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中央銀行の追加緩和は市場のパニック売りに対して効果は限定的

久保田博幸金融アナリスト
(写真:つのだよしお/アフロ)

 3月12日の米国株式市場では一時サーキットブレーカーが発動するなど大幅な下落となり、ダウ平均は2352ドル安となり、過去最大の下げ幅を記録した。下落率も10.0%と1987年10月19日のブラックマンデーの22.61%以来の大きさとなった。

 欧州株式市場も大きく下落し、ストックス欧州600種は過去最大の下げ幅を記録した。また、ロンドン株式市場、FTSE100種は2012年以来の安値を付けた」

 イングランド銀行は10日に臨時で金融政策委員会(MPC)を開き、政策金利を0.50%引き下げることを決定し、銀行に貸し出し増加を促すため「TFSME」と呼ぶ長期の資金供給枠組みを新設することなども決定した。

 そして12日のECB理事会では、量的緩和政策の拡大を決めた。現在月200億ユーロのペースで国債などを買い入れているが、これに加えて1200億ユーロの資産を年末までに追加購入する。さらに中小企業などに資金が行き渡りやすくするため、最低でマイナス0.75%という低利で銀行に資金を貸し付けることも決めた(13日付日経新聞電子版)。

 市場ではECBの利下げ期待もあったようだが、マイナス金利の深掘りとなる利下げは見送った。ラガルド総裁がマイナス金利の深掘りには積極的でなかったということもあろうが、この地合のなかマイナス金利の深掘りによって金融機関の経営悪化など意識されてしまうと、効果そのものに疑問もあるなか、むしろあらたなリスクを生む懸念すらありうる。これは日銀も同様であろう。

 そして、株価の急落に対して、ニューヨーク連銀は1.5兆ドル規模の追加レポオペを実施すると発表し、資産買入も短期国債から長期国債などへも広げる策を発表した。このFRBの発表によってダウ平均は一時下げ幅を縮小させたが、結果は2352ドル安となり、過去最大の下げ幅となった。

 何度も繰り返すが、金融緩和策で新型コロナウイルスの感染拡大は食い止められない。また、市場はこの中央銀行による大胆な緩和策もあって株価が嵩上げされていた面があり、その分が剥げ落ちつつある。新型コロナウイルスの世界的な感染拡大とその影響による人や物の動きが封じられ、景気の後退が避けられないとの見方がきっかけとなったが、実体経済と株価の乖離が急激に修正されたとの見方もできる。

 欧州危機以降、大胆な中央銀行の緩和策が多少なり修正され、出口に向けた政策が取れたところ、たとえばFRBなどは利下げ余地は生まれたが、大胆な緩和を継続せざるを得なかったECBや日銀にとっては、ここからの実質的な緩和余地は少ない。さらに無理な緩和を行ったとしても、上記のようにマーケットで不安が渦巻く状態にあっては、安定化策としての効果はほとんどない上、副作用のほうが意識されかねない。

 もちろん何もしないという選択肢もないかもしれない。ただし、形式的で効果も望めず副作用が意識される政策よりも、資金繰りに苦しむ事業者などを助ける実質的な効果のある政策を資金供給などによって支援する策のほうが効果は出るものと思われる。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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