プーチン大統領、ロシア独自のゲーム機や配信システム開発の検討を指示。過去には貴重なゲーム博物館を破壊
ロシアのプーチン大統領は、ロシア独自のゲーム専用機とSteamのようなゲーム配信プラットフォーム開発を検討する計画に署名しました。これはリトアニアとポーランドに挟まれ、ロシア本土から離れている“飛び地”カリーニングラードの社会・経済発展を促進する9つの指示の1つという位置づけ。
もともと会議が行われたのは1月下旬でしたが、プーチンが承認したのは3月25日のこと。実行責任者はミハイル・ミシュスチン首相その人であり、6月15日までの締め切りを設定しています。
ロシアがウクライナに侵攻してからというもの、ゲーム大手各社はロシアから次々と撤退しました。ソニーのPlayStationもマイクロソフトのXboxもソフトウェアおよびハードウェアの出荷を停止し、現地でのオンラインサービス(ダウンロードゲーム販売等)を停止。
任天堂も物流の混乱や、決済業者が通貨ルーブルの取り扱いを停止したためとして、やはりロシアでの事業を一時停止。また戦争戦略シミュレーションゲーム「Advance Wars 1+2: Re-Boot Camp」についても「昨今の世界情勢に鑑みて」発売を延期したことがあります(後に発売)。
ゲーム機に使うチップはどうやって調達?
さて今回、プーチン氏が下した指示は「据え置き型と携帯型ゲーム機の生産を構築する問題を検討:ゲーム機及びゲームとプログラムをユーザーに配信するためのOSとクラウドシステムの作成」というものです。
最近ではゲーム販売の多くの部分はダウンロード版に占められているため(特にXbox)ゲーム専用機とセットでクラウドシステム、つまりオンラインでのデジタル販売も実現せざるを得ないのでしょう。
が、ロシアに対する経済制裁により、AMDやNVIDIA、インテル製チップは2年前からロシアへの販売を停止しています。トルコなどロシアと近しい第3国を経由した迂回ルートはあるようですが、それでも輸入できる量は限られているはず。
これら米国企業のチップ抜きに携帯ゲーム機や据え置きゲーム機を作ることは不可能ではないにせよ、かなりハードルが高くなるはず。もしも第3国経由で入手したとすれば、転売分のコストものし掛かり、最終的な価格を押し上げることでしょう。
一応ロシア国内にもBaikal ElectronicsというCPU開発企業はありましたが、2023年8月に倒産。さらにいえば、実際のチップ製造は韓国サムスンや台湾TSMCに委託しており、仮に健在だったとしても何の力もなかったかもしれません。
膨大なレトロPCやゲーム専用機を集めた博物館を破壊
そもそもロシアでは、家庭用ゲーム大手3社が撤退する以前から、ゲーム専用機にあまり人気はありませんでした。
しかし、PCゲームプラットフォームのSteamはロシアの銀行やクレジットカードに対応しなくなったことで事実上の停止、Epic Gamesもウクライナ侵攻の直後にロシアとの取引を停止。そのためロシアのゲーマー10人中7人は海賊版ゲームを買ったとのアンケート結果も出ていたほど。
ロシア政府がどれほど本気なのか、不満の高まるゲーマー達を宥めて人気を得るためにポーズを示しただけなのかは不明です。
が、仮に新たなゲーム機やゲーム配信プラットフォームが誕生するとしても、その前にロシア軍は「ゲームの歴史」に対して取り返しの付かない大ダメージを与えています。
それはウクライナに侵攻してまもなく、マリウポリにあった個人運営のゲーム博物館「Club-8bit」を破壊したことです。500を超えるレトロPCやゲーム専用機など、15年近くにわたって集められたコレクションが爆弾により失われてしまいました。
このゲーム博物館には、旧ソ連が開発した独自のPCまで集められていたと数年前の取材で語られていました。
プーチン氏は新たなゲーム機の開発を命じる前に、まずゲームの貴重な歴史的資料を永遠に葬り去ったことの謝罪が求められそうです。