スペイン・カタルーニャ独立問題 ー独立反対派数十万人がバルセロナでデモ
スペイン北東部のカタルーニャ自治州の独立をめぐり、独立宣言の基となった住民投票を違法とみなす中央政府は28日朝、州議会を解散し、自治政府首相らを解任した。また、12月21日を州議会選挙の日とした。
同日午後、解任されたプチデモン元自治政府首相は州民に向かってテレビ演説をし、「民主的な抵抗」を続けることを訴えた。
翌29日、独立に反対する市民ら数十万人(100万人に達したとも言われている)がバルセロナの目抜き通りに結集し、「スペイン万歳」と叫びながら練り歩いた。
独立に向けての住民投票が行われたのは10月1日だったが、投票自体を違法とする中央政府側とカタルーニャ自治政府との間の対立が、連日報道されてきた。最終的に両者は主張を曲げず、とうとう、ラホイ首相が同州を政府の直接統治下に置く措置を行うことになった。
投票結果は有権者の43%が票を投じ、その90%が独立を支持。投票行為を止めようとする政府側の手荒な行動が世界中に報道された。
カタルーニャの独立支持者の声には大きなスポットライトが当てられてきたが、その後ろには「物言わぬ過半数」の人たちの思いがあった。
29日の反独立派によるデモは、あまりその姿が見えてこなかった人たちが通りに出て自分の意見を表明する機会となった。
デモを追う
昼の12時から始まるデモを前に、筆者は11時半頃にホテルを出た。すでにスペイン国旗を体にかけた人々がデモ開催場所に向かって歩いていた。
デモを企画した「カタルーニャ市民連盟」の広報担当者によると、10月8日に独立反対者によるデモがあって、この時には約100万人が参加したという。今回も100万人規模が参加したとみられている。
テレビ番組の撮影用の大型車の上でカメラマンがデモの様子を撮影していた。その周りに数人の市民が集まって、何かを叫んでいる。
市民連盟の人に何事かと聞いてみる。カメラマンは地元テレビ局から派遣されていた。「嘘つきメディア、偏向報道はやめろ!」と叫んでいるのだという。指を突き出すという最高度の侮辱を示す男性たちもいた。
地元テレビ局は独立支持者の声を常に大きく報道し、反対派の声はほとんど報道されなかったという。確かに、筆者が住む英国からメディア報道を見ていると、カタルーニャの市民全員が独立を支持している印象があった。
数人の若者たちが集まっていたので、一人に声をかけてみた。学生というアリッサさんは「一部の独立支持者の声によって、独立宣言がなされてしまった。これは民主主義じゃないと思う」。
家族連れで来ている人も多い。退職者のホルヘスさんは「もう会社には勤めていないが、企業がどんどんバルセロナを離れている。将来が心配だ」という。
デモ参加者が「スペイン万歳!」と叫ぶたびに、周囲にいる数人が「その通り!」と叫び返す。歌を歌う人や、顔に赤と黄色のペイントを仲間同士で塗り合う人など、政治デモというよりも、一種のお祭りのような雰囲気があった。窓から旗を見せている人もいた。
デモの集合場所に近づけば近づくほど、参加者がどんどん増えてゆく。足の踏み場もないほどになりそうだった。
「プチデモンを逮捕しろ」という声もよく聞いた。
「スペイン万歳!」の大きな叫び声を混雑した中で聞いていると、いささか息が詰まりそうな気がした。「スペイン万歳」というような、愛国心溢れる文句でデモが行われることは、筆者が住む英国ではないだろうとも思った。
場所を変えて、カタルーニャ議会の建物を見に行ってみた。
最寄駅を降りて、公園に向かって歩き出す。公園の先に議会があるからだ。公園の右手には動物園もあった。
公園内の緑の芝生には小さな子供を連れた家族がたくさんいて、寝転がったり、子供達同士で遊んだりする様子が見えた。
カタルーニャ議会の建物では通常見学ツアーがあるのだが、この日はしまっていた。真向かいには何本ものポプラの木があった。
同じバルセロナの中で、政治デモの熱気と公園ののどかさや議会周辺の静けさには天と地の違いがあった。
自治政府元首相は亡命も?
カタルーニャが政府の直接管理下に入り、自治政府の閣僚なども解任されたので、交通機関などのサービスになんらかの支障が出ているかなと思ったのだが、杞憂だった。カタルーニャは これまでと変わりなく、機能しているようだった。
「直接管理」、「12月21日に州議会選挙」が次第に既成事実化する中、30日の月曜日、自治政府の官僚は不服従などをするのかどうか。また、プチデモン氏が呼びかけたように、独立派の市民らは「民主的な抵抗」を続けるだろうか。
週明けにプチデモン氏が警察に逮捕されるとも言われているが、ベルギーのある政府高官は「亡命するならば、受け入れることも可能」と述べている。