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難治性の皮膚潰瘍に悩む方必見!壊疽性膿皮症の治療法と専門医のアドバイス

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:イメージマート)

壊疽性膿皮症は、強い痛みを伴う皮膚潰瘍を引き起こす稀な好中球性皮膚症です。正確な病因はまだ完全には解明されていませんが、好中球の活性が高まる様々な自己炎症現象が関与していることが明らかになってきました。以前は除外診断とされていましたが、現在では検証されたスコアリングシステムに基づいて診断できるようになりました。しかし、治療は依然として大きな学際的課題となっています。

【壊疽性膿皮症の診断基準とは】

壊疽性膿皮症の診断は、臨床的な特徴と除外診断に基づいて行われます。典型的な症状は、下肢に好発する痛みを伴う皮膚潰瘍です。潰瘍の辺縁は暗紫色で隆起し、周囲に発赤を伴います。また、約30%の患者で病変部の外傷により新たな潰瘍が形成される病的反応がみられます。

近年、壊疽性膿皮症の診断基準として、Su診断基準、Delphi診断基準、PARACELSUS診断基準の3つが提案されています。比較研究ではPARACELSUSスコアが最も感度が高いことが示されていますが、特異度はいずれの基準でも比較的低いのが現状です。

壊疽性膿皮症は、炎症性腸疾患、関節リウマチなどの炎症性疾患や、血液疾患、悪性腫瘍(白血病など)を合併することが知られています。これらの合併症は診断の手がかりになりますが、予後や適切な治療法の選択において重要な役割を果たします。

【ステロイドとシクロスポリンが第一選択薬】

壊疽性膿皮症の全身療法として、ステロイドとシクロスポリンが第一選択薬として使用されています。ステロイドは免疫抑制作用を持ち、0.5-1mg/kg/日の用量で約半数の患者で臨床的改善が得られます。シクロスポリンはカルシニューリン阻害剤としてT細胞でのサイトカイン転写を阻害し、4mg/kg/日の用量で使用されます。

ステロイドとシクロスポリンの選択は、患者の併存症によって決まります。腎不全、悪性腫瘍、高血圧の患者にはステロイドが好ましく、肥満、糖尿病、骨粗鬆症、消化性潰瘍、精神疾患の既往がある患者にはシクロスポリンが好ましいとされています。STOP GAP試験では、ステロイドとシクロスポリンの治療効果に有意差はなく、6ヶ月以内に約半数の患者で治癒が得られましたが、約1/3の患者で再発がみられました。

ステロイドとシクロスポリンに次いで使用されるのは、ミコフェノール酸モフェチル(MMF)とダプソンです。MMFはT細胞とB細胞の増殖を抑制し、ダプソンは抗炎症作用と抗菌作用を持ちます。これらの薬剤は、ステロイドの減量や離脱を目的として併用されることが多いです。

【生物学的製剤の重要性が高まる】

近年、TNF-α阻害薬、IL-1阻害薬、IL-12/23阻害薬、IL-17阻害薬、C5a阻害薬などの生物学的製剤が、炎症性併存疾患を有する患者の第一選択薬や既存治療で効果不十分な難治例に対する選択肢として重要性を増しています。

TNF-α阻害薬は、壊疽性膿皮症に対する使用報告が最も多く、有効率は67-87%とされています。インフリキシマブは無作為化比較試験で有効性が示された唯一の生物学的製剤であり、アダリムマブの第III相試験でも55%の患者で26週までに完全治癒が得られています。

IL-1阻害薬のカナキヌマブは、第II相オープン試験において16週までに5例中3例で完全治癒が得られました。IL-12/23阻害薬のウステキヌマブも、治療抵抗性の症例に有効であったと報告されています。IL-17阻害薬については、壊疽性膿皮症の発症や悪化を引き起こす可能性があり、IL-23阻害作用によるものと考えられています。

また、補体C5a阻害薬のビロベリマブは、壊疽性膿皮症患者を対象とした第IIa相オープン試験が実施され、2400mgを2週間ごとに投与された7例中6例が試験終了時までに治癒しました。

【局所療法と疼痛管理の重要性】

壊疽性膿皮症の治療では、全身療法と並行して局所療法と創傷管理にも焦点を当てる必要があります。局所療法としては、ステロイド外用薬やタクロリムス軟膏などが使用されます。高濃度のステロイド外用薬やタクロリムス軟膏を潰瘍部位や辺縁に使用することで、全身性免疫抑制療法の減量や中止につなげることができます。

また、壊疽性膿皮症は強い痛みを伴うため、疼痛管理も治療の重要な側面となります。疼痛の評価には数値評価スケール(NRS)などが用いられ、NRSで2点以上の疼痛改善は治癒の早期徴候であり、病状の評価や治療反応性の指標となり得ます。

下肢に生じた潰瘍には圧迫療法が推奨されます。圧迫療法は浮腫を軽減することで抗炎症作用をサポートします。20mmHg程度の低い静止圧が適しており、患者の忍容性も良好です。

最後に、壊疽性膿皮症が疑われる場合は、皮膚科専門医への早期の相談が重要です。壊疽性膿皮症は診断が難しい疾患ですが、新しい診断基準の提案により診断精度の向上が期待されています。また、様々な全身療法や局所療法の選択肢が利用可能となり、多くの患者さんの助けとなることが期待されます。皮膚科専門医として、エビデンスに基づいた適切な治療法の選択と、患者さん一人一人に合わせたきめ細やかなケアを心がけていきたいと思います。

参考文献:

1. Maronese CA, Pimentel MA, Li MM, Genovese G, Ortega-Loayza AG, Marzano AV. Pyoderma gangrenosum: an updated literature review on established and emerging pharmacological treatments. Am J Clin Dermatol. 2022;23(5):615-34.

2. Maverakis E, Marzano AV, Le ST, Callen JP, Brüggen MC, Guenova E, Dissemond J, Shinkai K, Langan SM. Pyoderma gangrenosum. Nat Rev Dis Primers. 2020;6(1):81.

3. Drugs. 2023 Sep;83(14):1255-1267. doi: 10.1007/s40265-023-01931-3.

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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