いに

大麻は現在、薬物を規制する「規制物質法」の中の、規制が最も厳しい「スケジュール1」に分類されている。他に、スケジュール1に指定されているのは、LSDやヘロインなど。モア・アクトは、大麻を規制物質法から削除し、アルコール飲料と同様、年齢制限や販売方法、使用場所の制限などの規制を、各州に委ねるというのが柱だ。

これにより、大麻を所持していても、連邦法では処罰の対象外となる。厳密には「合法化」(legalization)ではなく、「非犯罪化」(decriminalization)と説明されているが、各州法に従って使用する限りは問題ないことから、実質的には、解禁、合法化だ。

米国では、2014年にコロラド州が初めて娯楽のための大麻の使用(recreational use)を認めて以来、州レベルで大麻解禁の動きが急速に拡大。現在、全50州中、11州と首都ワシントンで、娯楽用の使用が認められている。とはいっても、アルコール飲料と同様、未成年者の使用禁止、大麻を吸っての自動車の運転禁止、販売には免許が必要など、厳しい規制がかかっている。

一方、大麻を医療目的で使うことを認める州も増えており、その数は現在、33州に達している。

4州が合法化問う住民投票実施

11月3日には、大統領選などと同時に、多くの州で住民投票が実施されるが、新たにニュージャージー、アリゾナ、サウスダコタ、モンタナの4州が、娯楽用大麻の合法化の是非を州民に問うことになっている。事前の世論調査では、いずれの州も、合法化賛成が反対を上回っている。

現状では、大麻に関する州法と連邦法の関係はあいまいだが、モア・アクトが成立すれば、連邦法が州法の合法性にお墨付きを与えることになるため、州レベルでの大麻合法化が加速する可能性もある。

人種差別の象徴

大麻合法化の背景にあるのは、大麻は白人だって吸っているのに、大麻の所持で逮捕され有罪判決を受けるのは、黒人などマイノリティが圧倒的に多いという、米国ならではの「人種差別」の問題だ。

殺人や強盗などに比べればはるかに「微罪」の大麻所持で、職を失ったり退学処分になったりし、前科者のレッテルを貼られ、就職も難しくなり、一生、経済的に困窮した生活を送らなければならないのは不合理だという不満が、マイノリティの間には強い。

今回の大統領選にも大きな影響を及ぼした人種差別に抗議する運動「BLM」では、マイノリティが様々な不利益を被る社会の制度、慣習を意味する「制度的差別」(systemic racism)の存在が大きな問題となったが、大麻の所持を処罰する法律は、制度的差別の象徴と見られている。

このため、モア・アクトには、大麻がらみで過去に有罪判決を受けた市民が、裁判所に判決の見直しを求めることができる条項も含まれている。

密輸増加のリスク

ハリス氏は、モア・アクトが下院司法委員会を通過した時に声明を出し、次のように述べている。

「大麻を合法化する州が増える中、大麻関連で有罪判決を受けた何百万という数のアメリカ人は、依然、就職や教育、住宅探しで、非常に困難な状況に置かれたままだ。彼らから大麻による有罪判決という重荷を取り除き、彼らが前進するために必要な支援を受けられるよう、私たちが行動しなければならない理由は、そこにある」

ただ、大麻がより多くの州で自由に流通するようになると、そうした大麻が日本に密輸されたり、日本からの観光客が大麻を経験したりするリスクも、それだけ高まることになる。水際対策や国内での取り締まりを一層強化することが、政府に求められそうだ。

ジャーナリスト/翻訳家

米コロンビア大学大学院(ジャーナリズムスクール)修士課程修了。日本経済新聞生活情報部記者、同ロサンゼルス支局長などを経て、独立。食の安全、環境問題、マイノリティー、米国の社会問題、働き方を中心に幅広く取材。著書に『アメリカ人はなぜ肥るのか』(日経プレミアシリーズ、韓国語版も出版)、『仕事ができる人はなぜワインにはまるのか』(幻冬舎新書)など。

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