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習近平はなぜ日中首脳会談に応じたのか?――中国の建前と本音

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

22日午後7時、日中首脳が会談した。安倍首相の演説には「謝罪」はなかったが、中国メディアにさんざん批判させながら、習近平国家主席は会談に応じた。本当は彼こそ逆に、首脳会談を望んでいたのではないのか? 

◆安倍首相の演説を中国はどう見たか

安倍首相が22日にインドネシアのジャカルタで開催されたバンドン会議で行った演説に関しては、日本の各メディアが報じているので、くり返しを避ける。ここでは中国がどう見ているかに関して、考察してみよう。

本コラムでもすでに書いたように、中国の関心は「侵略」「反省」「謝罪=お詫び」のキーワードが演説に入っているか否かだった。

安倍首相はバンドン会議の平和10原則の中の第二条を例に挙げながら一般的な事象として「侵略」を使い、「反省」に関しては「日本は、先の戦争の深い反省とともに」と言っただけで、やはり「謝罪」の言葉は入っていなかったと、中国メディアは一斉に批判報道。

バンドン会議50周年記念の時は、(靖国神社参拝をやめなかった、あの)小泉首相さえ、きちんと1995年の村山談話を踏襲して「植民地統治と侵略」に対して「痛切な反省と心からのお詫び」と言っているのに、安倍政権は歴史認識に対して後退していると、中国メディアは軒並み批判的だ。

特に「安倍は、謝罪を省いた談話を90ヶ国の前で発表することにより、国際社会の反応を観測して、それに基づいて戦後70年の安倍談話の内容を決めるつもりでいるのだ」と、深く掘り下げている分析も目立つ。

◆それでも日中首脳会談に応じたのは、なぜか?

日中首脳会談の話に入る前に、まず開幕に当たり各国代表が記念撮影をした時の日中首脳の対応を見てみよう。

インドネシアのジョコ大統領と先に並んだ安倍首相の前を、習近平国家主席が通ったとき、安倍首相が手を差し出し、二人は握手した。このとき安倍首相はジョコ大統領の向かって右側に並んでいた。習近平主席は右側から進んできたので、握手する以外になかっただろうが、顔をそらして、(にこやかに習近平主席の顔をのぞきこむ)安倍首相を見ていない。そのあとジョコ大統領の左側に立つと、安倍首相はジョコ大統領と直接言葉を交わした(英語を使ったものと推測される)。すると習近平主席はそれを無視するように不愉快な表情を露わにした。

それでも日中首脳会談に応じたのは、中国が主導するAIIB(アジアインフラ投資銀行)の問題があるからだ。

おまけに昨年の日中首脳会談のときの、あの非礼極まりない表情ではなく、習近平主席の顔には心なしか笑顔さえ浮かんでいる。記念撮影のときは昨年と同じ「あの非礼な」表情に近かったのに、表情まで変えたのだ。

それくらい彼は日中首脳会談を望んでいたのではないのか――?

中国はAIIB創設に当たって、つねに「どの国に対しても開放的だ」と言ってきた。その中国が、安倍演説に「謝罪」の言葉がなかったからと言って、首脳会談を行わないというわけにはいかないにちがいない。

それに中国は実は、国際金融運営に関して経験があるわけではないし、また資金も多ければ多いほどありがたい。

日本はAIIBと全く同じ目的を持つアジア開発銀行の歴代の総裁を担ってきた。ノウハウもあれば、2010年に中国に追い越されたとはいえ、世界3番目の経済大国だ。

日本がアメリカと緊密に連携し合って、アジア開発銀行の方により多く投資し、融資の基準を少し緩めるなどのことをすれば、AIIBと対抗する存在にならないとも限らない。

だから中国としては「どうかアジア開発銀行に注ぐ資金があるのなら、どうかAIIBに加盟して、AIIBに投資してくれ」と思っているのが本音だ。環境保護のための技術だって、日本は際立って高い。国際金融センターになるには環境保護は欠かせない。

21日夜、王毅外相は「日本がどうしても会ってくれと希望している」という趣旨のことを言っている。「会いたかったら正しい歴史認識を持て」と言わんばかりに上から目線だ。

今年は戦後70周年記念。中国は「反ファシズム戦勝70周年記念式典」と「抗日戦争戦勝70周年記念式典」を大々的に開催することに変わりはない。その意味での対日強硬路線が変わることはあり得ないと断言できる。

しかしその一方で、本当は日本のノウハウと資金、そして技術を欲しがっているのではないのか。

中国の中央テレビ局CCTVは長い時間を割いてバンドン会議における習近平国家主席の行動を大々的に報道した。その中で目立ったのは「AIIBと一帯一路」に関する話で、安倍首相にも「AIIBと一帯一路は、世界の多くの国に歓迎されている」と強調し、その流れの中で、日本がアジアの平和と安定に貢献するように言ったとしている。

日本の報道からは出て来ないが、日中首脳会談で「AIIBと一帯一路」に触れたのは確かだろう。

CCTVの報道は、習近平国家主席が安倍首相に「互いに脅威にならないように」と「歴史認識が根幹だ」とクギを刺したという、強い語調の導入で始まったが、最後は「AIIBと一帯一路」で締め括っている。

ここに中国の建前と本音がにじみ出ていると、筆者には見えた。

追記:4月23日早朝、某民放テレビに収録出演したのだが、そのテレビ局は「安倍首相の演説が始まると、憮然とした表情で会場を出ていく習近平主席の姿」をとらえていた。これぞまさに「建前と本音」の動かぬ証拠。記念写真の時の表情からの流れを、つぶさに考察すると、いっそうそれが浮き彫りになってくる(4月23日朝7:40加筆)。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『中国「反日の闇」 浮かび上がる日本の闇』(11月1日出版、ビジネス社)、『嗤(わら)う習近平の白い牙』、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

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