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MLBに反旗?エンゼルスがマイク・トラウトを擁護する声明を発表した理由

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
MLBを代表する選手だからこそ時には風当たりが強くなることもある(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 エンゼルスが現地18日、マイク・トラウト選手に関する声明を発表した。その声明はチーム公式サイトやツイッター上でも公開されている。

 長文ではあるが、その内容は以下の通りだ。

 「エンゼルスおよび世界中の野球ファンを代表し、今回もオールスター戦でも素晴らしいパフォーマンスを披露したマイク・トラウトを称えたい。

 

 マイク・トラウトは野球界を代表する理想的な大使だ。彼は素晴らしい才能と性格を併せ持ち、世界中の子供たちにとって完璧ともいえる社会的規範になっている。そして毎年のように球団のため、MLBを広めるため、時間を惜しまず最大限の努力をしている。彼は現在もコミュニティ活動に参加する道を選び、病院、学校を訪れ、数え切れないチャリティにも参加している。人々が彼を心から敬服する理由の1つは彼の謙虚さに他ならない。彼のブランド力は注目すべき野球選手、チームメイトである一方で、本拠地のみならず遠征地でも常にファンとの時間を優先する姿勢に基づいている。

 それに留まらず、マイクは夫として、息子として、兄弟として、叔父として、さらに友人としても素晴らしい人物でもある。我々は商業的な個人的なプロモーションなど意に介せず、しっかり自分の価値を優先させる彼を心から賞賛したい。それは現代社会では希有な存在であり、彼の類い希な才能と同様に際立つものである」

 まさにトラウト選手を全面的に支持する姿勢を表明する内容だが、なぜこんな声明を発表することになったのかというと、エンゼルスからMLBのロブ・マンフレッド=コミッショナーに向けた皮肉を交えたメッセージなのだ。

 すでに各メディアが報じていることだが、オールスター戦期間中にマンフレッド=コミッショナーがトラウト選手について聞かれ、「彼は(より高いブランド力を得るために)しっかり取り組んでいく必要がある。時間と努力が必要だ」と批判とも受け取れる発言をしたことで注目を集めていた。つまりエンゼルスの声明は、コミッショナーの発言を真っ向から否定しているのだ。

 トラウト選手がすでに球界を代表するスター選手であることは誰もが認めるところだ。2009年にエンゼルスからドラフト1巡目指名を受ける逸材で、わずか19歳でMLBデビューを飾った。2012年から先発外野手に抜擢されると、ここまで新人賞、MVP2回、7年連続オールスター戦出場──と順調にスター街道を歩んできた。現在も右打者としてMLBトップの通算755本塁打を記録しているハンク・アーロン氏を上回るペースで本塁打を打ち続けており、すでに“MLB史上最強の右打者”との評価も出ているほどだ。

 ただグラウンド以外でスポットライトを浴びることに興味がないようで、エンゼルスの地元紙が報じたところでは、米国の超人気ニュース番組からの特集を拒絶したこともあったようだ。その一方でMLBとしては、リーグのマーケティング力を高める上でもスター選手の台頭は歓迎すべきことだ。まさにトラウト選手は格好な存在なだけに、マンフレッド=コミッショナーからすれば彼の姿勢にやや物足りなさを感じているためなのか、前述の発言に繋がったというわけだ。

 だがエンゼルスからすれば、そうしたトラウト選手の姿勢、性格そのものが「現代社会では希有な存在」として尊ぶべきものであり、彼だからこそ子供たちの「完璧な社会的規範」になれているのだ。今回の声明は、昨年は史上初めてリーグの収入額が10億ドルを突破し、マンフレッド=コミッショナーの下で商業主義化が加速していくMLBに疑問の声を挙げたものだともいえないだろうか。

 あくまで個人的な意見だが、マンフレッド=コミッショナーが主張するように、トラウト選手のブランド力を高めるのは彼が率先してスポットライトを浴びることではないだろう。チームが全米中の視線が注がれるプレーオフに進出し、いつものようにチームを勝利に導くような活躍をすれば、自然と認知度が上がっていくものだ。残念ながらトラウト選手は2014年シーズンに一度だけ(しかも地区シリーズで敗退)しかプレーオフに出場できていない。こればかりは彼1人の力では如何ともしがたいことなのだ。

 いずれにせよ理不尽ともいえる批判を浴びてしまうのも、誰もが認めるスター選手だからこそ抱えるジレンマなのかもしれない。ただ当のトラウト選手はいたって冷静で、エンゼルスを通じて以下のような声明を発表している。

 「自分のところにマンフレッド=コミッショナーの最近の発言について多くの質問が届いている。自分は狭量な人間ではなく、とにかく皆さんにも前を向いてほしい。自分とコミッショナーの関係に問題はない。これでこの話は終わりだ。自分はプレーする準備ができている」

 まさにトラウト選手らしい対応ではないか。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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