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【卓球】パリ五輪日本代表選考システムは公平か? トーナメント戦の組み合わせを検証する

伊藤条太卓球コラムニスト
現在選考ポイント6位の芝田沙季(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

1月30日、日本卓球協会がパリ五輪日本代表選考ポイントの獲得状況を公式ウェブサイトで発表した。前日に終了した全日本選手権(以下、全日本)での獲得ポイントを反映した男女の各上位8人が、これまでの獲得ポイント内訳とともにリストされている。

パリ五輪日本代表選考ポイント獲得状況

現在、日本卓球協会が行っている選考方法は、主に国内で行われる複数のトーナメント戦での順位に応じたポイントをつけ、その合計でシングルスに出る2名を決めるというこれまでに例のないものとなっている。昨年3月の第1回選考会から来年1月の全日本まで、全部で13大会が対象となっており、今回の全日本で5回が終わった形だ。今年5月に予定されている第4回選考会からは、これまでと比べて配点が2倍になり、いよいよ競争の激化が予想される。

筆者は選考会による選手選考には一貫して反対してきた。複雑な対人競技で相性の要素が大きく、好不調の波の大きい卓球では、単純な選考会で選手を決めるのは必ずしもベストの結果にならない。2020東京五輪のように世界ランキングで決めるか、それに信憑性がないなら強化本部が国際大会での対戦成績を吟味して戦略的に決めるべきである。それでも甲乙つけがたい選手がいれば(数人以内だろう)、その選手間で試合をさせることはあるだろうが、基本的には強化本部が責任をもって決めて、強化にこそ時間を費やすべきである。すなわち、中国と同じやり方である。

諸般の事情でどうしても選考会で決めたいのなら、組み合わせに左右されるトーナメント戦ではなく、総当たり戦にするべきである。総当たり戦でも試合順や調子の波によって、国内で最強の選手すら確実に選ばれる保証はないが、トーナメント戦よりははるかにマシであることは誰が考えてもわかるだろう。

ところがなぜか日本卓球協会は、トーナメント戦を繰り返して選考しようとしているのである。その方が興行になるし、トーナメント戦でも何回もやれば組み合わせの片寄りがなくなるという目論見であろう。興行の重要性はもちろん否定しない。メディアへの露出も増えて素晴らしいことである。

しかし、肝心の選考の精度に悪影響があっては本末転倒である。果たして現在の選考は公平になっているのだろうか。独自に検証した。

下の表は、女子の選考ポイント上位8人について、これまでの選考対象となった全5回のトーナメント戦のすべての試合結果を対戦相手のレベル別にまとめたものである。ベスト16決定戦までの試合は1試合を除いて8人全員が全勝(相手はすべて9位以下の選手)しており差がないため、ベスト8決定戦以降の試合だけ取り上げている。

筆者作成
筆者作成

この表を見ると、2位から6位までの5人の順位が上位選手との対戦結果とまったく対応しておらず、下位選手との対戦回数にきれいに対応していることがわかる。

例えば2位の木原美悠は、誰よりも多く下位選手と対戦して勝ち数を稼いでおり、上位選手に対する勝ち数は5人の中で最下位となっている。逆に6位の芝田沙季は、上位選手との対戦回数が誰よりも多く、そこでの勝ち数が伊藤美誠と並んでトップにもかかわらず、下位選手との対戦回数が石川と並んで最少であることがわかる。

運よく下位選手と多く当たっているのが木原であり、出る度にすぐに強い選手と当たっているのが芝田なのだ。他の3人はその中間である。

つまり、圧倒的な勝率の早田ひなは別にして、2位から6位までの5人の順位は、単純にトーナメントの組み合わせで決まってしまっているのである。これでは到底公平とは言えず、何を測定しているのかわからない。

木原美悠
木原美悠写真:長田洋平/アフロスポーツ

木原は、全日本で早田との決勝戦で恐ろしい強さを見せた。仮に総当たり戦をやっても早田に次ぐ2位になるかもしれない強さだった。しかし、こんな選考をしていたら、その順位に要らぬ疑問符をつけられてしまう。不運な組み合わせで下位に甘んじている選手はもちろんのこと、こうした状況に置かれている木原も、この不合理な選考方法の犠牲者であろう。

YouTubeなどで公開されている選考会の組み合わせ抽選会の様子を見ると、直前の選考会の順位をもとにシードを決め、なおかつ同じ選手と対戦しないよう工夫されていることがわかる。関係者の誠意と努力は疑い得ない。それでもこのような不公平が起きている。抽選方法に問題があるのではない。トーナメント戦で選考することそのものに根本的な限界があるのだ。

すでに半分近くまで来てしまった選考システムを今から変えることは難しいだろう。それならせめて、今後の選考会は少数選手による総当たり戦に切り替えてはどうか。それが無理なら、結果的に総当たり戦になるようにトーナメント戦の組み合わせをコントロールしてはどうか(ものすごく難しいとは思うが)。

さもなくば、運よく適正な選手が選ばれる幸運を祈るか、「運も実力のうち」と開き直るしかない。それでいいのか。興行を優先した選考システムの代償はあまりにも大きい。

付記

検証したい方のために上の表の詳細版を載せておく。誰と対戦して何点獲得したかまでわかる一覧表である。

筆者作成
筆者作成

卓球コラムニスト

1964年岩手県奥州市生まれ。中学1年から卓球を始め、高校時代に県ベスト8という微妙な戦績を残す。大学時代に卓球ネクラブームの逆風の中「これでもか」というほど卓球に打ち込む。東北大学工学部修士課程修了後、ソニー株式会社にて商品設計に従事するも、徐々に卓球への情熱が余り始め、なぜか卓球本の収集を始める。それがきっかけで2004年より専門誌『卓球王国』でコラムの執筆を開始。2018年からフリーとなり、地域の小中学生の卓球指導をしながら執筆活動に勤しむ。著書『ようこそ卓球地獄へ』『卓球語辞典』他。「ロックカフェ新宿ロフト」でのトークライブ配信中。チケットは下記「関連サイト」より。

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