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線路に飛び出すエゾシカ JR北海道の対策にみる、横断歩道で「超減速」の鉄則

柳原三佳ノンフィクション作家・ジャーナリスト
北海道、JR根室本線の線路上を縦横無尽に駆け巡るエゾシカたち(筆者撮影)

■横断歩道で止まらないドライバー必見!

 まずは以下の動画(30秒)をご覧ください。

 これは、2023年2月、釧路から根室へ向かう「JR根室本線」(通称・花咲線)の車窓から撮ったワンシーンです。

 実はこの列車、警笛を鳴らしながら何度も急停車し、ひんぱんに超低速のノロノロ運転をするので、「いったい何が起こっているんだろう……?」と不思議に思って車両の一番前へ行ってみたところ、思わずビデオを回した次第です。

 いかがでしょうか? たくさんのエゾシカが、我が物顔で線路の上を闊歩し、警笛を鳴らされても何食わぬ顔。その上、いきなり飛び出したり、横切ったり、を繰り返すのです。

 地元の方にとってはもはや日常的な光景かもしれませんが、関東に住む私にとっては驚きの連続でした。

 しかし、運転士さんはエゾシカたちが何度線路内に立ち入っても、そこから立ち去るまで根気よく待ちます。一群がやっと走り去ったように見えても、まだ線路の脇に残っているシカもいます。そんな1頭をも見逃さず、完璧な予測運転をしているのです。

最初は2頭だったが……(筆者撮影)
最初は2頭だったが……(筆者撮影)

目の前の線路には次々とエゾシカが飛び出して(筆者撮影)
目の前の線路には次々とエゾシカが飛び出して(筆者撮影)

■列車の遅延より「減速」で衝突を避ける

 線路に出没するエゾシカは、毎年冬が訪れるころから増え始めるとのことで、JR北海道釧路支社によると、2022年10月のエゾシカと列車の衝突事故は156件発生。前年の2.5倍に増えたそうです。

 ちなみに、シカが線路に近づくのには理由があり、鉄分を補給するためだと言われています。つまり、レールの上には車両との摩擦による鉄粉があるため、それを舐めに来ているのです。

『毎日新聞』(2022.12.06)には、エゾシカと列車の衝突事故対策についてこう記されています。

多発しているエゾシカとの衝突事故を回避するため、JR北海道釧路支社は5日から花咲線と釧網線の一部の列車で減速運転を始めた。主に夕方から夜に運行する計7本で、来年3月末まで最大16分の遅れが出る。こうした減速運転は2013年以来9年ぶり。

 つまり、衝突事故を回避するために最も重要なのは、たとえ列車が遅延しても、「減速運転をする」ということに尽きるのです。

減速運転と停止を繰り返しながら、無事、根室駅に到着(筆者撮影)
減速運転と停止を繰り返しながら、無事、根室駅に到着(筆者撮影)

■多発する横断歩道上での重大事故

 ではなぜ、私がこの動画をここで紹介しようと思ったのか……、それは、最近の報道を見ていて、あまりにも横断歩道上での交通事故が多いからです。

 以下、最近起こった横断歩道事故のニュースを、ごく一部ではありますか挙げてみます。

●3月15日

『多賀城市の横断歩道で女性(83)が車にはねられ意識不明の重体 車運転の女(59)を逮捕 宮城』(ミヤギテレビ)

 左折車が横断歩道を横断中の高齢女性をはねた事故です。横断歩道の手前で一時停止して確認すれば避けられたはずです。

●3月15日

『横断歩道で歩行者を車ではねる 運転の79歳の市議会議員を現行犯逮捕 山梨』

(テレビ山梨)

 こちらも横断歩道での事故です。ドライバーはこの交差点でいったい何を見ていたのか……。

●3月14日

金沢市内で横断中の小学生はねられる 信号機は工事中で未稼働 ライトバン運転の男を現行犯逮捕』(テレビ金沢)

 信号機が工事中で点灯していなかったとはいえ、小学生は横断歩道を歩いていました。それなのになぜ、その姿に気づかず衝突したのでしょうか。

●3月3日

『ひき逃げ容疑で73歳の男逮捕 事故の10分後、車で現場に戻る 西宮』(神戸新聞NEXT)

 横断歩道付近を歩いていた成人男性をはねて大ケガを負わせたドライバーは、そのまま逃走。10分後に戻ったとはいえ、事故直後に救護していないので、明らかなひき逃げです。

●3月1日

『20歳の専門学校生が横断歩道で乗用車にはねられ死亡 運転の39歳男を現行犯逮捕 <福島市>』(FNNプライムオンライン)

 横断歩道を歩いていた被害者の女性は意識不明で病院に運ばれましたが、翌日、死亡が確認されたそうです。

ドライバーに停止を呼び掛ける旗
ドライバーに停止を呼び掛ける旗写真:イメージマート

■日本の横断歩道を「キラーゼブラ」と言った外国人

 警察庁のサイトには、こう書かれています。

横断歩道は、歩行者優先であり、運転者には横断歩道手前での減速義務や停止義務があります。

 横断歩道は歩行者にとっての「安全地帯」であるはずです。シカが線路に飛び出してくるのとは訳が違います。

 それなのになぜ、これほどまでに横断中の歩行者がはねられる事故が多発しているのでしょうか。

 以下の記事は、日本の深刻な状況を見事に指摘しているといえるでしょう。

<外国人が日本の横断歩道を「キラーゼブラ」と揶揄する理由は? - ライブドアニュース (livedoor.com)>

 上記によれば、ロンドンから日本を訪れた女性が、信号のない横断歩道で車が止まらないことに驚き、横断歩道をシマウマにたとえて「キラーゼブラ(=「人を殺す横断歩道」)」と呼んだというのです。

 さらには、「運転マナーが向上されないのであれば、『日本は横断歩道で停車をしません』ということを周知してほしい」とも。

 横断歩道の手前には、ひし形の標識がペイントされています。それを確認したら、緊張感をもって十分に減速をし、横断中の歩行者や横断しようとしている歩行者がいないかどうか、しっかり確認してください。

 そうすれば横断歩道上での悲惨な事故は、確実に防げるはずです。

青信号の横断歩道を渡る子供たち
青信号の横断歩道を渡る子供たち写真:アフロ

ノンフィクション作家・ジャーナリスト

交通事故、冤罪、死因究明制度等をテーマに執筆。著書に「真冬の虹 コロナ禍の交通事故被害者たち」「開成をつくった男、佐野鼎」「コレラを防いだ男 関寛斉」「私は虐待していない 検証 揺さぶられっ子症候群」「コレラを防いだ男 関寛斎」「自動車保険の落とし穴」「柴犬マイちゃんへの手紙」「泥だらけのカルテ」「焼かれる前に語れ」「家族のもとへ、あなたを帰す」「交通事故被害者は二度泣かされる」「遺品 あなたを失った代わりに」「死因究明」「裁判官を信じるな」など多数。「巻子の言霊~愛と命を紡いだある夫婦の物語」はNHKで、「示談交渉人裏ファイル」はTBSでドラマ化。書道師範。趣味が高じて自宅に古民家を移築。

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