中国による穀物買いだめとウクライナ問題による天然ガスの価格高騰が、さらなる国内物価の押し上げ要因に
19日の日経新聞が今後の日本の物価上昇要因ともなりうることに関する記事を2つ掲載していた。そのひとつは「世界の穀物 中国買いだめ」という記事である。中国は大躍進や文化大革命による食糧不足を経験していたが、その中国が食糧の買いだめを加速させている。米農務省によるとトウモロコシなど主要穀物の世界在庫の過半が、世界人口の2割に満たない中国に積み上がっているという。
トウモロコシなどが値上がりしていたが、それは経済の正常化を睨んだ動きとされていた。しかし、それ以上に中国が備蓄を急増させていたことが要因であった。これによって食品価格が世界的に高騰している。
日本でも食品メーカーの「キユーピー」は主な原料である食用油の価格が上昇しているとして、来年3月からマヨネーズやドレッシングなどの商品を値上げすると発表した。大豆や菜種の取引価格の高騰を背景に、主な原料である食用油の価格が上昇しているためとしている。
キッコーマン食品は2022年2月16日納品分から「キッコーマンしょうゆ」などを希望小売価格で約4~10%値上げすることを発表し、ヤマサ醤油は16日、しょうゆ商品やしょうゆ加工品約100商品を2022年3月1日納品分から値上げすると発表している。原材料価格や原油価格・物流費などの高騰などを理由にあげている。
そして原油価格とともにエネルギー関係の価格上昇として気になる記事がやはり19日の日経新聞に掲載されていた。「欧州ガス高騰 アジア波及」との記事である。
これによるとウクライナ情勢の緊迫化が液化天然ガス(LNG)の取引価格を押し上げている。ウクライナ情勢の緊迫化によってロシアから欧州向けのLNGの供給不安が強まり、それがLNG価格そのものを押し上げ過去最高値に接近した。アジア地域のLNGのスポット価格も上昇し、週次ペースで過去最高値となった。
LNGの高騰を受けて、国内の家庭の電気料金が値上がりを続けている。東京電気ホールディングでは2022年2月の一般向けの料金も値上がりするり見込みとなっており、2016年の電力小売り自由化以降の過去最高値となる見通しとなっている。電力料金は石油、LNG、石炭といった燃料価格の変動分が自動で転嫁される仕組みで、過去3か月の平均燃料価格を2か月先の料金に反映する。
つまりこれによって何が起きるのか。
国内企業物価指数は11月が前年比9%もの上昇となっていたが、今後も高止まりが続くことが予想される。そして低迷している消費者物価指数にも影響を与える可能性が出てきた。
2021年4月に大幅値下げが実施された携帯電話通信料の引き下げによって、消費者物価指数は大きく押し下げられていることにも注意が必要である。
この携帯電話通信料を除いた消費者物価指数(除く生鮮)は、10月は前年比プラス1.7%近辺になる。ただし、ここにGoToトラベルに絡んだ宿泊料の押し上げ要因を除けば1.4%程度とされる。
24日には11月の消費者物価指数が発表されるが、こちらはこの携帯電話通信料を除いたものでみると2%を超えてくるとの予測がある。
消費者物価指数(除く生鮮)の携帯電話通信料引き下げによる影響がなくなるのは、2022年4月以降となる。それとともに2022年2月や3月にマヨネーズやドレッシング、醤油などが値上がりする。
食料品による影響はそれほど大きくないとしても、そこに電力料金の上昇も加わることになる。となればコアCPIで2%に接近、もしくは超えてくる可能性がある。
いや、変動の大きいエネルギー価格や食料品は除いてコアコアで見る必要もあるとの見方もある。しかし、あくまで日銀が掲げている物価目標はコアと呼ばれる生鮮食料品を除いた消費者物価指数であり、それが2%を超えてくるとなれば日銀の金融政策を取り巻く状況は当然変わってくる。それ以前に、日銀が集計している企業物価は前年比で9%も上昇しているのではあるが。