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クソリプ、今と昔

森井昌克神戸大学 名誉教授
(写真:アフロ)

「クソリプ」という言葉を聞いた事はあるでしょうか。これは「クソのようなリプライ」の略で、どうでも良い、ほとんど意味のない返信という意味です。ツイッター等のSNSで、一言だけ意味のない返事や、「当然だろ」とか「馬鹿か」等の誹謗中傷の類いを付けて返信する場合です。SNSでは「話し言葉」と同様、簡単に返事ができることから、実際の会話と同じように、意味のない返事が書き込まれがちです。F2F(フェイス ツー フェイス)の会話の場合、言葉以外に表情や仕草、それに周りの環境を共有している事から、意味のない返事も、様々な隠れた意味を醸し出すことができるのですが、単なる文字だけの通信ではそうはいきません。特に、1対1や、限られたグループ内での閲覧であるならば許されるでしょうが、フォローした相手と馴染みがない場合、あるいは不特定多数に向けての閲覧である場合はフォロー元に不快感を与えるだけでなく、ゴミのような不必要な書き込みを増やすだけです。自己、とくにその存在を主張したい気持ちはわからなくはありませんが、明確な目的がない限りは控えるべきでしょう。

インターネットが使われだした20年ほど前、「チェーンメール」が大きな問題になりました。チェーンメールとは文字通り、鎖のように次々とつなげていくメールです。インターネット出現以前の30年、40年以上前の郵便での情報交換の時代、「不幸の手紙」というものが流行った時期がありました。様々な形式があるのですが、基本的にはハガキが突然送られて、数日以内に複数人に同文面のハガキを送らなければ不幸になるというものです。ハガキを受け取った人が3日以内に3人へ送ったとすれば、理論的には一ヶ月後には約6万人に、二ヶ月後には35億人に届く事になります。

チェーンメールでは、不幸の手紙と同じように次々とメールを送っていくのです。ただ、手口、つまり文面は大きく変わりました。「友人の妹が難病で苦しんでいます。特殊な血液型の献血が大量に必要です。このメールを出来るだけ多くの人に回してください」というものです。受け取った人は善意から多くの人に配送する事になりました。ハガキと異なるのは、より簡単に数多くの人にメールを送る事が出来ることです。結果として、数時間のうちに大量のメールが行き来する事になりました。メールのスプール(メールを一時的に保存する、個人の郵便箱のようなもの)が溢れ、通常のメールが届かなくなったのです。同じ内容のメールが一日に百通近く届く人も現れ、仕事にも差し支えるようになったのです。

現在でもメールだけではなく、ツイッターやLINE等のSNSでも「拡散希望」と書かれ、様々な文面でチェーンメールが溢れる場合があります。拡散希望と書かれた内容でも、コンピュータウイルスや詐欺等に関わるURLにリンクが貼られている場合もあり、よく考えて拡散すべきです。善意を利用する悪人はインターネットにも存在し、あなたは善意のつもりでも、メールやSNSで被害を受けた他人には悪意となる場合もあるのです。

神戸大学 名誉教授

1989年大阪大学大学院工学研究科博士後期課程通信工学専攻修了、工学博士。同年、京都工繊大助手、愛媛大助教授を経て、1995年徳島大工学部教授、2005年神戸大学大学院工学研究科教授(~2024年)。近畿大学情報学研究所サイバーセキュリティ部門部門長、客員教授。情報セキュリティ大学院大学客員教授。情報通信工学、特にサイバーセキュリティ、情報理論、暗号理論等の研究、教育に従事。内閣府等各種政府系委員会の座長、委員を歴任。2018年情報化促進貢献個人表彰経済産業大臣賞受賞。 2019年総務省情報通信功績賞受賞。2020年情報セキュリティ文化賞受賞。2024年総務大臣表彰。電子情報通信学会フェロー。

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