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プーチン氏側近が極秘裏に西側に接触「戦争を終わらせたい」英紙報道 露軍がウクライナ南部で撤退

木村正人在英国際ジャーナリスト
いよいよ終わりが近づいてきたプーチン露大統領(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

■西側情報機関「クレムリンはパニックに陥った」

[ロンドン発]ウラジーミル・プーチン露大統領の側近やクレムリン高官が「ウクライナ戦争を終わらせたい」と極秘裏に西側に接触していると英大衆紙デーリー・ミラー電子版が14日、特ダネとして報じた。西側情報機関で共有された機密文書によると、プーチン氏の側近は「クレムリンはパニックに陥り、なりふり構わず戦争を終わらせようとしている」という。

同紙によると、プーチン氏に近い上級将校や高官は西側の制裁と戦争による経済破綻を憂慮している。クレムリン関係者は、ウクライナ南部にある欧州最大規模のザポリジャー原発での戦闘など「核リスク」も懸念している。このため側近の一部がこれまでにコンタクトのある米中央情報局(CIA)のスタッフや西側の外交官に接触し始めたという。

機密文書は「プーチン氏のインナーサークルの代表が交渉したいというシグナルを西側に送ってきた。クレムリンのエリートはパニックを起こしている」と指摘している。内通者はプーチン政権を支える「中枢の1人」だという。キーウを制圧して傀儡政権を樹立できなかった責任を周囲になすりつけるため、プーチン氏は軍や情報機関の幹部を更迭している。

■プーチン氏の側近、不可解な死

プーチン氏がウクライナに侵攻してから、ロシアの高官やビジネスマン十数人が次々と重病になったり、不可解な死を遂げたりしている。

エリツィン政権時代に第一副首相兼財務相として民営化を進めたアナトリー・チュバイス氏(67)は今年3月、ウクライナ侵攻に反対して気候変動問題の大統領特使を辞任し、妻とともに国外に逃れた。手足にしびれを感じて欧州の病院に入院したことが今月1日明らかになった。ギラン・バレー症候群と診断されたが、毒が盛られた疑いもくすぶっている。

ロシア軍がウクライナに侵攻した翌日の2月25日、ロシアのエネルギー大手ガスプロムの財務・安全保障部門幹部アレクサンドル・チュラコフ氏(61)が自宅で首を吊って死んでいるのが見つかった。遺書が残されていたものの、チュラコフ氏の遺体には殴られた跡があり、首吊り自殺は演出されたとの見方が報じられた。

4月18日には元クレムリン高官でガスプロムバンクの副社長だったウラジスラフ・アバエフ氏(51)が妊娠中の妻エレナさん(47)と娘マリアさん(13)とともに射殺されているのが見つかった。アバエフ氏の手にはピストルが握られていた。

こうした恐怖支配にプーチン氏の側近からも反発が強まっていることは十分に考えられる。プーチン政権はウクライナ征服に固執する強硬派と、現実的な慎重派に二分しているとされる。

■米高官「ロシア軍は7万~8万人の死傷者を出した」

精密誘導弾による空爆に匹敵する破壊力を持つ米M142高機動ロケット砲システム「HIMARS」(ハイマース、射程80キロメートル)計16両、英国やドイツ、ノルウェーが保有する自走多連装ロケットシステムM270 MLRS(同)計12両の供与が決定され、ウクライナの前線に配備されてから戦局は一気に逆転した。

8月9日にはロシアが占領するクリミア半島のサキ軍用空港で複数の爆発が起き、ロシア空軍の戦闘機9機以上が破損・破壊された。前線から最短でも200キロメートル以上離れており、ハイマースから地対地ミサイル「MGM-140 ATACMS(エイタクムス、射程300キロメートル)」が発射され、ウクライナ空爆の出撃拠点を叩いた可能性も取り沙汰される。

ウクライナ軍は南部ヘルソン州でドニプロ川のアントニフスキー橋やカホフカ水力発電所ダムの橋など3つの橋を攻撃し、ロシア軍の補給路と退路を完全に断った。

これを受け、南部ミコライウ州のビタリ―・キム知事の投稿をもとに「ロシア軍の司令官は2万人以上の兵を残してドニプロ川右岸から戦術的撤退を始めた」と英メディアは一斉に報じている。ヘルソン市はドニプロ川右岸にある。

米国のコリン・カール国防次官(政策担当)は今月8日の記者会見で「戦争は常に霧に包まれており、正確な数字は分からない。しかしロシア軍はこの半年足らずの間に7万~8万人の死傷者を出したと見ていいだろう。この数字は大体の目安になると思う」と指摘した。

プーチン氏の血生臭い人生を追跡してきた『キラー・イン・ザ・クレムリン(クレムリンの殺し屋)』の著者で元BBC記者のジョン・スウィーニー氏はこうみる。

「プーチン氏を権力から取り除く安全で確実な方法はウクライナがロシアを軍事的に打ち負かすことだ。そうすれば日露戦争と第一次大戦に敗れたニコライ二世(帝政ロシア最後の皇帝)と同じ運命がプーチン氏を待ち受けている」

孤独な独裁者プーチン氏の終わりは確実に近づいている。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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