皮膚がん治療の新時代:術前免疫療法が切り開く可能性とは
【皮膚がん治療における術前療法の新たな展開】
皮膚がんは世界中で年間150万件以上の新規症例が報告されている、決して珍しくない病気です。
皮膚がんには主に3つのタイプがあります。基底細胞がん、有棘細胞がん、そしてメラノーマです。これまでの標準的な治療法は、がんを外科的に切除することでした。しかし、最近の研究で、手術の前に免疫療法を行う「術前療法」が注目を集めています。
術前療法とは、手術の前に薬物療法を行うことで、がんを小さくしたり、転移のリスクを減らしたりする治療法です。特に、免疫チェックポイント阻害薬という新しいタイプの薬を使った免疫療法が、皮膚がん治療に革命を起こしつつあります。
【メラノーマに対する術前免疫療法の驚くべき効果】
メラノーマは皮膚がんの中でも特に悪性度が高く、転移しやすい特徴があります。しかし、術前に免疫療法を行うことで、驚くべき効果が得られることがわかってきました。
例えば、イピリムマブとニボルマブという2種類の免疫チェックポイント阻害薬を組み合わせて使用すると、約6割の患者さんで病理学的完全奏効(がん細胞が完全に消失すること)が得られたというデータがあります。
また、ペムブロリズマブという薬を使った研究では、術前に3回投与するだけで、53%の患者さんに病理学的完全奏効または主要な病理学的奏効(がん細胞がほとんど消失すること)が見られました。
これらの結果は、従来の治療法と比べて格段に優れています。術前療法を受けた患者さんは、手術後の再発リスクが大幅に低下し、長期的な生存率の向上が期待できるのです。
【有棘細胞がんと基底細胞がんへの応用】
メラノーマ以外の皮膚がんでも、術前免疫療法の効果が確認されつつあります。
有棘細胞がんでは、セミプリマブという薬を使った研究で、約半数の患者さんに病理学的完全奏効が見られました。基底細胞がんでも、ビスモデギブという薬を使った術前療法で、71%の患者さんに効果が確認されています。
これらの結果は、今後の皮膚がん治療に大きな希望をもたらすものです。特に、手術が難しい部位にがんがある場合や、手術による機能障害や外見の変化が懸念される場合には、術前療法が非常に有効な選択肢となる可能性があります。
術前免疫療法は、皮膚がん治療の新たな標準治療となる可能性を秘めています。特に、高リスクの患者さんや手術が困難な症例において、その効果は顕著です。今後は、より多くの患者さんがこの治療法の恩恵を受けられるよう、さらなる研究と臨床応用が進むことを期待しています。
ただし、術前療法にも課題はあります。免疫関連の副作用や、治療中にがんが進行するリスクなどがあるため、慎重な患者選択と適切な管理が必要です。また、最適な薬の種類や投与スケジュール、治療期間などについても、さらなる研究が必要です。
日本では、まだ術前免疫療法が標準治療として確立されていませんが、海外の研究結果を踏まえて、国内でも臨床試験が進められています。近い将来、日本の皮膚がん患者さんにもこの新しい治療法が届くことが期待されます。
参考文献:
1. Junior, D.S.d.R.L., et al. (2024). Emerging Indications for Neoadjuvant Systemic Therapies in Cutaneous Malignancies. Med. Sci., 12, 35.