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子宮頸がんは撲滅できるって本当? 3月4日は「国際HPV啓発デー」、正しい知識を

重見大介産婦人科専門医 / 公衆衛生学修士 / 医学博士
(写真:アフロ)

子宮頸がんは撲滅できる?

「がんを撲滅する」って、あまり聞きなれない言葉ですよね。

そもそも「がん(悪性腫瘍)」って誰にでも自然にできちゃうものだから予防できるの?と思うかもしれません。

確かに「がん」は、今でも効果的な予防方法がわかっていないものや、予防法があっても「リスクを減らす」くらいしか期待できないものが多いです。

ところが、子宮頸がんに関しては、

・発症原因がわかっている

・非常に有効な予防法(HPVワクチン)がある

・国によっては近い将来撲滅できそう

という状況なのです。

女性だけでなく男性にも高いHPVワクチン接種率を実現しているオーストラリアでは、2028年には子宮頸がんが撲滅されるという予測結果が出ています(文献1)。

今日(3月4日)は「国際HPV啓発デー」。

「HPVってなんだ?」というところから、みんなで知っておきましょう。

これは、女性だけでなく男性を含めた全ての人に関わる話なのです。

みんパピ!みんなで知ろうHPVプロジェクト(みんパピ!)は、「国際HPV啓発デー」を主催している国際パピローマウイルス学会の公式パートナーとして、日本におけるキャンペーンを主導しています。

ヒトパピローマウイルス(HPV)ってなに?

HPVとはウイルスの一種で、身の回りに存在している代表的なウイルスです。実は成人男女の8割が、生涯に一度は感染していると考えられており、誰にでも関係のあるウイルスなんです。

HPVの主な感染経路は性行為であり、感染しても風邪のような症状は引き起こしません。代わりに、尖圭コンジローマと呼ばれる性感染症や、長期間かけて感染部位の細胞を変化させ悪性腫瘍(がん)の原因となることがあります。日本で最も多いHPV関連がんは子宮頸がんです。子宮頸がんの原因の95%はHPV感染によるものと考えられています。

なお、男性にもHPVは深く関係しています。HPVが原因でできる中咽頭がんや肛門がんがありますし、尖圭コンジローマと呼ばれる性感染症は生じます。

こちらの記事もご参照ください。

HPVワクチンは男性も接種するべき?効果や費用、日本と他国の状況も含めて解説(みんパピ!)

日本では年間約1万人の女性が子宮頸がんと診断され、約2900人が死亡しています(文献2)。これは、1日当たり約8名が子宮頸がんで命を落としていることになります。亡くならずに済んだ場合でも、治療のために多くの女性が子宮摘出や化学療法(抗がん剤など)を余儀なくされています。

最近では20~30代の子宮頸がんが増えており、このため妊娠や出産ができなくなる方も少なくありません。産婦人科医として、このような患者さんとそのご家族を見るのは大変辛いものです。

HPV感染を予防するワクチンがあります

子宮頸がんを含むHPV感染症を予防する方法があります。それが、HPVワクチンです。このワクチンはがんを予防できるワクチンという意味で画期的であり、世界各国でその研究成果などが賞賛されています。

日本では2013年4月に小学6年生~高校1年生の女の子を対象に定期接種(国が費用を全て負担し、無料で接種できるワクチン)となりました。しかしワクチン接種後の症状への懸念から同年6月に接種勧奨が一時差し控えとなりました。その影響で、当初70%あった接種率は1%未満に下がり、その状況が何年も続いてきました。

ところが、HPVワクチンの有効性(子宮頸がん予防効果)や安全性は、ここ数年間に報告された多くの国内外の研究により明らかになりました。

そういったエビデンスを踏まえ、国は2021年11月に「積極的勧奨を再開する」ことを決定しました(文献3)。

なお、HPVワクチンの有効性と安全性については以下の記事も参考にしてください。

子宮頸がんとHPVワクチンに関する正しい理解のために(日本産科婦人科学会)

4価のHPVワクチンが子宮頸がんを予防するという研究結果が発表されました(みんパピ!)

性交渉の経験があってもHPVワクチンの効果はありますか?(みんパピ!)

HPVワクチンの安全性は数多くの研究で確かめられています(みんパピ!)

また、厚生労働省は、HPVワクチンについて、積極的な接種勧奨を中止していた期間に機会を逃した1997~2005年度生まれの女性が公費で接種できる「キャッチアップ接種」の運用も決定しました(文献3)。

これにより、これまでHPVワクチンのことを知らずに接種を逃してしまった女性も、費用負担の心配なく接種が可能になります。とても素晴らしい決定だと思います。

なお、HPVワクチンを接種しても、しっかりと定期検診(子宮がん検診)を受けることも大切です。

こちらの記事も参考にしてください。

HPVワクチンを接種しても子宮頸がんの検診を受けるべき理由とは(みんパピ!)

3月4日は「国際HPV啓発デー」

2018年から毎年実施されてきたこのイベントでは、全世界80以上の団体・組織がHPVについて広く知ってもらうためのキャンペーンを世界中で行っています。

以下に、公式パートナーである「みんパピ!」により本日実施されるイベント内容を紹介します。HPVとワクチンについての正しい情報が多くの人に届くことを願います。

①「インフルエンサー x 専門家」トークイベント(19時〜)

積極的勧奨の再開が決まったHPVワクチンの啓発を目的としたオンラインイベント「Medical Note Live with みんパピ! インフルエンサー×専門家:みんなが聞きたいHPVワクチンと女性のヘルスケア」が開催されます。

本イベントは、特に中高生へワクチンの正確な情報を伝えることを目的としています。

高校・大学に在学するインフルエンサーのほか、産婦人科医や政治家・ジャーナリストなど専門的知見を有する著名人と共に、働く女性のヘルスケアや性教育の在り方など、HPVワクチンに関連して関心の高まるテーマについても討論していきます。

詳細や視聴申し込みはこちらからご覧いただけます。

②「ワクチンについて知ろう」トークイベント(22時〜)

また、22時からは「みんパピ!」、新型コロナワクチンの情報提供プロジェクトである「こびナビ(CoV-Navi)」「コロワくんサポーターズ」が合同で、YouTube Liveが開催されます。

専門家がワクチンについてわかりやすく解説します。

事前申し込みは不要で、こちらからどなたでも視聴が可能です。

ぜひ、「国際HPV啓発デー」である今日、HPVについてみんなで知識を深めましょう。

*参考文献に一部誤りがあったため修正しました(2022.3/5)。

参考文献:

(1)Lancet Public Health. 2019 Jan;4(1):e19-e27.

(2)国立がん研究センター. 最新がん統計.

(3)厚生労働省.

産婦人科専門医 / 公衆衛生学修士 / 医学博士

「産婦人科 x 公衆衛生」をテーマに、女性の身体的・精神的・社会的な健康を支援し、課題を解決する活動を主軸にしている。現在は診療と並行して、遠隔健康医療相談事業(株式会社Kids Public「産婦人科オンライン」代表)、臨床疫学研究(ヘルスケア関連のビッグデータを扱うなど)に従事している。また、企業向けの子宮頸がんに関する講演会や、学生向けの女性の健康に関する講演会を通じて、「包括的性教育」の適切な普及を目指した活動も積極的に行っている。※記事は個人としての発信であり、いかなる組織の意見も代表するものではありません。

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