世帯所得の中央値や世帯人員数の移り変わりをさぐる(2024年公開版)
所得はバブル以降さえない値に見えるが…
世帯単位の平均所得や所得中央値の移り変わりに関して、さまざまな意見がある。そこで国民生活基礎調査の結果(※)をもとに、世帯単位の所得中央値の動向をはじめ、いくつかの視点で世帯あたりの所得(※※)動向を確認する。なお平均値と中央値の概念についてはhttps://news.yahoo.co.jp/expert/articles/bf3f414c23323ca26d53e5254f0bb8503f127926 【平均値と中央値のちがいをさぐる】を参照のこと。
次に示すのは国民生活基礎調査の結果をベースにした、世帯所得の平均値と中央値。平均値は主要世帯種類別の値も示されているので、その値を併記する。なお今件における世帯は総世帯を意味する。つまり、単身世帯・二人以上世帯合わせたもので、専業主婦世帯も共働き世帯も、年金生活をしている世帯も、高齢者世帯(65歳以上のみ、またはそれに18歳未満の未婚の人がいる世帯)も全部含めた結果。
最高値はバブル時代末期からその直後の1993年と1995年の550万円。それ以降は前世紀末までは横ばいだが、それ以降はほぼ同じような傾斜で落ちていく。先の金融危機ぼっ発となる2007年ぐらいでようやく下落に歯止めがかかり、横ばいに移行した動きとなる。さらに直近2年間は下落の動き。
このグラフの動きの限りでは、すべての世帯を合わせると所得中央値が落ちている。世帯単位ではバブル時代よりは豊かでない、景況感の実態感が無いとの印象も生じてしまう。
ここで思い出してほしいのは、このグラフの対象となる期間において、他に社会構造の変化があったか否か。同じ「国民生活基礎調査」では多様な調査結果が公開されているが、その公開値の限りでも、日本は急速な高齢化の進行とともに核家族化、さらには単身世帯の増加が進んでいるのが確認できる。
三世代世帯ならば有業者は祖父・祖母、そしてその子供に当たる父母が該当しうる。当然有業者が多い方が世帯単位の所得は大きい。核家族世帯は三世代世帯よりも所得が少なくなるのは必然で、さらに所得が少ない(就業者は一人しかありえない)単身世帯が増えれば、全体から算出される平均値、中央値が減少するのは当然の話。
またこの10年ばかり、特に団塊世代が定年退職を迎えた以降は、それらの人達が非正規雇用で再就職するケースも増えている。その場合もまた、有業者の数に変わりはないが、所得が減ることになる。周辺環境が大きな変化を見せている以上、所得平均値でも所得中央値でも、上げ下げがそのままお財布事情の上下を意味するとは限らない次第。
実際、世帯構造の変化に伴い、世帯あたりの平均人員だけでなく、平均有業人員も減っている。
共働き世帯の増加に伴い、平均人員数より平均有業人員数の減少ぶりは穏やかだが、兼業主婦の稼ぎはおおよそ世帯主である夫よりも少ないため、世帯単位の所得の底上げには貢献するが、有業人員あたりの所得にはむしろマイナスとなる。
所得中央値を人員で割ってどこまで意味があるのか怪しいが、指標の一つとして、世帯所得の中央値を世帯人員と有業人員で割った結果が次のグラフ。
バブル期をピークとしていることに変わりはないが、人員あたりでは今世紀に入ってからはほぼ横ばい。有業人員あたりでは多少落ちてはいるが世帯所得中央値ほどではない。この下げ方は上記で説明の通り「兼業主婦や定年退職後の再雇用者による押し下げ」によるところが大きい。むしろそれらの要素がある上で、この動向でとどまっているのは、世帯主の健闘がうかがいしれる。
平均所得と平均可処分所得を世帯人員で割ると
平均世帯人員が抽出できたので、よい機会でもあることから、世帯平均所得も用いて、世帯人員1人あたりの推移を見ていくことにする。ちなみに可処分所得とは、所得から所得税、住民税、社会保険料および固定資産税を差し引いたもの。自由に使えるお金。
先の平均世帯人員あたりの世帯所得中央値と似たような動きをしている。一つ目のピークはバブル後の1996年。以後、今世紀初頭にかけて下げた後は横ばい。2013年あたりから上昇に転じ、現時点では2020年が世帯人員1人あたり平均所得金額と平均可処分所得金額双方で最高値をつけている。単純な世帯所得中央値の推移とは随分と異なる印象ではある。
平均値は極端な値で全体像がぶれる可能性はある。他方中央値はどのようなデータでも全体ではなく集団個体数の真ん中の値でしかないので、全体の把握や変化の確認、比較には適していない。
物事を表す指標はその指標を算出する要素そのものや、その要素に影響を及ぼす環境に変化が生じると、比較するのは困難なものとなるどころか意味をなさなくなる。戦前の10円と今の10円を比べるとか、1米ドル80円時代の日本のGDPと現在の日本のGDPを、それぞれ当時の米ドルベースでそのまま比較するようなもの。
数字が表していること自体は事実かもしれないが、そこから導き出されているものまでも事実とは限らない。数字の背景にあるもの、連動するさまざまな環境の変化を推し量り、正しい実情を把握してほしいものである。
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※国民生活基礎調査
全国の世帯および世帯主を対象とし、各調査票の内容に適した対象を層化無作為抽出方式で選び、2023年6月1日に世帯票、同年7月13日に所得票を配ることで行われたもので、本人記述により後日調査員によって回収、または政府統計共同利用システムにより回答され、集計されている(一部は密封回収)。回収の上集計が可能なデータは世帯票が4万471世帯分、所得票が4674世帯分。今調査は3年おきに大規模調査、それ以外は簡易調査が行われている。今回年(2023年分)は簡易調査に該当する年であり、世帯票と貯蓄票のみの調査が実施されている。
※※所得
一般的には「所得」と「収入」は同義語として用いられる場合もあるが、「所得」は税法上は「収入」から経費や控除を引いて、課税額を判断するための算定額を意味する。国民生活基礎調査では用語の説明中で今回取り扱った「所得」に関して「稼働所得」「公的年金・恩給」「財産所得」「年金以外の社会保障給付金」「仕送り・企業年金・個人年金・その他の所得」と分類し、さらに「稼働所得」は「雇用者所得」「事業所得」「農耕・畜産所得」「家内労働所得」と区分している。
そのうち「雇用者所得」は「世帯員が勤め先から支払いを受けた給料・賃金・賞与の合計金額をいい、税金や社会保険料を含む。なお、給料などの支払いに代えて行われた現物支給(有価証券や食事の支給など)は時価で見積もった額に換算して含めた」と説明されており、税引き前の額面を意味している。サラリーマンの場合は給与明細を見れば分かる通り、あらかじめ控除として税金や社会保険料の額が引かれた上で手取り収入として渡されるため、実質的には今件の「所得」は収入に近しい。また「事業所得」は「世帯員が事業(農耕・畜産事業を除く)によって得た収入から仕入原価や必要経費(税金、社会保険料を除く。以下同じ)を差し引いた金額をいう」とあり、こちらは所得そのままを意味する。
一方、税法上ではサラリーマンなどが受け取る給与に該当する給与所得は、収入金額から給与所得控除額を引いた額が相当。またいわゆる「可処分所得」は実収入から税金、社会保険料などの非消費支出を差し引いた額で、俗にいう手取り(収入)を意味する。
国民生活基礎調査で雇用者所得が実質的に収入に近しい値で算出されているのは、税金や社会保険料は経費ではなく、他の稼働様態ならば所得から改めて支払うことになるため。
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(注)グラフ中の「ppt」とは%ポイントを意味します。
(注)「(大)震災」は特記や詳細表記のない限り、東日本大震災を意味します。
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