ANAホールディングス、空中発射衛星打ち上げロケット企業ヴァージン・オービットと提携
2019年6月6日、ANAホールディングス株式会社は、実業家リチャード・ブランソン氏が設立したロケット企業Virgin Orbit(ヴァージン・オービット)と衛星打ち上げ用小型空中発射ロケットの日本・アジア展開に関する契約を結んだと発表した。
合意に基づき、ANAホールディングスは、ヴァージン・オービットが日本やアジアで打ち上げサービスを実施するための輸送支援や、航空機、航空機牽引車などの地上支援機材の整備、運航支援などで協力するための協議を始めたという。
ヴァージン・オービットはブランソン氏が手がける宇宙旅行企業ヴァージン・ギャラクティックから分離する形で、2017年に衛星打ち上げサービス専門企業として設立された。ボーイング747-400型機(愛称コズミック・ガール)から小型ロケットLauncher One(ランチャーワン)を空中発射し、500キログラム(SSO:太陽同期軌道へは300キログラム)までの小型衛星を軌道に投入できる。打ち上げ価格はSSOの場合1キログラム当たり4万ドル(約430万円)とされる。
ランチャーワンは2019年中に初打ち上げを目指し、開発が進んでいる。すでにNASAから超小型衛星の打ち上げ委託契約も結んでいるほか、ソフトバンクが出資する低軌道通信衛星網OneWeb(ワンウェブ)衛星の打ち上げも行う予定だ。
近年、小型衛星専用の打ち上げロケット開発の競争が世界で激化しており、日本では小型衛星専用ロケット開発を目指すインターステラテクノロジズ(IST)が、試験機MOMO3号機による高度100キロメートル超えに成功した。70社以上あるといわれる小型ロケット開発計画の中で、ヴァージン・オービットは同じ米カリフォルニア州発のRocket Labsと並んでもっとも有望な企業とされている。2019年5月には地上燃焼試験に成功し、コズミック・ガールにロケットを搭載した状態での飛行試験も成功したという。
専用の打ち上げ射場を必要とする小型ロケットに対し、航空機からの空中発射であるランチャーワンは、既存の空港を利用した施設から打ち上げが可能で需要に合わせて柔軟に拠点の追加ができる。本拠地である米カリフォルニア州のモハーヴェ空港&宇宙港に加え、6月4日には英イングランド南西部のコーンウォールから2020年初頭に打ち上げを開始する契約を発表したばかりだ。
ANAホールディングスの発表によれば、ヴァージン・オービットが日本でサービスを行う最適な打ち上げ場所の選定に向けて、一般社団法人スペースポートジャパン(SPJ)が協力しているという。SPJは宇宙飛行士の山崎直子氏が代表理事を務める、日本のスペースポート (宇宙港)設立を目指す団体。理事にはANAホールディングスの鬼塚慎一郎氏が就任している。民間ロケット開発企業の増加と共にスペースポートと呼ばれる民間打ち上げ射場の開設が米国で進んでおり、英国、イタリア、ニュージーランドも続いている。日本でスペースポートを開設する場合、開設の許認可に関わる専用の法律がなく、2018年11月に施行された宇宙活動法の中で、ロケット打ち上げを実施する際に付帯設備として審査することとなっている。こうした背景から、航空機を利用し設備面で柔軟なヴァージン・オービットのランチャーワンを誘致することで、スピード感あるスペースポート実現を目指すねらいもあると考えられる。