ZOZO前澤社長の「1億円お年玉キャンペーン」が国会で問題に! その結果は?
ツイッターを効果的に使って事業拡大に活用してきたことでも知られるZOZOの前澤友作社長が新年早々、「ツイッターをフォロー&リツイートしたら100人に100万円をプレゼント」という総額1億円の“お年玉”キャンペーンで話題を呼んだことは記憶に新しい。フォロワー数が一時期は600万人を超え、RT数も560万をこえて世界最高記録を打ち出した。
「夢を与えるナイスな企画」だと賞賛の声があがる一方、カネにものを言わせてフォロワーを増やす行為に眉をひそめる人も少なくなかった。その後、前澤社長の手法をマネた“模倣犯”が雨後の筍ように現れたことを問題視する人もいた。これらは法的に何の問題もないのかなと、なんとなくモヤモヤした部分が残ってたのも事実である。
そんなおり、参議院議員の杉尾秀哉議員(立憲民主党)が2月5日にこのキャンペーンに関する質問主意書を提出した。政府は主意書が提出されると答弁書を閣議決定し、回答する義務を負っている。その閣議決定が今日(15日)行われた。
政府見解の内容は後述するが、杉尾議員の質問はこの事案に関する問題点を過不足なく網羅する内容だった。少々長くなるが、以下にその質問主意書を引用する。これを読めば、ZOZOキャンペーンのどこがグレーだったのかがよくわかるはずだ。
〈応募者に金銭を供与する旨のツイッター上の発言に関する質問主意書
株式会社ZOZOの前澤友作社長が、平成三十一年一月五日、自身のツイッターに「ZOZOTOWN新春セールが史上最速で取扱高百億円を先ほど突破!!日頃の感謝を込め、僕個人から百名様に百万円【総額一億円のお年玉】を現金でプレゼントします。応募方法は、僕をフォローいただいた上、このツイートをRTするだけ。受付は1/7まで。当選者には僕から直接DMします!」と記した(以下「本件行為」という。)
以下、本件行為について質問する。
一 本件行為は、独占禁止法あるいは景品表示法等、消費者の保護に関する諸法令に抵触しないか。
二 SNS上で本件行為と同様の行為を行い、「フォロワー」や「リツイート」を増やした上で現金百万円のプレゼントを行わなかった場合、当該行為は刑法第二百四十六条(詐欺罪)の構成要件に該当するか。
三 前期二のように、プレゼントを行わなかった場合、現行制度において、SNS運営会社に指導や監督を行うことは可能か。
四 本件行為と同様の行為が、特定の政党又は候補者への投票の呼び掛けとともに行われた場合、当該行為は公職選挙法上の買収及び利害誘導罪の構成要件に該当する可能性があるのではないか。
五 本件行為と同様の行為が、憲法改正案に対する賛成又は反対の投票の呼び掛けとともに行われた場合、当該行為が組織により行われていなくとも、投票の公正さに影響を及ぼすことが有り得るのではないか。日本国憲法の改正手続きに関する法律上の買収及び利害誘導罪に関する規定を見直す必要性について、政府の見解を示されたい。
六 本件行為後、株式会社ZOZOの株価は上昇した。株価に影響を及ぼした本件行為は株価操作に該当しないのか。株価操作に該当する場合の防止策の要否も含め、政府の見解を問う。
また、本件行為のような株価等に影響を及ぼす可能性がある事実を知りえる立場にいる者が、その事実を知り、その事実の公表前に当該上場会社の株式等の売買等をした場合、当該行為はインサイダー取引に該当しないか、政府の見解を示されたい、
右質問する。〉
http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/syuisyo/198/meisai/m198008.htm
6項目にわたる質問は、なるほどそういう側面があるなと思わせるものばかりだ。なかでも、質問の4と5の選挙などに利用される懸念は確かにある。とりわけ5番目の質問にある憲法改正に関する国民投票で利用されたら、非常にマズイと素朴に思う。
実は、質問をした杉尾議員の問題意識もここにあった。杉尾議員はもともと憲法改正の国民投票におけるテレビCMの問題に取り組んでいたからだ。現行の国民投票法ではテレビCMに関する規制がほとんどない。これは諸外国ではあり得ないことだという。単純な話、資金力がある組織がCMを使って世論を操作できる状態にある。杉尾議員は、ZOZOのキャンペーンを見て同じ“匂い”を感じたという。
カネさえあれば、何百万人もの人の心を動かす可能性がある―――。
果たして、政府見解はどうだったのか。2月15日に閣議決定された答弁書は案の定、心配されたとおりの内容だった。というか、あまりに「心配されるとおり」だったことに驚かされる、と言ったほうが正確だろう。
基本的には、ほとんどの質問に「お答えすることは困難である」「差し控えたい」と答えていない。参考までに全文を引用しておこう。
〈参議院議員杉尾秀哉君提出応募者に金銭を供与する旨のツイッター上の発言に関する質問に対する答弁書
一について
お尋ねの「本件行為」が、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和二十二年法律第五十四号)、不当景品類及び不当表示防止法(昭和三十七年法律第百三十四号)等の法令に違反するか否かは、個別具体的な事情により判断されることとなり、一概にお答えすることは困難である。
二及び四について
犯罪の成否については、捜査機関が収集した証拠に基づいて個々に判断すべき事柄であるところ、お尋ねについては、仮定の質問であり、お答えすることは差し控えたい。
三について
お尋ねについては、仮定の質問であり、お答えすることは差し控えたい。
五について
お尋ねについては、日本国憲法の改正手続きに関する法律(平成十九年法律第五十一号)が平成十九年に議員立法で制定された際、同法第百条の二の国民投票運動については基本的に自由とし、投票の公正さを確保するための必要最小限の規制のみが設けられることとされたものと承知しており、国会において御議論いただくべき問題であると考えている。
六について
金融商品取引法(昭和二十三年法律第二十五号)第百五十八条では、何人も、有価証券の募集、売出し若しくは売買その他の取引若しくはデリバティブ取引等のため、又は有価証券等の相場の変動を図る目的をもって、風説を流布し、又は偽計を用いてはならないこと等とされている。また、同法第百六十六条第一項では、上場会社等の役員等であって、その者の職務に関し当該上場会社等の業務等に関する重要事実を知ったものは、当該業務等に関する重要事実の公表がされた後でなければ、当該上場会社等の特定有価証券等の売買等をしてはならないこと等とされている。これらの規定に違反する行為については、課徴金納付命令及び罰則の対象としているところ、御指摘のような行為が、これらの規定に違反するか否かは、個別具体的な事情により判断されることとなり、一概にお答えすることは困難である。〉(太文字筆者)
読んでいただければお判りのように、「五について」以外は答えていない。六については長々書いてあるが、法律の一般論が書いてあるだけで、結論は〈一概にお答えすることは困難である〉ということだ。そう、「五」だけにはっきり見解が示されている。ここに政府の強烈な意図が読み取れる。
要は、政府としては国民投票運動については〈基本的に自由〉で、規制は必要最小限にとどめるべきだと考えているということだ。その余については〈国会においてご議論いただくべき問題である〉という。つまり、現状ではやりたければやればいいんじゃない、という態度なのだ。これは問題だろう。
質問主意書を提出した杉尾議員もこう話す。
「『自由である』ということは、事実上容認したのと同じです。しかし、あのやり方を悪用すれば買収行為のようなこともできてしまう。おカネで世論を左右するのは民主主義国家としてあってはならない。テレビCMの問題と根は同じです。答弁書にあるように国会でしっかり議論する必要がありますね」
ZOZO前澤社長の“お年玉”が思わぬ方に転がり始めたようである。