男系男子ニッポンの皆さんへ「19世紀は奴隷制、20世紀は全体主義、21世紀は男女差別との闘いになる」
[ロンドン発]日米欧の主要7カ国(G7)男女平等諮問会議メンバーを務める英女優エマ・ワトソンさん。映画『ハリー・ポッター』シリーズのハーマイオニー・グレンジャー役でスターになったエマさんはG7首脳会議(ビアリッツ・サミット)を前にインスタグラムで10の提言を発表しました。
(1)男女差別的な法制度を撤廃し、前進的な法整備を促進する
(2)フェミニストの市民社会組織に資金援助する
(3)性差に基づく暴力に対する闘いを国家の最優先課題にする
(4)オンライン上のハラスメント、リベンジ・ポルノ、女性器切除(FGM)、児童婚をなくす
(5)少女や女性のための包摂的で格差のない、質の高い教育に投資する
(6)性と生殖に関する健康と権利を守る
(7)有害な性差に基づくステレオタイプと概念に挑む
(8)すべての分野で女性のリーダーシップと参加を促す
(9)男女間の賃金格差解消、十分な児童手当、有給の育児休業を制度化する
(10)日々、世界中で女性と男女平等のために立ち上がる
G7でも男女平等諮問会議は性差別を助長する法令文書を排除するよう求めました。41の国で妻は夫に従うよう法律で求められ、35%の女性が物理的・性的暴力の犠牲者になり、女性の賃金は男性より23%も少なく、中等教育における男女平等を達成している国は45%しかないそうです。
16歳の時、内戦で母国シエラレオネを逃れ、米国や英国でホームレス生活を経験し、ファッションブランド「ジタス・ポータル(Gitas Portal)」を創業、ロンドンのアフリカ系コミュニティーを勇気付けているデザイナー、マリアトゥ・トゥライさんに質問しました。
マリアトゥさんが真っ先に掲げたのは次の言葉です。
「19世紀、道徳的挑戦は奴隷制でした。20世紀は全体主義との闘いでした。今世紀は世界中で男女平等を実現する闘争になると信じています」米ジャーナリスト、ニコラス・クリストフの著書『空の半分、抑圧を世界中の女性のための機会に変える』(筆者仮訳)より
「われわれの道徳的挑戦はなんという大変な困難なのでしょう。文化的に女性を男性に劣ると位置づけ、この神話を支える構造を作り出す精神構造にわれわれは今、挑戦しているのです」とマリアトゥさんは言います。
――マリアトゥさんの経歴について教えていただけますか
「シエラレオネで内戦により家が破壊され、ホームレスになりました。その後、米国に渡りました。ヘアサロンで働きながらお金を稼ぎ、将来に役立つスキルを学びました。3年後に渡英し、働きながらカレッジに通いました」
「26歳の時、英国の公務員になり、34歳で副業としてファッションブランドを立ち上げ、1日も休まず働きました。5年後、独立してロンドンでブティックを開業しました」
――世界中でタフガイぶりを強調する政治指導者が増えています。その象徴であるドナルド・トランプ米大統領に何か言いたいことはありますか
「『オトコの自我』または『プライド政治』が勢力を拡大しています。歴史は、そのような政治が偏狭な利益にしか役に立たないことを教えてくれます。最終的に、それによって膨れ上がった自我と同じぐらいひどい結末を迎えます」
「自我政治の視野は狭く、世界にポジティブな前進をもたらすことに必ず失敗します。敵対的な『われわれ対彼ら』のポピュリストのレトリックは非常に危険です。それは巧みに操縦され、排除し、差別する政策を正当化するために使用されてきました」
「これは主にオトコの既得権を守る問題であり、『タフガイ』と称えるのです。『タフガイ』というフレーズはオトコの独断的なリーダーシップを意味します。この方程式は女性のリーダーシップに余地を残しません。女性は天井を突き破れないという時代遅れのステレオタイプを暗示するのです」
「政治に関するこの種の微妙なミソジニー(女性蔑視)は新しいものではありません。男女差別との闘いは地球そのものと同じぐらい古いのです。一つはっきりしているのは『タフガイ』は男女平等のために闘わないということです」
「政治が本当の責任を果たすには男女平等が必要です。世界は問題に対処するバランスのとれた創造的な思考を必要とし、その結果として進歩的な結果をもたらします。これは『タフガイ』の影響を封じ込める一つの方法でもあります」
「私はトランプ大統領に尋ねたい。あなたの娘や孫娘が大統領に立候補したいと思ったら、公平な競争を保証するために何をしますかと。自分の特権が意味を持たない世界で、性別に関係なく成長できる環境をどのように整えますかと。女性であることがさして意味のない環境を整えますかと」
「そして私は次のように付け加えるでしょう。真のヒーローとは明日を変える権利と公平さのために闘う人たちのことです。恐怖にとらわれた時、われわれは人間性を失います」
――男女平等を確立するために必要なことは何でしょう
「簡単な解決策はなく、一つの答えですべての問題を解決することはできません。私たちは皆、それぞれ固有な文化・宗教・社会経済的規範の影響を受けたさまざまな場所から来ています」
「男性と女性の両方からの一貫したコミットメントが求められています。すなわち権力と影響力を持つ男性は、私たちが住む世界の長期的な持続可能性に対する男女格差の影響を理解し、女性差別解消への挑戦を優先する必要があります」
「女性は自分や他の人が影響を受けた場合、常に声を上げ、それに挑戦しなければなりません。レッテルを貼られたり、困難にぶつかったりするのを恐れないでください。女性の心と未来を載せた船は何度も揺さぶられてきましたが、これからも耐えることができます」
「女性と男性が平等な責任を負い、世界の文化的・経済的・政治的実行可能性とレガシーのために両性が必要であることを認識する日が来るまで私たちは耐えることができます。不平等は、私たちが達成できる最高のものを分断し、奪うだけです。耐えることができた時、初めて自己中心的な分断を克服できるのです」
「この不公平を是正するための変化を実現するのに十分な権力と影響力に女性がアクセスして力を養える環境を作り出し、維持しましょう」
――今、アフリカに必要な支援は何でしょうか。大きな変化はありますか。日本やG7に求めることはありますか
「アフリカが必要とする最大の支援は経済的搾取を止めることです。G7はアフリカ大陸の状態に直接・間接的な責任を負っています。女性がさまざまな脅威や傍観者に脅かされることを可能にしている構造的不平等も含まれます。アフリカは敬意を持って扱われ、公平に扱われなければなりません」
「『アフリカを不当に扱っても何の問題もない』と公然と言われているのに、アフリカ大陸の性差に対処するというのはうぬぼれです。結局のところ、世界のリーダーの1人(トランプ大統領)は、アフリカを『シットホール(肥だめ)』と呼んで大陸への敬意を示しました(筆者注:これは皮肉です)」
「アフリカで起きていることを見ると正しい方向への変化がうかがえます。まだ高い職位に男性が就任するのが当たり前として受け入れられていますが、エレン・ジョンソン・サーリーフ(元リベリア大統領、アフリカ初の女性大統領)とサーレワーク・ゼウデ(エチオピア初の女性大統領)は多くの女性に希望を与えます」
「アフリカでは、テクノロジーの使用が増加しています。携帯電話からブロックチェーンが提供する機会まで。以前はアクセスできなかったかもしれないビジネスなどの機会に女性が参加するチャンスを生み出しています」
――日本のジェンダーフリーは中東並みに遅れています。日本の女性や政治家に何かアドバイスはありますか
「女性も闘わなければなりません。それは価値ある闘いです。あなたは男性より劣っていません。私たちのコミュニティー、私たちの国、そして世界の未来にとって非常に必要です。私たち女性を差別することは人類に対する犯罪です。なぜなら、それは私たち全員が達成しなければならない至高の未来を奪うからです」
「女性のあなたは強い。女性の強さを大切にすることが家庭内、あなたのコミュニティー、役員室から制度、国内および国際レベルまで必要なバランスをもたらします。現状に影響を与えるために他の女性を動員し続けてください」
――アフリカから先進国にやって来られてジェンダーフリーという観点から感じられる点はありますか
「私たちは髪の毛のために差別を受けることさえあります。私は職場で差別を経験しましたが、そこでは白人女性の方がキャリアを伸ばす機会に恵まれていました。こうした差別は黒人女性と白人女性の賃金格差にも影響を与えます」
「アフリカ系の黒人ビジネスウーマンは、ビジネスを成長させる野心、能力を欠いているという誤った認識があるため、金融やその他の機会へのアクセスは白人女性に自動的に集中します。白人女性は私たちへの扉を開かなければなりません」
「ステレオタイプは他人に対する差別を容易にします」
トランプ政権はG7で男女平等や気候変動に時間を割くことに不満を漏らしているそうです。
現在、安倍政権の閣僚19人のうち女性は片山さつき地方創生相1人だけ。安倍晋三首相が「女性活躍」を掲げ、16年には女性活躍推進法が施行されたものの、女性の政治参加はまったく進んでいません。
世界経済フォーラム(WEF)の2018年版男女格差(ジェンダーギャップ)報告書によると、政治参加の分野で日本は149カ国中125位。日本の1つ下はアフリカ南部のボツワナです。
・国会議員の男女比 130位
・閣僚の男女比 89位
・国家元首の在任年数の男女比 71位
(おわり)
取材協力:西川彩奈(にしかわ・あやな)日仏プレス協会副会長。1988年大阪生まれ。2014年よりパリを拠点に、欧州社会やインタビュー記事の執筆活動に携わる。ドバイ、ローマに在住したことがあり、中東、欧州の各都市を旅して現地社会への知見を深めている。現在は、パリ政治学院の生徒が運営する難民支援グループに所属し、欧州の難民問題に関する取材プロジェクトも行っている。