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「米国ゴルフのホームを作ろう」。ついに決まったコースはどこ?その背景は?

舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授
パインハーストで開催された2014年の全米オープンではマーチン・カイマーが勝利(写真:ロイター/アフロ)

 英国ゴルフの総本山と言えばR&A(ロイヤル&エンシェント・ゴルフクラブ・オブ・セント・アンドリュース)で、その本拠地は「ゴルフの聖地」セント・アンドリュースだ。

 一方、米国ゴルフの総本山はUSGA(全米ゴルフ協会)で、USGAの本拠地はニューヨーク郊外のニュージャージー州だ。そこにはヘッドクォーターのオフィスや博物館、図書館があるのだが、USGAの本拠となるゴルフコースは実を言えば存在していない。

 言うまでもなく、米国には世界的な有名コースが多々ある。たとえば、オーガスタ・ナショナルはマスターズの舞台、TPCソーグラスはPGAツアーのフラッグシップ大会であるプレーヤーズ選手権の舞台。しかし、開催コースが毎年変わる全米オープンを主催しているUSGAには、そのホームコースなるものが無い。

 よくよく考えてみれば、米国ゴルフの総本山であるUSGAにホームコースが無いというのは、おかしな話だ。

「米国ゴルフのホームを作ろう」

 そんな声が上がったことは決して不思議ではなく、むしろ遅すぎる感もあるのだが、ともあれ「米国ゴルフの総本山」となるコースが、ついに決まり、発表された。

【総本山にも足場が必要】

 全米オープンや全米女子オープン、全米アマチュア、全米ジュニアなど米国ゴルフのナショナル大会を主催するUSGAにとって、そうした大会ごとに現場へ出向き、大会運営の指揮を執ることは重要な任務だが、そのたびに大勢のスタッフを移動させ、滞在させるための経費や労力は多大だ。

 10年先、20年先まで、さまざまな大会の開催地を探しては動かしていくことには大きなリスクも伴う。

 いろんな意味で先が見えないこの世の中だからこそ、USGAのホームコースを作り、そこを足場に活動していくべきではないか。そんな議論と検討を重ねた結果、USGAの本拠となるホームコースとして選び出されたのは、ノース・カロライナ州の名門、パインハーストだ。

 USGAとパインハーストの付き合いは、実に125年超に及ぶという。これまで全米オープンや全米女子オープンなどのナショナル大会の舞台に何度もなり、数々の名勝負、名場面がその土と芝の上で繰り広げられてきた。

 戦略性の高い10コースを擁するリゾートには広大な土地と空間がある。とりわけ、名匠ドナルド・ロス設計のパインハーストNo.2は世界中のゴルファーが憧れる難コースだ。

 1999年の全米オープンではペイン・スチュワート(故人)とフィル・ミケルソンの熾烈な優勝争いがゴルフファンの視線を釘付けにした。

 史上初めて男女の全米オープンを2週連続で開催した2014年大会では、男子選手のマーチン・カイマーがトロフィーを掲げた翌週、女子選手のミッシェル・ウィーが涙の優勝を果たした。

「とにかく、パインハーストは素晴らしい」

 USGAのマイク・デービスCEOは手放しで絶賛している。

【5年に1度は全米オープン】

 USGAは、これからパインハーストにオフィスを設置し、ニュージャージー州の現在のヘッドクォーターに併設されているものと同様の博物館も建設する予定で、完成は2023年12月になる。だが、NYの企業やメディアなどとの連絡等々、事務的な作業を継続していく意味でニュージャージー州のオフィスは今後もそのまま残すつもりだという。

 

 何より気になるのは、パインハーストがUSGAのホームコースとなることで、今後の全米オープン開催地がどうなるのかという点だ。

 USGAによると、今後は5~6年に1度は男子の全米オープンをパインハーストで開催する予定だそうで、次回は2024年。その後は2029年、2035年、2041年、2047年がパインハースト開催の全米オープンとなる。

 パインハーストが米国ゴルフの総本山USGAのホームコースとなり、全米オープンが他コースのどこよりも多くパインハースト開催されることで、彼の地にもたらされる経済効果は44億円超と試算されている。

 未来のメジャー・チャンピオン、未来の全米オープン・チャンピオンを目指すなら、これからはパインハーストで腕を磨くべし。ジュニアゴルファーの指導者たちは、すでにそう考え始めているはずである。

「これぞ、アメリカン・ゴルフのホームだ」

 

 USGAのチーフ・ブランディング・オフィサー、クレッグ・アニス氏は、誇らしげにそう言い切る。

 ゴルフにも、ゴルフの総本山にも、マーケティング戦略、ブランド戦略、そして大きな決断と素早い対応が求められる時代。

伝統と格式を誇る総本山といえども、そういう時代の中でのサバイバル合戦の真っ只中にある。

ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年に独立。1993年渡米後、25年間、在米ゴルフジャーナリストとして米ツアー選手と直に接しながら米国ゴルフの魅力を発信。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。2019年からは日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして多数の連載を持ち、執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、武蔵丘短期大学客員教授など活動範囲を広げている。ラジオ番組「舩越園子のゴルフコラム」四国放送、栃木放送、新潟放送、長崎放送などでネット中。GTPA(日本ゴルフトーナメント振興協会)理事。著書訳書多数。

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