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故郷を離れない移民たち(4)

高橋和夫国際政治学者/先端技術安全保障研究所会長

グローバル化時代の移民像

実は、こうした同化しない移民の増加は、ラティーノに限らない。ラティーノのようにスペイン語話者が多数存在しなくても、また母国がアメリカに近くなくても、移民前の母国語を保持し、故郷との関係を保つ移民が増えてきた。その背景にあるのは、グローバル化の進展である。このグローバル化を、ここでは、人と物と情報が国境を越える現象であると定義しておこう。

平たく言えば航空機の運賃が下がり、簡単に里帰りができるようになった。これまでなら、何年に一度しか故郷に戻れなかった移民たちが、頻繁に故郷と往来が可能になった。またインターネットの普及により、移民先においても母国語の世界にどっぷりと浸かったままの生活も可能になった。ボストン・マラソンにおいてテロを行ったチェチェンからの移民のツァルナエフ兄弟の背景は、まだ十分には明らかになっていない。しかし、死亡した兄のタメルランは、コーカサスに一時期戻っていたことが知られている。またアメリカ社会には溶け込んでいなかった。そしてイスラム過激派に傾倒していたことがネットの記録から確認できる。体はアメリカにありながら、心は故郷を離れていなかったわけだ。グローバル化時代の新しい移民像である。

-了-

国際政治学者/先端技術安全保障研究所会長

国際情勢をわかる言葉で、まず自分自身に語りたいと思っています。北九州で生まれ育ち、大阪とニューヨークで勉強し、クウェートでの滞在経験もあります。アメリカで中東を研究した日本人という三つの視点を大切にしています。映像メディアに深い不信感を抱きながらも、放送大学ではテレビで講義をするという矛盾した存在です。及ばないながらも努力を続け、その過程を読者の皆様と共有できればと希求しています。

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イラン革命、イラン・イラク戦争、湾岸危機・戦争、アメリカ同時多発テロ、アフガン戦争、パレスチナ問題、イラク戦争、アラブの春と続発する事件に関して30年以上にわたり発言を続けてきました。またオフレコでメディア、官庁、政党、企業などに対し、そして名前を公表できない人々を含め日本の指導層のために助言とブリーフィングを行ってきました。高橋和夫の情報への感性に共鳴する方々のために分析を提供します。

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