“正義のヒロイン”似合わぬ『ワンダーウーマン』主演女優のコワモテ素顔、日本の映画ライター達の平和ボケ
各国で大ヒットのアメコミ原作のハリウッド映画『ワンダーウーマン』が今月25日に日本でも公開されたことに絡み、国内メディアも一斉にこの映画を紹介している。その多くが、同映画の主演女優ガル・ガドットについて、「兵役経験もあるスーパー美女」「兵役の経験がワンダーウーマンへの道開く」etcと、彼女のキャリアについて、あまりに無邪気、或いは無神経とも言えるような報じ方をしている。だが、ガドットの経歴やそれにまつわる発言は、中東の国々では『ワンダーウーマン』の上映禁止やボイコット運動も招いているセンシティブな問題なのである。
〇ガザ攻撃を正当化し、イスラエル右派から熱狂的賞賛される
今年6月17日、フランスの国際ニュース専門チャンネル『フランス24』は、中東の国々で映画『ワンダーウーマン』がレバノンでの上映禁止になり、アルジェリアやヨルダン、チュニジアでも上映の規模縮小や映画祭参加が見送られるなどの動きがあることを報じた。これらの国々で『ワンダーウーマン』が反発を招いている背景には、主演女優のガル・ガドットが、イスラエル人であり、パレスチナ占領や数々の戦争犯罪をくり返してきたイスラエル軍でブートキャンプ(新兵訓練所)のトレーナーとして2年間従事したことが、その理由に挙げられる。イスラエルの若者達にとって兵役は国民としての義務であり、拒否することは容易なことではないため、このことだけなら仕方ないとも言えるが、問題はそれだけではない。ガドットが中東の人々を怒らせた最大の理由は、2014年の夏、イスラエルがパレスチナ自治区ガザに大規模な軍事侵攻を行った際の、ガドットがフェイスブックに投稿した内容だ。
ガドットは「女性や子どもの陰に臆病者のように隠れ、恐ろしい行為を行っているハマス*から、私達の国を守るために命をかけている全ての少年、少女に、私の愛と祈りを送ります」と書き、#weareright(私達は正しい)、#loveidf(イスラエル軍を愛します)等のハッシュタグをつけていた。この投稿にはイスラエル軍を支持する人々などから、実に20万件もの「いいね!」がクリックされ、約1万9000件のコメントも、その多くがイスラエル軍を支持するものだった。ガドットはイスラエルの戦争を支持するオピニオンリーダーの一人となったのである。現在でもガル・ガドットの画像を検索すると、兵役時代の写真と共に「彼女はテロリストと戦った」等、賞賛するコメントが書き込まれている。
*ハマスは、パレスチナの政党であり軍事組織でもある勢力。
〇ガドットが支持したガザ攻撃の実態
ガドットの投稿がパレスチナやその他の中東、イスラム圏の国々の人々から反発を買うのは、当然だと言える。イスラエル軍の攻撃によって、ガザでは2251人以上が死亡。国連によれば非戦闘員の市民の犠牲者は1,462人、うち子どもが551人、女性が299人だった。負傷者は、1万1000人におよび、うち子どもの負傷者は3,374人、うち後遺症を抱えることになった子ども達はおよそ900人にのぼった。この攻撃の最中、避難を余儀なくされた人々の数は約50万人、攻撃から3年経つ今も、周囲から封鎖されたガザでは、6万5千人以上の人々が半壊した家などで避難生活を続けている。
他方、ハマスなどパレスチナ側の武装勢力は封鎖の中で十分な武器もなく、せいぜい、粗末なロケット弾をイスラエル側に撃つ程度。イスラエル側も73人が死亡したが、市民の犠牲者は6人。他は皆イスラエル軍兵士だった。ハマスが無差別にロケット弾を撃ち、市民にも被害を出したことには批判されるべきであるし、実際、国連や人権団体も批判しているが、これらの組織・団体がより強く批難しているのは、イスラエル軍の非人道性なのである。
ガドットは、「ハマスが女性や子どもの陰に隠れている」と書いたが、これは攻撃で市民に被害者を出したことについての、典型的なイスラエル軍の自己正当化の方便だ。筆者は2014年の攻撃の最中、現地で取材を行っており、イスラエル軍が救急車を攻撃したり、一時停戦中に家の外に出てきた子ども達に対して、ドローン兵器による対人ミサイル攻撃を行ったり、非戦闘員の一般市民が避難する国連管理の学校へ爆撃を行ったりしていたことを確認している。
ガザ北部ベイトハヌーンの国連の学校に避難中に攻撃を受け、辛くも生き残ったサマラ・カファルナさんは、筆者の取材に対し、
「私たちは身の安全のため、国連の学校に集っていました。ところが、そこイスラエル軍の次々にミサイルが撃ち込まれたのです。大勢が死んだり、怪我をしたり人々があちらこちらに倒れていて…子ども達が泣き叫び、ちぎれた手足が散乱していて…正に地獄の様な光景でした」
と語る(関連記事)。
ガドットの主張はこうした事実を無視している。2014年のガザ攻撃の苛烈さを現場で見ている筆者としては、ガドットが「正義のヒロイン」を演じることはタチの悪いブラックジョークのように思えるのだ。
〇『ワンダーウーマン』はフェミニズム映画?米シンクタンク女性研究員が批判
何とも皮肉なのは、『ワンダーウーマン』が強いヒロインが活躍する映画であり、この映画の監督が女性であり、興行的にも大成功したことから、本作をフェミニズム映画だと評する論者達も少なからずいることだ。日本の映画ライター達の記事にもそうした傾向が散見できる。こうした風潮に痛烈な批判をしているのが、米国のケネディ政権の元スタッフらが設立したシンクタンク「インステュート・フォー・ポリシースタディ」の有力研究員である、ラーザン・アルカーニ氏だ。米外交専門誌『フォーリンポリシー』に寄稿した記事のなかで、彼女は強く違和感を訴えている。
アルカーニ氏の指摘は、イスラエル軍での兵役というものが、何を意味するのか理解できない、平和ボケした日本のメディア関係者にも当てはまるのであろう。
(了)