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乾癬患者さん必見!生物学的製剤の消化器トラブル、知っておくべき最新情報

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
Ideogramにて筆者作成

【生物学的製剤による乾癬治療の進歩と課題】

近年、乾癬治療は大きな進歩を遂げています。その中心となっているのが、生物学的製剤と呼ばれる新しいタイプの薬です。生物学的製剤は、乾癬の症状を引き起こす体内の特定の物質を狙い撃ちにする、とても効果の高い治療法です。

しかし、どんな薬にも副作用はつきものです。生物学的製剤も例外ではありません。特に注目されているのが、消化器系の副作用です。下痢や胃腸の不快感などが、臨床試験でよく報告されていました。

ただ、これまでの研究では、炎症性腸疾患以外の消化器系の問題については、あまり詳しく調べられていませんでした。そこで今回、実際の使用状況での副作用報告を分析した研究結果が発表されました。

Mapifyにて筆者作成
Mapifyにて筆者作成

【消化器系副作用の実態:薬剤監視研究のシステマティックレビュー】

この研究は、薬剤監視研究と呼ばれる方法で行われました。薬剤監視研究とは、薬が市販された後の実際の使用状況で起こる副作用を広く集めて分析する方法です。臨床試験とは違い、より幅広い患者さんの情報を集められるのが特徴です。

研究チームは、2014年から2023年までに発表された10本の論文を詳しく分析しました。これらの論文には、合計189,103件の症例が含まれていました。

その結果、生物学的製剤を使用した乾癬患者さんの約8.7%(16,470件)に、何らかの消化器系の副作用が報告されていたことがわかりました。これは、臨床試験での報告とほぼ同じくらいの割合です。

特に注目すべきは、IL-17阻害薬と呼ばれるタイプの生物学的製剤です。このタイプの薬は、他の生物学的製剤と比べて、消化器系の副作用が起こりやすい傾向が見られました。

【乾癬患者さんが知っておくべき消化器系副作用】

具体的にどんな副作用が報告されているのでしょうか。主なものを挙げてみましょう。

1. 炎症性腸疾患(IBD):腸に炎症が起こる病気です。セクキヌマブやイキセキズマブという薬で、他の副作用よりも起こりやすいことがわかりました。

2. 過敏性腸症候群(IBS):腹痛や便通の異常が続く症状です。セクキヌマブで報告が多かったようです。

3. 好酸球性食道炎:食道に炎症が起こる病気です。グセルクマブという薬で報告されています。

4. 憩室穿孔:腸の壁にできたポケット(憩室)に穴があく重篤な状態です。これもグセルクマブで報告がありました。

5. 直腸腺がん:直腸にできるがんの一種です。グセルクマブで報告されていますが、非常にまれです。

これらの副作用は、薬を使い始めてから平均75.5日(約2.5ヶ月)後に現れる傾向がありました。ただし、20日から280日までと幅があります。

これらの副作用は決して軽視できません。特に、炎症性腸疾患や憩室穿孔は重篤な状態に発展する可能性があります。しかし、ここで強調したいのは、これらの副作用はあくまでも「可能性」であり、必ずしも全ての患者さんに起こるわけではないということです。生物学的製剤の乾癬治療における有効性は非常に高く、多くの患者さんの生活の質を大きく改善しています。大切なのは、このような副作用の可能性を知った上で、担当医とよく相談しながら治療を進めることです。

また、乾癬患者さんは元々炎症性腸疾患などの消化器系の病気を併発しやすいことが知られています。そのため、副作用なのか、それとも乾癬に伴う別の病気なのか、見極めが難しい場合もあります。

現在のガイドラインでは、IL-17阻害薬を使用する際に炎症性腸疾患の症状に注意するよう推奨しています。しかし、今回の研究結果を踏まえると、他の消化器系の症状にも注意を払う必要があるかもしれません。

この研究には、いくつかの限界もあります。例えば、副作用の報告が不完全だったり、偏りがあったりする可能性があります。また、乾癬以外の病気にも使われる薬が含まれていることなども、結果に影響を与えている可能性があります。

しかし、これらの限界を考慮しても、この研究は生物学的製剤の消化器系副作用について貴重な情報を提供してくれています。今後さらに詳しい研究が行われ、より安全な治療法の確立につながることが期待されます。

乾癬の患者さんにとって、生物学的製剤は大きな希望をもたらす治療法です。しかし、どんな治療にも利点と副作用があります。この研究結果を参考に、担当医とよく相談しながら、自分に最適な治療法を選んでいくことが大切です。

参考文献:

Sood S, Tarafdar N, Perlmutter J, et al. Gastrointestinal adverse events associated with use of biologic therapies available for psoriasis: a systematic review of pharmacovigilance studies. Journal of the American Academy of Dermatology. 2024. doi: https://doi.org/10.1016/j.jaad.2024.09.022

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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