映画『ターコイズの空の下で』がNYで上映 出演の柳楽優弥が渡米しファンの前に登場
ニューヨークでは、北米最大規模の日本新作映画祭「JAPAN CUTS~ジャパン・カッツ~」が、現地時間の8月6日まで開催中だ。
7月26日から始まったこのイベントでは、『THE FIRST SLAM DUNK』『トーキョー・メロディー』『レジェンド&バタフライ』『朝がくるとむなしくなる』など29作品が上映され、ニューヨーカーが日本の作品に触れ合う機会になっている。
センターピースとして今月4、5日の2日間にわたり上映されたのが、『ターコイズの空の下で』(2021年)。
この作品で主役を演じた柳楽優弥(やぎらゆうや)さんと監督のKENTAROさんが4日、上映会の前に、記者団の質問に答えた。
同作で描かれているのは、舗装されていない草原をガタガタと走るおんぼろ車に乗ってモンゴル人のアムラと共にゆく、自分のアイデンティティを探す旅 ── 。近代化され何でも便利な日本とまったく異なる、モンゴルの壮大な原風景が印象的だ。
モンゴルを舞台に選んだ理由について、KENTAROさんは「10年前に誘われ、行く機会があった。夏でもドライな気候で暑過ぎないし、こんな天国みたいな美しいところがあるんだと知った」。それ以来いつか映像に収めたいと思い、それが映画製作に至る最初のきっかけとなった。
映画全体でセリフが少な目になっているのは、「言語が違っても心というのは通じ合う」ことの表れからだという。
さらにモンゴルが教えてくれたことを問われたKENTAROさんは、このように言った。「いっぱいあるけど、一番は『外はあまり関係ない。中身が大事』だということ」。
「例えばモンゴル人に香水をプレゼントする際、見た目への美意識が高い日本では、ブランド名の入った箱、包装紙、紙袋と何重ものこだわりで香水を包む。一方モンゴルは梱包はどうでも良くて、大事なのは中に入っている香水だけ」。俳優業もしているKENTAROさんは言う。「役者も職人。(その教えを)忘れないようにしなければ」。
KENTAROさんが柳楽さんに初めて会った時の印象については、「すごくピュアな人だと感じた」と言う。「でも(頭の中で演技をするのではなく)アニマル(野生)的な部分も持っているので、それを映画で出したいと思った」。それで「とにかく『モンゴルに来て!』」と出演を誘ったという。
日本、モンゴル、フランスの合作で撮影現場には日本人、モンゴル人、フランス人、オーストラリア人、チリ人とさまざまな国籍のスタッフがおり、共に作り上げた。「演技にどう活かされたかはわからないが、そういう人たちと出会えているというのが自分自身のロードムービーの中にも入っていくような感覚で、自分の人生の中でとても豊かな瞬間だなという感覚があった」と柳楽さんは振り返る。
この撮影後、短期でニューヨークに語学留学をしに来たという。今回の映画祭では、日本映画界への卓越した貢献を讃える「カット・アバブ(CUT ABOVE)賞」を受賞した柳楽さん。「ニューヨークは刺激的。好きな街に戻って来れて、賞もいただいて光栄です」。
将来について、もっと国際的な舞台で活躍したい気持ちはあるのかと問われた彼は、このように答えた。
「ネットフリックスとかディズニープラスなどでいろんな国の方を見られるようになってきて、自分もそういう場に行きたいっていう好奇心はあるし、またいろんな映画祭に行かせてもらったりもしている。だけど、行くのであればちゃんといいねって感じてもらえる俳優になりたい。日本の俳優っていうブレない軸をしっかり持って、その上で世界にチャレンジできたらなと思います」
その夜の上映会は地元の人がたくさん来場し、260人用の劇場は満員となった。上映後、壇上に現れた2人はQ&Aにも応じた。
来場者から「自分の知っているいわゆる日本映画という印象を受けなかった。この映画は日本人向けに作った外国映画なのか?」「テーマ音楽はラブソングのムードたっぷりだが意図的だったの?」「複数の言語が絡んでできた作品のシナリオがどのようにまとめられたのか知りたい」など、深い質問が次々に寄せられ、作品に真剣に向き合った観客の熱意が窺えたのだった。
上映後は、軽食付きレセプションにも姿を見せた2人。写真撮影に応じるなど、地元ファンと交流を図った。
(Text and some photos by Kasumi Abe)無断転載禁止